AI(人工知能)をビジネスで活用する例は、多くの場面で増えています。弊所でも、それに伴い、AIを開発する際の契約の相談も増えてきています。
そこで、今回は、AI(人工知能)を開発する際の契約について、解説します。
実際のAI開発のために、どのような契約を締結すればよいのでしょうか。
AI開発のベンダ側、ユーザ側とも、契約の交渉段階のときに、秘密保持契約書(NDA)を締結することが多いです。
AI開発の場合には、開発契約の前に、ユーザ側が、ベンダ側にサンプルデータなどを提供することがあります。
また、ベンダ側も、それを踏まえて、AI技術の導入可否などのレポートなどをユーザ側に渡すことがあります。
そうなってくると、開発契約の前にも、双方の企業情報を渡すことになるため、秘密情報についての取り扱いを決めておく必要があります。
秘密保持契約書のひな形などは、インターネットでも、たくさん転がっていますが、ここに注意するべきポイントを記載していきます。
甲及び乙は,AIシステム開発●●を目的 として,当該目的のために必要と認められる範囲内で,相手方に対し,秘密情報を開示する。
→秘密情報が利用できる範囲を特定するための規定です。
本契約における「秘密情報」とは,文書,口頭又は物品であるとを問わず,本件業務に関して知り得た相手方の事業情報,営業情報及び技術情報その他一切の第三者に知られたくない情報をいう。
→この「秘密情報」が、秘密保持契約の対象になります。自社として、どこまでの情報を「秘密情報」としたいのか、検討する必要があります。
甲及び乙は,相手方から開示された秘密情報について,第1条の目的以外で使用してはならない。
→こちらは、第1条の使用範囲を限定する規定で,必須の条項です。
→情報を受け取る側が、秘密情報を、どのように管理するのかを規定するものです。
本契約は,原契約終了後○年間を経過するまで存続するものとする。
→秘密保持契約が効力を持つ期間の条項です。この条項がないと,秘密情報を開示する目的である業務が終了したとたん,秘密情報の開示に制限がなくなってしまうことになります。業務が終了した後も,一定期間,秘密情報の保管・管理が続くよう,契約の存続期間を定めることが重要です。
AI開発契約書には、通常のソフトウェア開発契約書の他に、AI開発特有の条項を入れておく必要があります。
AI開発では、通常のソフトウェア開発にはない用語が出てきます。
「学習用データセット」、「学習用プログラム」、「学習済プログラム」、「学習済みパラメータ」などの用語です。これらの用語は、使用する人によっても、その意味合いが異なることがあります。
契約書でお互いの共通認識のために、定義規定を設けることが必要です。
AI開発契約で、最も重要といってもいいかもしれません。
作成した「学習用データセット」「学習用プログラム」「学習済プログラム」「学習済みパラメータ」などの権利を、以下の誰に帰属させるかを定めるものです。
1:本件成果物に関する著作権(著作権法第 27 条および第 28 条の権利を含む。)等の知的財産権は、ユーザのベンダに対する委託料の支払いが完了した時点で、ベンダまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ユーザに帰属する。
2:ユーザおよびベンダは、本契約に従った本件成果物等の利用について、著作者人格権を行使しないものとする。
以上を決定する必要があります。
1:本件成果物に関する著作権(著作権法第 27 条および第 28 条の権利を含む。)等の知的財産権は、ユーザまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ベンダに帰属する。
2:ユーザおよびベンダは、本契約に従った本件成果物等の利用について、他の当事者および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとする。
1:本件成果物に関する著作権(著作権法第 27 条および第 28 条の権利を含む。)等の知的財産権は、ユーザのベンダに対する委託料の支払いが完了した時点で、ユーザ、ベンダまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ベンダおよびユーザの共有(持分均等)とする。
2:ユーザ及びベンダは、相手方の同意を得なければ、第 1 項所定の著作権等の知的財産権の共有持分を処分することはできないものとする。
3:ユーザおよびベンダは、本契約に従った本件成果物等の利用について、他の当事者および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとする。
以上のように、AIに関わる契約は、事前の取り決めが重要になってきます。特に、法人間の場合には、後から契約に記載されたことは知らなかったとはいえません。
契約書の内容をしっかりと規定するようにしましょう。