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【年俸制と法律】IT企業でじわじわ増えつつある給与の「年俸制」の注意点。【2020年7月加筆】

IT企業のための法律

年俸制を導入するときの法律的な注意点

私の周り、特にIT企業で年俸制を導入する企業が増えているように感じます。

プロスポーツ選手や外資系企業のイメージが強いですが、中小・ベンチャーでも導入している、または、導入したいという企業が多いです。

しかし、年俸制を勘違いしている会社が非常に多いのが実情です。勘違いをしたまま年俸制を続けることは、大きな労使トラブルとなる可能性を秘めています。

では、どういったことが勘違いなのでしょうか?

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年俸制とは

年俸制は、社員の給与を1年単位で決定する制度で、前年の営業成績などにより、翌年の給与が決まる制度になります。

いわゆる「成果主義型」というものです。

IT系ですと、特に開発関係の職務などの、成果物や目的物が明確である業務であると導入はしやすいかもしれません。

年俸制のよくある勘違いとは?

①毎年会社の自由に金額が変えられる!?

プロスポーツでも「●●円で合意し、サインをした」などというように、労働者の同意があって初めて決定するものになり、会社側が一方的に決めることは原則できません

しかし、万が一、会社と労働者の見解が一致しない場合、翌年度の年俸はどうなるのでしょうか?

こういった場合は、例外的に会社が労働者との合意なしに年俸額を定めることになります。ただし、次の内容を就業規則で明示することが必要となります。

  • 年俸額決定のための成果・業績評価基準について
  • 年俸額決定手続について
  • 減額の限界の有無
  • 不服申立手続等の制度

これらの内容の定めが公正なものであることが必須であり、仮に揉め事となった際には、これらの内容が公正であるか厳格に審査されます。

上記制度を設ける場合には、会社側が権利の濫用とならないよう、細心の注意を払う必要があります。

上記の制度もないままに、会社側が一方的に減額してしまった場合、又は、次年度の年俸が決まらないまま次年度に突入してしまった場合は、前年度の年俸となります。ただし、労働者は上乗せ分について交渉・請求することができます。

一括で支払うことはできるの?

労働基準法では、毎月一回以上、給与を支払わなければならないとされています。

そのため、年俸制でも一括払いではなく、最低12か月分に等分して支払う必要があります。

賞与分を、毎月の給与とは別に支払う場合は、14等分や16等分など、自社に合わせて分割数を決め、12等分は各月の給与、それ以外を賞与として支払います。

残業代は払わなくていい?

年俸制でも、残業代の支払いは必須です。そして、割増賃金の計算が通常とは異なります。

通常、割増賃金を計算する場合、毎月の基本給を元に考えるのが一般的です。その際、賞与はもちろん含めません。

しかし、年俸制で、賞与が含まれている場合には、賞与分も残業代の計算根拠となります。14等分や16等分で払っていようと、残業計算は12等分で計算されるということです。

通常の月給制に比べて、賞与分も含まれているため、同じ年収でもひと月の基本給は高くなります。結果、同じ時間残業しても年俸制の方が割増賃金は高くなることがあるのです。

ちなみに、年俸制でも固定残業制を導入することができます。その際は、あらかじめ固定残業時間とその固定残業第の範囲内であれば、残業代は発生しません。

もちろん、固定の残業時間を超えれば通常通りの計算となります。

年俸制を採用する会社側のメリット・デメリットとは

年俸制の会社側のメリットとしては、以下のようなことが、よく挙げられます。

  • 人件費の見通しが立てやすい
  • 社員個人別に目標設定がしやすい
  • 意欲や能力が高い社員を最大限に活用できる

反対に、デメリットとしては、以下のようなことが、よく挙げられます。

  • 人事評価が次年度の給与に直結するため、厳格な評価基準や適正な人事評価が求められる
  • 給与のアップダウンが激しいため、社員のモチベーション維持が難しいことがある

「年俸制」という言葉のイメージに惑わされない

年俸制と聞くと、ざっくり計算の成果主義型というイメージがあまりに強いですが、かなり細かい規定があります。

成果が上げられなかった場合でも、大幅な減額ができるわけでもなく、毎月支払いをして、残業代も支払わなければならないとなると、会社側にあまりメリットがあるかは、確認する必要があります。

もし、導入を検討されている、または、既に導入している企業は、年俸制について今一度見直しておくのが良いのではないでしょうか。