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仮想通貨(ビットコイン、イーサリアム、リップル等)」による賃金の支払はできる?

仮想通貨・デジタル通貨に関する法律

今月から給料をビットコインで払いはOK?

最近、IT大手「GMOインターネット」が、従業員の給与の一部を仮想通貨ビットコインで受け取ることができる社内制度を導入するとの発表がありました。

GMO、給料にビットコイン購入枠 最大10万円|日本経済新聞

GMOの社内制度では、従業員本人の希望により、1万円から10万円までの範囲において1万円刻みでビットコインとして受け取ることが可能なようです。

GMOは、仮想通貨の普及のためとしていますが、従業員の生活にかかわる賃金を、「仮想通貨」として支払うことは、労働法上許されるのでしょうか?法律で定められている賃金の支払い方の側面から見ていきたいと思います。

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賃金の定義とは

労働基準法では、賃金について「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と、定めています。

ポイントは「労働の対償」であり「使用者から支払われるもの」というところです。

日本ではなじみが薄いかもしれませんが、いわゆるチップについて、お客さんから直接貰うのであれば「労働の対償」ではあるが、「使用者」から支払われるものではないので、賃金にはなりません。

しかし、これをサービス料などとして一律に集めた上で、労働者に分配した場合には「使用者」から支払われるため、賃金に該当してしまうのです。

賃金の支払方法には法律上の原則がある

労働基準法には、賃金の支払い方に関して、5つの原則を定めています。

(1)通貨払の原則

賃金は、通貨で支払わなければならないとされています。ただし、次の場合には、通貨以外でもいいとしています。

  1. 法令に別段の定めがある場合:現状ありません
  2. 法令に別段の定めがある場合:現状ありません
  3. 厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合:銀行振り込みや小切手など

(2)直接払の原則

賃金の支払い方は、直接、労働者に支払わなければならないとされています。

代理人や、賃金債権を譲渡した場合の譲受人などに支払うことを禁止しています。

ただし、使者(妻子等)に支払うことについては差し支えないとされています。本人が病気などで受け取れない場合に、妻がかわりに受け取ることは、問題ありません。

(3)全額払の原則

賃金の全額を支払わなければならないとされています。

ただし、法令に別段の定めがある場合又は労使協定がある場合においては、一部を控除して支払うことができるとしています。法令に別段の定めとは、源泉控除などがあたり、労使協定については、社宅費や組合費などについてです。

また、一定のルールに則った端数処理についても、控除が認められます。

(4)毎月1回以上払の原則

賃金は、必ず毎月1回以上、支払わなければならないとされています。たとえ、年俸制であっても、毎月1回以上支払う必要があります。

(5)一定期日払の原則

賃金は、一定の期間を定めて支払わなければならないとされています。

これは、支払日を特定できるようにするということが趣旨となります。月給の場合は、「月の末日」や「25日」、週給の場合は、「水曜日」などといった定めです。

しかし、月給の場合に「第4月曜」などとすることは、特定できたとは言えず、認められないとされています。

仮想通貨での給与・賞与等の支払いは原則に違反しないの?

今回の件で、GMOの主張としては、次の理由から、法的問題はないとしています。

  • 本人の希望にによること
  • 本人の希望により給与から控除し、その控除分をビットコインの購入に充てる形を取っていること

つまり、会社が勝手に給与の一部をビットコインで支払うわけではなく、賃金を受け取る人の意思で、給与の一部を使って仮想通貨を購入するものであるため、何ら賃金支払の原則には違反していなという考えなのです。

まとめ

現在の法律上では、仮想通貨での賃金支払いについて、明確な規定はありません。

しかし、上記各原則違反となれば、使用者に対して30万円以下の罰金という刑罰が科される場合もあります。

仮想通貨による賃金支払の制度を導入する場合には、労働者が不利益にならないような社内制度を構築することが、重要と言えるでしょう。