スタートアップなどで、新たな資金調達手段として、クラウドファンディングが活用されています。
弊社でも、株式型クラウドファンディングGo Angelを運営するDANベンチャーキャピタル株式会社に出資しております。
クラウドファンディングの法律は、思っているよりも複雑で、実際にクラウドファンディングの運営に携わっていないと、机上の空論になってしまいます。法律事務所のクラウドファンディングの解説が、いまいち分かりづらくなっているのも、外部から法律のみを解説しているからです。
そこで、クラウドファンディングの法律に精通し、実際にクラウドファンディングの運営にも参加しているグローウィル国際法律事務所が、クラウドファンディングに関する法律を解説します。
この記事の目次
クラウドファンディングには、以下のような種類があります。
それぞれについては、異なる法律が適用されますので、注意が必要です。
クラウドファンディングに関わる人としては、以下の3つに分かれます。
クラウドファンディングの種類ごとに、各プレイヤーについてのどのような法律が適用されるか、みていきましょう!
投資型のクラウドファンディングとは、ある案件に対して、出資者が資金を出資し、これに対して収益の一部を出資者に分配するタイプです。
つまり、出資したリターンとして、お金が分配されるものになります。
投資型クラウドファンディングサイトとしては、「セキュリテ」、「クラウドクレジット」、「Sony Bank GATE」などが挙げられます。
投資型クラウドファンディングで集めた金銭について、資金調達を実施した場合、その使い道により、法規制が異なります。
資金調達の実施者は、集めた資金を株式などの有価証券(社債やファンド持分なども含む)に投資する場合には、金融商品取引法が適用されます。
具体的には「投資運用業の登録」が必要になります。投資運用業の登録には、資本金が5000万円以上が必要になります。
また、登録には、金融庁から課されるバードルをクリアしていく必要があり、登録後も、金融庁への定期的な報告などが必要になるため、事業運営がやりにくくなる面があります。
また、集めた資金をもとに、不動産の売買、交換又は賃貸借を行う場合には、不動産特定共同事業法に基づく規制が生じます。
具体的には「不動産共同特定事業者の許可」が必要です。
一方、資金調達の実施者が、集めたお金をある製品の制作販売やプロジェクト実施費用にお金を使う場合には、上記の規制は適用されません。
よって、投資型クラウドファンディングで、規制がない方法で、お金を集めたい場合は、集めたお金を、有価証券投資又は不動産投資以外に使用するようにしてください。
投資型クラウドファンディング事業を行う事業者については、金融商品取引法の規制があります。
いわゆるファンドの勧誘行為を行うことは、「金融商品取引業」に当たり、金融商品取引法の規制が及びます。
投資型クラウドファンディング事業者においても、インターネット上のプラットフォームでお金をあつめることになるので、金融商品取引法上の規制が及び、第二種金融商品取引業の登録が必要です。
第二種金融商品取引業の登録ですが、登録を受けるには、非常に高いバードルがあります。
例えば、会社の資本金が1000万円以上必要で、金融庁の求める社内の内部体制を整える必要があります。
弊所でも、第二種金融商品取引業取得サポートを行っておりますが、投資家を保護するために十分な人的・物的管理体制がその会社に備わっていることが必要で、クラウドファンディングサイトを立ち上げたい企業からするとハードルが高いです。
しかも、無登録で「第二種金融商品取引業」を行った場合、最大5年の懲役という刑罰が下されます。
また、2014年の法改正で、インターネットを使った投資型クラウドファンディング業者については、電子募集取扱業務に関する規制が追加されました。
具体的には、業務管理体制の整備やウェブサイトでの情報提供などが義務付けられています。
投資型クラウドファンディング業者については、上記のような金融商品取引法上の規制に加えて、第二種金融商品取引業協会の定める自主規制である電子申込型電子募集取扱業務等に関する規則も遵守する必要があります。
このように、投資型クラウドファンディング事業者には、様々な遵守するべき決まりがあります。
日本のクラウドファンディングサイトの中で、投資型クラウドファンディングが少ないのは、こうした規制があるからなのです。
投資型クラウドファンディングで、お金を出した出資者については、特に法律上の規定はありません。
ある案件に出資者がお金を出すが、基本的に出資者にリターンがないタイプのクラウドファンディングです。
出資者も見返りを期待せずに、お金を出すので、被災地支援や途上国支援などの公益的な目的で行われます。
寄付型のクラウドファンディングにより、資金を集めた場合には、資金調達の実施者は、税金に注意する必要があります。
税金については、資金調達の実施者が、個人か法人かによって異なります。
寄付型クラウドファンディングで、個人が資金を集めた場合、110万円(基礎控除)部分を超えた金額に贈与税が加算されます。
資金調達の実施者が、法人の場合、原則として、寄付を受けた金額に対して、法人税がかかります。そのため、法人税の申告が必要になります。
もっとも、資金調達の実施者が、NPO法人・公益財団法人など、案件の内容が公益性のある事業の場合には、法人税はかかりません。
なお、寄附行為は、消費税の対象外取引になるので、消費税は発生しません。
寄付型クラウドファンディングといっても、実際、運営されている寄付型クラウドファンディングでは、何かしらのお礼をしている場合が多いです。
