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IT企業専門の弁護士が教える「契約書で確認すべき条項」とりあえずここをチェック!

契約書に関わる法律

取引において契約書は大事!特にIT企業やスタートアップにとっては専門の法務部があるわけではないので、自分達で契約書をチェックしないといけないときもあると思います。

それでは取引相手から契約書を突きつけられたら、どこをチェックしますか?

年間500以上の契約書を作成、チェックしている弁護士の私でさえ、契約書のチェックは、本当に神経を使います!そんな私から契約書チェックをするときに、とりあえずここだけ確認すべき条項を解説します。

契約書、とりあえずここだけチェック!

契約書は様々な形態があります。当然それぞれの契約書にチェックポイントがあるのですが、全ての契約書に共通するものとして、とりあえず、以下の項目を探してください!

  1. 代金などのお金周りの条項
  2. 契約解除条項
  3. 損賠賠償条項

これらの条項がなぜ重要かというと…これらは、きちんと見ておかないと、後から影響の大きい条項です!

もっと具体的にいうと…これらの条項を放っておくと、自社からお金が出て行く可能性が大きいのです。なので、これらの条項はちゃんとチェックしましょう!

① 代金などのお金周りの条項

まずはお金周りの条項はチェックが必要です。単純な誤記があるかもしれませんし、お互い認識の齟齬があるかもしれません。

金額については、自社の認識と異なるが金額が書かれていて、それにサインをしてしまったら、後から訂正することができなくなる可能性があります。これは納期の条項などでも一緒です。

代金や納期などの数字面は、間違いがないか十分に注意をしましょう!

② 契約解除条項

つぎは、契約解除条項についてです。突然ですが、問題です!あなたが乙の立場であったとき、以下の条項で問題となるのは、どこでしょうか?

第〇条 甲は、乙が次の各号のいずれかに該当するに至ったときは、甲はなんらの通知、催告を要せず本契約の全部又は一部を解除できるものとする。

(1) 自己振出の手形又は小切手が不渡処分を受ける等の支払停止状態となったとき。

(2) 差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立てがあったとき、又は租税滞納処分を受けたとき。

(以下、略)

気を付けるポイントは、2つです!

  1. 契約解除権の主体(誰が解除できるか)
  2. 解除できる範囲

上記条項で一番問題なのは「これ…甲からしか解除できない!」ということです。

乙は、甲が支払停止状態になったとしても…解除できないことになります。これはかなりの不平等契約です。なので、必ず契約解除の条項は、甲と乙ともに解除できるようにしてください!

契約解除条項の修正例

修正例は、こちらです。

第〇条 甲及び乙は、次の各号のいずれかに該当するに至ったときは、相手方はなんらの通知、催告を要せず即時に本契約の全部又は一部を解除できるものとする。

(1) 自己振出の手形又は小切手が不渡処分を受ける等の支払停止状態となったとき。

(2) 差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立てがあったとき、又は租税滞納処分を受けたとき。

さて次の問題です。以下の条項のうち、設立間もないベンチャー企業乙社の立ち場になったとき、問題があるのは、どこでしょうか?

第〇条 甲及び乙は、次の各号のいずれかに該当するに至ったときは、相手方はなんらの通知、催告を要せず即時に本契約の全部又は一部を解除できるものとする。

(1) 自己振出の手形又は小切手が不渡処分を受ける等の支払停止状態となったとき。

(2) 差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立てがあったとき、又は租税滞納処分を受けたとき。

(3) 破産、会社整理(任意整理を含む)開始、会社更正手続開始若しくは民事再生手続開始の申立てがあったとき、又は解散に至ったとき。

(4) 事業の全部又は重要な一部を第三者に譲渡し、又はしようとしたとき。

(5) 本契約に基づく債務を履行せず、相手方から相当の期間を定めて催告を受けたにもかかわらず、なお、その期間内に履行しないとき。

(6) 財産状態もしくは信用状態が悪化し、又はその恐れがあると認められる相当の事由があるとき。

こちらの条項は、ウェブ上にある契約書から引用しました。なので、法律上問題は何も問題がありません。ただ…設立間もないベンチャー企業乙社にとっては、問題があるのです!

