ドローンの主な活用方法の1つとして、空からの撮影(空撮)があげられます。ドローンの普及により、空撮が以前よりも容易にできるようになり、また、インターネット上の動画投稿サイトに、ドローンで撮影した動画が投稿される機会も増え、さらにはドローンによる空撮に特化した動画投稿サイトも登場しています。
Dronetube
一方で、従来のビデオカメラ等で撮影するのが困難であった視点からの撮影が容易になったことにより、権利侵害の問題が生じやすくなっています。
通常であれば、人の視界には入らないものも、上空からは撮影が可能であるため、撮影やインターネット上での公開に伴うプライバシー権等の侵害の危険性は高くなるといえます。
空からの撮影自体は、ヘリコプターを利用するなどして従来も可能でしたが、より安価かつ簡便な方法であるドローンの普及により、その機会が今後増えていくと考えられます。
そのため、ドローンで撮影を行う際には、そうしたプライバシー権のおそれに十分注意すべきです。
プライバシー侵害してしまったら、どうなってしまうのでしょうか?実は、日本においてプライバシー権を規定した法律はありません。
なので、どのような場合にプライバシー権の侵害が認められるかについて、法律はありませんが、裁判例の積み重ねにより一定の基準が作られてきています。
プライバシー権侵害をしてしまった場合は、慰謝料などの損害賠償請求を請求をされたり、インターネット上になされた投稿の削除を求める請求をされる可能性があります。
撮影行為によってプライバシー権や肖像権の侵害が問題になった裁判例は、週刊誌等の報道機関による撮影や、証拠保全のための捜査機関による撮影が多く、産業目的での撮影や趣味での撮影が問題になったケースは少ない状況です。
もっとも、裁判まで至ることはなくとも、撮影が原因でトラブルとなることは十分に考えられますので、プライバシー権に配慮した撮影を行うことは重要です。また、インターネット上の情報発信に対する法的措置という観点からみると、インターネッ卜上の投稿等に対する発信者情報開示請求や削除請求の件数は年々増加傾向にあります。
したがって、プライバシー権を侵害する動画等が掲載された場合に、任意請求や法的措置がとられる可能性は十分にあります。
ドローンによる撮影が違法となるか否かについては、以下のような事情が考慮されます。
典型的なプライバシー権侵害の事案としては、人の住居の写真撮影及び公開があげられます。
写真撮影及び公開によるプライバシー権侵害が問題になったものとして、グーグルの提供する「ストリートビュー」の事例があります。
ストリートビューでは、地図上で指定した任意の場所の周囲360度の風景を写真で表示させることができますが、このサービスにおいて、ベランダに干していた洗濯物を撮影・公表された原告が、被告グーグル日本法人に対し、ストリートビューのための撮影行為、及びインターネット上での撮影画像の公開によって、プライバシー権が侵害されたなどとして損害賠償を求めた事案です。
この事件では、以下の点がポイントとなり、グーグルによる撮影や公開は違法とされず、原告の請求は認められませんでした。
もっとも、この裁判例は、ストリートビューという有益なサービス提供のためであっても、人の住居を撮影することが問題になり得ることを示したともいえます。ドローンによる撮影及び公開は、通常の撮影よりもプライバシー権侵害の危険性が大きいと指摘されていることを踏まえると、ドローンによる撮影及び公開においては、注意が必要です。
ドローンによる撮影においても、民家やその庭、マンションの一室など人の住居が写り込んでしまう場合があります。その場合、撮影行為や撮影後の公開が違法であるか否かの判断は、個別具体的に判断されます。
例えば、ドローンによる撮影で人の住居がたまたま写り込んだとしても、遠くからの撮影であって全体に占める割合が小さいような場合には、違法とならないことも多いでしょう。
しかし、他人の住居そのものを撮影対象として、比較的近くから、その内部を覗き見るような態様で撮影を行ったような場合には、プライバシー権の侵害となる可能性が高いといえます。
ドローンによって撮影された動画などをインターネット上で公開する際の基準としては、2015年9月に総務省が公表した「『ドローン』による撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン」があります。
このガイドラインの位置付けは、ドローンによる撮影映像等をインターネット上で公開する際の考え方を整理し、注意事項を取りまとめたものであり、一定の指針を示しています。
このガイドラインでは、人の顔やナンバープレート、表札、住居の外観、住居内の住人の様子、洗濯物その他生活状況を推測することができるような私物が撮影映像などに写り込んでしまった場合には、削除したり、ばかしを入れるなどの配慮をすることが求められています。
このような場合に特に配慮をすることなくインターネット上で公開したからといって直ちに違法となるわけではありませんが、事後のトラブルを防止する観点から、可能な限りこのような措置をとることが望ましいといえるでしょう。