AIの進化により、人間の仕事がなくなるなどと言われています。
AIにより仕事全体が代替され、企業のなかである特定の部門すべてが不要になる場合、あるいは業務の一部が代替されることによって従来より少ない人員数しかいらなくなった場合でも、直ちに従業員を解雇できるわけでありません。
では、従業員を従来の業務から、他の業務に変えるなどの配置転換をすることはできるのでしょうか?
配置転換には、同一勤務地(事業所)内で所属部署が変更される場合、勤務地が変更される場合(いわゆる転勤)が含まれます。
企業がどのような場合に配転を命ずることができるかは、従業員との間で職種や勤務地を限定する労働契約となっているかどうかで異なります。
労働契約の締結時あるいは締結後に、雇用主たる企業と従業員との間で、職種や勤務場所が特定され合意されている場合には、職種や勤務場所の変更は労働契約の内容の変更であるため、労働者の同意なく企業が一方的に配置転換を命ずることはできません。
この場合、労働者は自分の意思に反して違う職種や勤務場所に配置転換されることはありません。
したがって、職務や勤務場所が限定された労働契約として雇用された労働者は、AIなどの自動化技術により仕事が代替される場合でも、自らが同意しない限りは配転を受けることはありません。
ただし、職種や勤務地限定の合意は、採用時に募集広告・求人票・採用通知書において職種や勤務場所が明記されているだけでは成立せず、また、特別の訓練・養成を経て一定の技能・熟練を修得し、長い間その職種や勤務場所に従事してきたとしてもそれだけで認められるわけではありません。
むしろ、日本の企業では、長期雇用を前提とした正社員は、職種や勤務地を限定せずに採用し、企業内の人員調整や従業員の教育・訓練等の意味合いで広範囲な配転が行われるのが通常です。
このような職種や勤務地を限定しない労働契約を締結している従業員との関係では、判例は、企業が労働者の賃金を維持する限りは、従業員の個別の同意なしに配置転換を認めることができる配転命令権を広い範囲で認めています。
配置転換は、会社側に広範囲に認められるのですが、無制限に認められるわけではありません。
上記のように特段の事情がある場合には無効になるとされています。
しかし、判例は、何らかの合理性があれば業務上の必要性を広く認め、不当労働行為に該当する場合や差別的意図・嫌がらせ等の「不当な動機・目的」をもってなされた場合等、限定的な場合にしか無効としません。
また、判例は、転居や家族との別居を伴う配置転換も、労働者に対し、著しく超える不利益とはいえないとし、無効とはしませんでした。
これに対し、賃金の低い職種に配転することで労働者の賃金を引き下げる配転命令は、原則として労働者の同意なしには認められないと考えられます。
配転命令と降格が同時に行われ、降格によって賃金が引き下げられる場合には、その配転命令は降格の要件をも満たす必要があり、その要件を満たさない場合には、配転・降格が一体として無効となります。
以上の通り、企業側には、当該労働者の賃金を維持する限り、配置転換を命ずる広範な裁量があるといえます。
AIなどの自動化技術の導入によりある職種の仕事がなくなった、あるいは人員削減を余儀なくされた場合には、労働力の適正配置等の業務上の必要性があるとして、当該職種に従事する労働者をこれまでの業務とまったく関係のない他の職種に配置転換することも基本的には認められると考えられます。
このように、広範な配置転換権を認められている一方、企業から労働者を解雇することが、厳しく制限されています。
よって、AIなどの自動化技術で代替される労働者についても、まずは配置転換で対応するという現実的でしょう。