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IPO(新規上場)を目指す企業がチェックすべき労働時間問題

労働案件の法律

IPOやバイアウトのために、チェックすべき労働時間

上場とは、多くの人々の投資対象になることであり、安定的で継続的な収益基盤とリスク軽減が求められます。

人事労務管理において求められることは、経営活動が安定的に継続的に収益基盤を有すことができるための適正な人員確保と、経営に重大な影響を与えないよう未然にリスク回避ができる法令遵守の体制整備です。

企業として上場準備に向けて、チェックすべき項目をみていきましょう。

残業代および残業時間

企業経営に重大な影響を与えないよう未然にリスク回避ができる法令遵守の体制整備が必要だが、最もハードルが高いのが、残業代および残業時間です。

未払残業代の清算

上場準備の人事労務管理において、最大の難関は未払残業代の清算です。

多くのベンチャー企業が未払残業代を抱えていると思われます。2017年にはヤマト運輸が総額230億円もの未払残業代を清算すると発表し世間をにぎわせたが、もし清算せずに上場し上場後に多額の未払残業代を請求されれば、予定外の支出が発生し当初の予実どおりには遂行できず、業績予想等の修正を余儀なくされる可能性があります。

だからこそ、IPOをめざす企業では、IPO前に未払残業代を清算しなければいけないのですが、そもそも労働者の労働時間に関する記録等の勤怠管理を行っていないため、未払残業代がいくらになるか計算できなかったり、資金が用意できなかったりとなかなか積算が進まないことが多いです。

残業代請求の時効は3年であるため、多数の労働者に3年間遡及して支払うとなると、その金額は莫大なものとなりかねないため、企業にとっては死活問題とすらなりえます。

勤怠管理

勤怠管理とは、使用者が労働者の就業状況を適正に把握することをいいます。

具体的には、出退勤の時刻、時間外労働の有無およびその時間、年次有給休暇の取得の状況等がその対象となります。

勤怠管理は、タイムカード等に記録することのみが目的ではなく、法定の時間外労働の限度時間と健康が確保できる範囲を超えないようにすることも目的です。

ベンチャー企業においてはそもそも勤怠管理をしていない企業も多いが、労働時間の把握は使用者の義務であり、厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日)に従って行われる必要があります。

残業時間と36協定

36協定(サンロク協定またはサブロク協定)とは、労働時間の基本的な上限は、1週40時間、1日8時間と定められているが(労働基準法32条)、それを超える労働を命じる場合には、労使協定を締結する必要があり、結果として締結された協定のことをいいます。

基本的な36協定の1月の上限残業時間は、45時間が上限です。

特別条項を定めると45時間以上可能ですが、2018年の労働基準法改正により、上限を100時間(2か月~6か月の平均は80時間)とする罰則つきの上限規制が設けられました。加えて、特別条項の発動による上限の拡大は「年6回」までであることに注意が必要です。

さらに、36協定の範囲内であれば限界まで残業をさせてよいというものでもなく、労働者の健康確保の点からも考える必要があるため、多忙な上場準備中においても、労基署から長時間労働を是正するよう指導が入ることもありえます。

人員を強化し、36協定の範囲内の残業時間でも耐えうる継続的な組織を構築することが求められるのです。