問題になるのは「(4) 営業の全部又は重要な一部を第三者に譲渡し、又はしようとしたとき」解除されるという条項です。

なぜ、この条項が問題かというと、会社を経営していると「事業を整理する」「不採算部門を他の会社に移す」などして、存続を図るってことがよくあります。

特に動きの速いITベンチャー企業では、よく行われます!乙社が事業整理のため、不採算部門をカットして、「よし!これから!」ってときに、甲から「事業の一部を譲渡したよな?(4)に事業の全部又は重要な一部を第三者に譲渡したときに、解除できるって書いてありますよ」と言われたら、どうしますか?

なので、乙社としては(4)も削除したいです!

契約書が自社にとって不利になっていないか?

このように、契約書のチェックは単に法律的なチェックだけでなく、自社にとって、事業上も不利にならない(有利にする)という観点が、とても重要なのです

一つ言えるのは、契約書なんてググれば雛形あるし、大丈夫っしょ!って思っていると、痛い目に遭うということ。ネットに落ちている契約書の雛形は、あなたの会社のことなんて考えてくれていません。

あくまで雛形、サンプルです。雛形を参考にするのは良いですが、あくまで自社の現在の状況にカスタマイズすることを忘れないようにしましょう。

損害賠償の条項

損害賠償条項も非常に大事です。さて問題です!あなたは、「乙」の立場です。問題はないか確認してみてください!

第○条(損害賠償)

乙が本契約の各条項のいずれかに違反し、甲に損害を与えた場合、乙はその過失の有無を問わず、直ちにその損害(損害実費に加え逸失利益、訴訟費用、弁護士費用等)の全額を甲に賠償しなければならない。

わかりましたか?これ、乙にとっては、非常に危ない条項です。こんな契約書見せたれたら、その場で納得しちゃ絶対にダメです!

損害賠償の条項で確認するのは、以下の2点です。

  1. どういった場合にペナルティを負うのか。
  2. どこまでの範囲の賠償をするのか。

その観点から、この条項をみると、「その損害(損害実費に加え逸失利益、訴訟費用、弁護士費用)の全額を甲に賠償しなければならない。」これは乙にとっては不利な条項です。

つまり損害を受けた額(損害実費)だけでなく、「逸失利益、訴訟費用、弁護士費用」まで賠償しないといけないとされています。

こうなると、損害の範囲も青天井になってしまう可能性があります。

このように、契約書では少しでも自社に有利になるように、さりげなく、自社にとって不利な条項を入れてくる場合が多々あります。後から「知らなかった」は通用しません。しっかりチェックしましょう!

さらに先ほどの条項は、乙にとって不利益な規定がまだあります。「乙はその過失の有無を問わず」となっています。

通常、損害賠償は故意(わざとやってしまった)という場合か、過失(うっかりやってもうた)という場合に生じるのです。自分に故意も過失もない場合には、損害賠償責任は生じないんです!(例外も、ありますが)

なのに「過失の有無を問わず」という条項は、乙からしたら、かなり危険です。こういう契約書にうっかりサインしちゃうと、本来なら責任を負わなくてよい場面でも、自社が責任を負うことが考えられます。

契約書で一方的に不利な条項は有効なの?

今まで見てきた通り、契約書は、少しでも自社に有利にしようと色々な条項を規定しています。しかし契約書で何をやってもいいってわけではありません。そこには、一定のルールがあります!

例えば、上記条項で、乙が会社でなく、個人の場合であれば、どうでしょうか?

会社と個人が、契約の当事者になる場合には、消費者契約法という法律が、適用になる場合があります。消費者契約法では、民法などの法律と比べて、消費者の利益を一方的に害する条項を無効としています。

損害賠償は、民法上、故意・過失という場合に生じるのです。

なので「乙はその過失の有無を問わず」という条項は、乙が「消費者」に当たる場合には、無効になってしまう可能性が高い!消費者からすれば、うっかり上記契約にサインをしても、無効を主張できることになるのです。

また法人間の契約でも、例えば取引金額大きくないのに、違約金1億円などの極端に相手方に不利益な条項は無効になる可能性があります。

契約書の作成、チェックは慎重に!

以上のように、契約書のチェックや契約書を作成をする場合には、様々な観点を考慮する必要があります。

また今回挙げた条項は、ほんの一例で、それぞれの契約書ごとにチェックポイントはありますし、個々の取引ごとにカスタマイズしないといけないことも出てきます。

そしてあまり自社に有利過ぎても、無効になってしまうかもしれないし、何より相手方との関係も壊れてしまうかもしれません。

そのような中、どこまで規定していくのか、修正していくのか、それを試されるのが契約書なのです。

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