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IT企業がリファラル採用をする際の注意点【労働基準法と職業安定法】【2024年1月加筆】

社員の紹介による採用(リファラル採用)のメリット
昨今、人手不足が深刻になっています。特に、スタートアップ・ベンチャー企業では、採用に苦労しているところが多いです。
新型コロナウイルスの影響で、人員を削減しているところも多いですが、人員を募集しているところもたくさんあります。
また、せっかく採用しても、ミスマッチによりすぐに退職してしまうということも少なくありません。
そのようななかで、すでに自社で働いている社員の友人・知人を紹介してもらい、採用につなげることができれば、人材紹介会社に高額な紹介料を払わずとも、信頼のできる人を採用することができます。
また、すでに自社で働いている社員の紹介であれば、自社のことをよく知ってもらってから入社してもらえる、ということもあり、ミスマッチを防ぐこともできるのです。
社員紹介制度(リファラル採用)の問題点
このような社員紹介制度は「リファラル採用」とも呼ばれ、スタートアップ・ベンチャー企業でも関心が高いところです。
弊社では、グローウィル社労士事務所(https://it-sharousi.com/)も運営しているので、多数の相談が寄せられています。
しかし、何点か問題点もあるので、それを解説していきます。
労働基準法上の問題
労働基準法には、「何人も法律にもとづいて許される場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」という規定があり、いわゆる職業紹介事業者として法律にもとづく許可を得ていない場合には「業として」、簡単にいえばビジネスとして職業紹介をすることは禁止されています。
この「業として」ということの判断基準としては、「反復して継続的に行なっている場合」が問題となります。
つまり、「ある1人の社員が、大量に毎月のように誰かを紹介してくれる」というような実態になっていると、その人は「業として」、つまりビジネスで職業紹介をしているのではないか、とみされるリスクが高まります。
職業安定法上の問題
職業安定法には、「労働者の募集を行なう者は、その被用者で当該労働者の募集に従事する者または募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合または第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない」という規定があります。
この規定を要約すると、労働者の募集に従事する従業員に対して「報酬を与えること」は原則として禁止されているのですが、「賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合」には例外として禁止ではないという解釈になります。
つまり、人材紹介などの生業に対して報酬を払うというのではなく、就業規則・賃金規程に規定されているような賃金・手当的な性質のものであれば、OKということになります。
労働基準法上も職業安定法上も、ビジネス色が濃くなると違法になってしまうので、そうならないような制度設計が必要ということになります。
適法な社員紹介制度(リファラル採用)の導入のしかた
では、どのような点に気をつけて社員紹介制度を導入すればよいのでしょうか。そのポイントをいくつかあげておきましょう。
支給金額の設定
紹介者への紹介料の給付金額が、一般的な相場に比べ多額の場合は、報酬としてみなされやすくなります。
明確な基準はありませんが、10万~30万円程度であれば多額ではないため、問題となるリスクは少ないと考えます。
たとえば、紹介報酬を100万円などとした場合、転職エージェン トに支払う金額(採用予定者の年収の35%程度)に近くなるため、報酬として判断される可能性が高まります。
賃金規程に明記する
社員に社員紹介料という形で支払うのではなく、「会社に必要な人材を紹介したこと=会社の必要な業務遂行に貢献したこと」に対して支払う手当という意味合いで、「社員紹介手当」のようにして、賃金規程に明記することで報酬という意味合いが薄れ、逆に賃金性が増します。
社員紹介制度でお金を渡したいとなった場合には、必ず賃金規程に明記して明確化しましょう。
また、賃金規程に規定する際の「支給要件」には、「社員紹介手当を支給するのは3人までの紹介に限る」といったように紹介人数に上限を設けると、業として行なっているとみなされるリスクは減るので、こうした定めを賃金規程に織り込むことも一案です。
【給与規程の規定例】
(社員紹介手当)第○条 会社は、社員(役員を除く)が知人等を会社に紹介し、採用に結びついた場合には、社員紹介手当として100,000円を支給するものとする。
2 当該手当は、紹介手当の対象となった社員が入社後3か月継続勤続した場合に支給する。
3 当該手当の支給は、社員1人につき3人の紹介までに限るとする。
所得税や社会保険の取扱いにも注意
こうしたリファラル採用の社員紹介手当は、社会保険上も税法上も賃金に該当します。
そのため、所得税の課税対象となりますし、社会保険の標準報酬額にも加味する必要があり、所得税・社会保険料の金額が上がることにもなるので、その点も注意が必要です。