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社員を在宅勤務にした場合、通勤手当の支払いをする必要があるのか【IT企業と労務】【2024年2月加筆】

労働案件の法律

社員を在宅勤務している会社が増えている

コロナウイルスの影響もあり、社員を在宅勤務にしているIT企業が増えています。

ある企業では、1か月間まるっきり従業員を在宅勤務としている会社もあります。

従業員を「在宅勤務」にした場合、通勤手当は支払わなければならないでしょうか。

賃金規程の規定の仕方をポイント

通勤手当を支払うかどうかは、賃金規程は、定め方によります。

例えば、通勤手当を交通費の「実費」の趣旨として支給する旨の規定がある場合は、通勤手当の支払いは不要です。

法律上、会社は、交通費の支払いは必要ありません。

しかし、会社が人材獲得や福利厚生の観点から、独自に基準を設けて支給しているのが通勤手当です。よって、この通勤手当は、会社側と社員間の労使の合意(賃金規程)に基づきます。

多くの会社では、賃金規程に通勤手当の支給ルールが規定されているので、その内容を確認する必要があります。

通勤手当の規定で、交通費の「実費」として支払うことが明記されている場合

通勤手当は、従業員ごとに、その利用する公共交通機関の種類、経路を申告させ、会社が距離、料金から判断し、その経路に相当する額を支給するのが一般的です。

具体的な条項例としては、「通勤手当は、通勤に公共交通機関を利用する者に対して、その運賃、時間、距離等の事情に照らし、会社が最も経済的かつ合理的と判断した通勤経路及び方法によって算出し、支給する」と規定している場合です。

これは、通勤手当が、交通費の「実費」の趣旨であることが明確な場合です。

1か月の在宅勤務により実費が一切発生していない以上、通勤手当の支給は不要となります。

なお、会社によっては、定期代の6か月相当額をあらかじめ支給しているケースもあります。そのような場合には、定期の払い戻しが必要になります。払い戻しに関しては社員の判断に任せず、会社で指示することが必要です。

「1か月定期代」などの支給が規定されている場合

上記と同じように、通勤手当が交通費の「実費」の趣旨であることは同じであるものの、賃金規程で、「1か月定期代」などと特定されている場合はどうでしょうか?

この場合でも、通勤手当が通勤費の実費として、規定されているので、在宅勤務により実費が一切発生していない場合は通勤手当を支給する必要はありません。

問題は、週1回は出勤日があるなどの場合です。

賃金規程に、会社が、実費の支払いとして、1か月定期代を支給すると特定している以上、この規定に基づき1か月定期代を支給する必要があります。

今後はこのような在宅勤務を想定して「在宅勤務(在宅勤務を終日行った場合に限る。)が週に4日以上の場合の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず、実際に通勤に要する往復運賃の実費を給与支給日に支給するものとする」のような支給ルールを定めた方がよいです。

不利益変更に当たるのか?

このようなルールは、不利益変更に当たるのでしょうか?不利益変更に当たれば、従業員の同意が必要になります。

このルール変更は、交通費費の実費の支給方法の問題であり、このような規定の変更については不利益変更には当たらないものと考えられます。

交通費を実費ではなく、一律で支給している場合

従業員の通勤経路や費用に関係なく、一律に通勤手当と称して支給している場合には、そもそも通勤手当が交通費の実費の趣旨として支払っているものとはいえません。

この場合には、仮に在宅勤務で全く出社していない場合でも支給をしなければなりません。

会社の規程に通勤手当の支給ルールが明記されていない場合

スタートアップ企業などでは、通勤手当の規定を置いていないこともあります。

この場合には、これまでの会社での取り扱いや当事者の認識などから、上記のどれに該当するかを判断することになります。

なお、賃金規程に通勤手当に関する支給ルールの規定がなくても、例えば欠勤控除に関する規定において「1か月間、欠勤などで通勤の実態が一切ない場合は通勤手当を支給しない」等の規定があることもありますので、念のため、通勤手当の部分だけではなく、欠勤控除に関する規定の部分もご確認ください。