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AIの発達により、本来、人間にしかできない創作コンテンツが次々とAIによって、生み出されています。
例えば、17世紀のオランダ画家・レンブラントの画風を機械学習や顔認識で分析し、3Dプリンタを使って“新作”を描く、そんなプロジェクトが見事実現し、レンブラントの作風をまねた新しい作品が完成しました。
人工知能が描くレンブラントの“新作”絵画 機械学習・3Dプリンタを活用
また、「Orpheus(オルフェウス)」というAIにとる自動作曲システムがあります。
これは、日本語の歌詞を入れると、自動作曲により伴奏が作成され、条件設定を変えることで様々な作曲ができるというシステムです。
このように、AIによる様々なコンテンツを生み出せた場合には、そのコンテンツの著作権などの法律が問題になります。
まずは、AIが創作した著作物が、著作権法上の「著作物」に当たるのかが問題になります。
この点、日本の著作権法で「著作物」とは、以下のように定義(著作権法2条1号)されています。
思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
そうなると、AIが自律的に作成したコンテンツは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」には当たらず、著作権法上は、著作権で保護されないことになります。
ただし、これは、AIが全く人の手を借りずに自律的にコンテンツを作成した場合です。その作成の過程で、人間が関与した場合には、その関与を「創作」と評価することも可能です。
現に、我々は、コンテンツを生み出す際には、様々なテクノロジーを使って、創作しています。
この点、2017年3月に発表された新たな情報財検討委員会 報告書では、「AI生成物を生み出す過程において、学習済みモデルの利用者に創作意図があり、同時に、具体的な出力であるAI生成物を得るための創作的寄与があれば、利用者が思想感情を創作的に表現するための道具として、AIを使用して当該AI生成物を生み出したものと考えられることから、当該AI生成物には著作物性が認められその著作者は利用者となる」
つまり、AI生成コンテンツに、人間が関与した場合には、その著作権は、そのAIを利用したものに帰属するというものです。
一方「利用者の寄与が、創作的寄与が認められないような簡単な指示にとどまる場合、当該AI生成物は、AIが自律的に生成した「AI創作物」であると整理され、現行の著作権法上は著作物と認められないこととなる」とされています。
こうなってくると、人間が「創作的寄与」をしたのか否かが、AI著作物が認められかの判断のポイントになってくるのです。
AIコンテンツが「発明」に類するような場合には、特許法で保護されるのかが問題になります。
この点、現行の特許法においても、発明者が自然人であることを前提としているので、AIコンテンツについては、特許法上の保護対象になりません。
もっとも、「AIを活用した創作や3Dプリンティング用データの産業財産権法上の保護の在り方に関する調査研究報告書」では「創作」のうち、①課題設定、②解決手段候補選択、③実効性のうちのいずれかを人が行われていれば、特許法上保護されるとされています。
しかし、この場合でも、どこまでを人が関与すればよいかが明確になっていません。
AIコンテンツが、著作権法や特許法で、保護されないということは、AIコンテンツは誰でも利用できるものということになります。
勝手にパクられても、文句が言えない状態になるのです。
また、次世代知財システム検討委員会 報告書では、コンテンツそのものをみても、それがAIが自律的に作成したのか、人の創作的寄与されたのかの区別がつきにくいので、コンテンツ自体から、それが著作権保護の対象であるか否かを判断することは困難です。
そもそも、AIが自律的にコンテンツを作成するようになるためには、AI事自体に相当程度、学習させる必要があります。そのため、AIコンテンツの作成には、人による相当の時間と費用の投資が必要です。
そうなると、人がそのような費用と時間をかけた投資は、保護されるべきではないのかという価値判断があるのです。
この点について、政府の知的財産推進計画2016で、議論されています。
この報告書には、すべての「AI創作物(著作物に該当するような情報)を知財保護の対象とすることは保護過剰になる可能性がある」としている一方で「フリーライド抑制等の観点から、市場に提供されることで一定の価値(ブランド価値など)が生じたAIコンテンツについては、新たに知的財産として保護が必要となる。
そして「AIコンテンツを世に広めて一定の価値(ブランド価値など)を生じさせたこと」に対して権利を付与する方向性が打ち出されました。
この報告書では、AI創作物の保護について、「商標、または不正競争防止法の商品等表示の保護に類するような仕組みが想定される」と明記されています。
つまり、法律上保護されるAIコンテンツは、次のもののみが保護されるということです。
高度なAIコンテンツを作成するためには、正確な学習用データの確保が極めて重要な課題です。
現在、データ自体については、データベースの著作物や当該データが営業秘密に該当する場合でなければ、法的な保護は認められていません。
よって、このような法的保護の対象とならないデータに関しては、一般的にはデータの取引時の契約に基づき権利義務が規定される方法が取られています。
AI(人工知能)開発における「学習用データ」の取り扱いに関する法律的なポイント
しかし、学習用データを、契約によってのみ保護するアプローチでは、契約当事者間では、違反行為に対して対処することができるものの、取引対象たる学習用データを不法な手段によって取得した第三者に対しては、権利主張ができないことになります。
そこで、現在、事業活動に役に立つデータにについては、「営業秘密」と同じような保護を与える方向で、不正競争防止法の改正が検討されています。
産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会による検討
以上のように、AIコンテンツについては、今後の法整備に委ねられている面も大きいです。
しかし、現状で、AIは日々進化していくため、法整備を待たずにAIコンテンツは生み出されています。このような中、AIコンテンツに関わる人間が、それを法的に守っていくかを考える必要があるのです。