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大学発ベンチャーの経営で注意すべき法律的ポイントを弁護士が解説【2021年12月加筆】

IT企業のための法律

大学発ベンチャーの活況

大学発ベンチャーとは、大学で研究された研究成果に基づく特許やビジネス手法について事業化する目的で設立されたベンチャーや大学と共同研究をしているベンチャー企業をいいます。

平成28年度調査において存在が確認された大学発ベンチャーは1,851社であり、平成27年度調査時より増加していることがわかりました(平成27年度調査で確認されたのは1,773社)。

「大学発ベンチャーの設立状況等」に関する調査をとりまとめました

大学という研究機関との連携で、通常の会社ではできない技術を持てるというのは大きなメリットですが、大学という通常の企業とは異なる規定が適用される場合もあります。

そこで、大学発ベンチャーにおける、法律的な注意点をみていきましょう!

知的財産権帰属について

研究開発成果に関する知的財産権が誰に帰属するのかについては、大学発ベンチャーにとっての最重要事項です。

例えば、大学と企業が共同研究開発契約を締結する場合を考えてみましょう。この場合、双方が、知的財産権を共有する例が多いです。

しかし、この「知的財産権を共有」するという規定には、注意が必要です。というのも、特許法第73条では、共有特許について以下のように定めています。

  1. 共有相手の同意なしに、特許権の持分の譲渡や担保設定はできない
  2. 共有相手の同意なしに、専用実施権又は通常実施権を付与できない
  3. 共有相手の同意なしに、発明を実施(自己実施)することはできる

簡単にいうと、特許権などを共有にして場合には、共有者それぞれ、自己使用する分には、自由に使えますが、他人に権利を譲渡したり、ライセンスを付与したりするのは、共有者全員の同意が必要ということです。

企業として、第三者へのライセンス付与に、大学の同意を毎回とるというのは面倒と考えるかもしれません。共同で開発したからといって、簡単に知的財産権も共有にしてしまうと、後から、思わぬ事態になる可能性もありますので、注意が必要です。

また、共同開発契約では、共有となる特許出願の費用負担、一方当事者が費用負担を継続できなくなった場合の取扱いなどは、是非とも、取り決めておくべき事項です。

大学教員側と技術協力をする場合の注意点

企業が、大学の研究者に対して、技術指導を仰ぐために顧問契約などを結ぶ場合があります。

この場合、企業側としては、その指導の成果物について、企業側に帰属するという契約をすることが考えられます。

そもそも、特許権や著作権などの知的財産権は、実際に創作をした人に権利が生じます。そうなると、成果物については、大学研究者に帰属する可能性が高いです。

このように、大学研究者が有している知的財産権が、契約によって企業に移転することになります。

ここで、注意しなければならないのは、大学研究者が所属する大学の規定で、大学研究者の成果物は、大学に帰属するという規定がある場合です。

この場合、成果物の権利が、教員から大学と企業に二重に譲渡された形になります。そうなると、企業としては、想定していた権利を取得できないリスクを負うことになります。

よって、企業としては、大学研究者個人と契約を結ぶ場合には、知的財産権の帰属に関する大学の規定を確認しておくことは重要です。

大学教員特有の規定に気を付ける

企業として大学研究者の方とかかわる場合、勤務先の大学の規定や国立大学職員に対する法令上の規制にも気を付ける必要があります。

兼業禁止に対する規定

大学研究者が個人として企業と技術指導などを行うため、契約を締結した場合、その契約が、大学の兼業規程等の違反とならないかに注意が必要です。

仮に、規制の対象になる場合には、大学研究者が、大学への報告や許可の取得など、各大学における規定に従った手続を行う必要があります。

利益提供禁止に対する規定

通常、大学は、利害関係者等から大学教員が利益の提供を受けることを禁止しています。

なので、企業として、事業へのインセンティブとして、大学教員に、ストックオプションを付与しようとする場合には、大学の規定に抵触しないかを検討する必要があるのです。

利益相反に関する規定

大学研究者は、勤務する大学と利益が相反する行為が禁止とされています。

例えば、大学内での研究開発により生じた権利などを、不当に自己が契約している企業に帰属させたりすることは、利益相反行為に該当する可能性があります。

また、この利益相反のチェックのために、大学側が、大学研究者に対して企業に関わっているかなどの状況などについて、報告義務を課しているケースもあります。

企業側としても、このような配慮が必要となるのです。

大学教員又は大学に、ストックオプションを付与する場合

企業が共同研究開発契約の相手方である大学や大学教員に対して、自社の株式や新株予約権を発行するケースがありますが、これにも、いくつか注意点があります。

(1) 教員への付与と内規

大学教員個人に新株予約権などを付与する場合、利益提供、利益相反などの内規の違反が生じないように、注意することが必要です。

(2)国立大学の場合

国立大学自体が、ストックオプションを持てるのかというのが問題になります。これについては、文科省から通知が出されています。

別添 「国立大学法人及び大学共同利用機関法人が寄附及びライセンス対価として株式を取得する場合の取扱いについて」に関するQ&A

このQ&Aでは、以下のとおり、国立大学については新株予約権等の付与が賄賂罪に該当しないように注意が必要です。

  1. 国立大学が寄付として株式・新株予約権を取得することは可能
  2. ライセンスの対価として、受け取れる場合とは、ベンチャー企業のストックオプションで、当該ベンチャー企業が、対価に相当する現金を保有していない場合などに限られます
  3. 国立大学の株式保有比率が過半数を占めないようにする
  4. 取得した株式は換金可能な状態になり次第速やかに売却すること
  5. 議決権の行使などは原則認められない

別添 「国立大学法人及び大学共同利用機関法人が寄附及びライセンス対価として株式を取得する場合の取扱いについて」に関するQ&A

大学発ベンチャー、大学、大学教員それぞれの立場を考える

大学発ベンチャーは、大学という組織の特殊性を考慮して、運営する必要があります。大学、大学教員などの立場を尊重して、経営していきましょう。