例えば、感謝状やウェブサイトに氏名の掲載したり、ちょっとしたお礼の品を送るなどです。
寄付型クラウドファンディングにおいて、出資者がお金を出すメリットの一つとしては、寄付した金額が寄付金控除の対象になるということが挙げられます。
しかし、資金調達の実施者からの返礼品が過剰なものになってしまうと、寄付とはみなされず、出資者が、寄付金控除の恩恵が受けられなくなってしまう可能性があります。
ふるさと納税制度における総務大臣通知では、換金性の高いプリペイドカードや高額(寄付金に対して返礼割合の高い)な返礼品の提供を行わないように求められています。
これの通知を参考に、資金調達の実施者は、返礼品についての制度を設計する必要があります。
寄付型クラウドファンディング事業者については、現在のところ、特段の法的規制はありません。
寄付型クラウドファンディングに対して、出資した者は、どのような法律が適用されるのでしょうか。
出資者が、何か規制を受けることはありません。むしろ、寄付型クラウドファンディングに出資すると、税金が安くなるといった特典がつきます。具体的には、以下のような形です。
寄付の相手方が、国・地方公共団体・特定公益増進法人などの場合には、出資した金額は、「寄附金控除(きふきんこうじょ)」の対象となります。
つまり、節税効果があり、「寄附金控除」は、所得控除されることになります。
所得控除とは、税金計算の基礎となる所得金額を減らすことができるものです。
寄付の相手方が、認定NPO法人などの場合に、出資した金額は、寄附金特別控除になり節税になります。
この寄附金特別控除は、税額控除です。
税額控除とは、本来課税されるべき税額から、寄付をした金額が差し引かれるというものです。出資者としては、認定NPO法人などに出資した方が、税金上のメリットが大きくなります。
購入型クラウドファンディングとは、ある商品・サービスの出資者を募り、出資者からの投資金を元手に実際に商品・サービスを開発し、投資者に完成した商品・サービスを提供するものです。
購入型クラウドファンディングには、CAMPFIREやREADYFOR、Makuakeなどがこの類型に当たります。
最近では、アニメ映画を大ヒットした「この世界の片隅に」では、「makuake」が利用されましたし、キングコング西野さんの「えんとつ町のプペル」では「Ready for」が利用されました。
購入型クラウドファンディングの資金調達の実施者は、商品・サービスの売主という立ち位置になります。つまり、インターネットで物販等をしているのと同じということです。
そこで、購入型クラウドファンディングを利用する資金調達の実施者は「通信販売事業者」ということになり、特定商取引法上の表記が必要になります。
資金調達の実施者は、自社のウェブサイト上などに、特定商取引法上の表記を記載する必要があるのです。
購入型クラウドファンディングを利用する資金調達の実施者は、商品・サービスの売主という立場であるため、売買契約上の売主の責任を負います。
例えば、提供する商品サービスに何かしらの欠陥がある場合には、瑕疵担保責任を負う可能性があります。
よって、購入型クラウドファンディングを利用する資金調達の実施者は、提供した商品サービスに何かしらの欠陥があった場合には、出資者に対して、欠陥の修繕や損害賠償義務などがあります。
次に、購入型クラウドファンディングを運営する事業者についてです。
購入型クラウドファンディングを運営する事業者は、調達した資金の5%から20%程度の手数料を徴収し、残額を資金調達の実施者に支払うという形態が多いです。
そのため、資金の流れからすると、
(1)出資者⇒クラウドファンディング事業者
(2)クラウドファンディング事業者⇒資金調達の実施者
になります。
このように、事業者が、Aという人からお金を預かり、Bという人に支払うというのは、為替取引(エスクローサービス)と呼ばれ、資金決済法上の資金移動業の登録が必要になります。
もっとも、資金移動業登録については、弊社でも登録申請サポートを行っておりますが、登録を受けるのに、非常に時間がかかり、手間も大変です。
また、登録を受けたとしても、一回の取扱金額が、100万円以下に制限されているなど、色々な制限がつけられています。
資金移動業登録を回避する方法としては、決済代行(収納代行)というスキームがあります。
資金移動業登録を回避する決済代行(収納代行スキーム)については、「弁護士が解説!事業者が送金サービスを行うために必要な法律」をご覧ください。
購入型クラウドファンディング事業者は、あくまで資金調達の実施者と出資者を結び付けるプラットフォーマーとしての役割しかありません。
ですが、出資者が、購入型クラウドファンディング事業者を、売主であると誤解してしまう可能性があります。
仮に、クラウドファンディング事業者が、売主であるとの外観があり、クラウドファンディング事業者が、売主であるとの外観を作りあげてしまったような場合には、クラウドファンディング事業者が、売主であると認定される場合があります。
そこで、クラウドファンディング事業者としては、以下のことを利用規約に記載しておく必要があります。
購入型クラウドファンディングサイトの「makuake」でも、以下のように、利用規約に記載されています。
あくまで自身はプラットフォーマーである旨の表明としては、以下のような規定がされています。
第2条(本サービスと当社の役割)
- 本サービスは、クラウドファンディングサイトであり、会員間での交流やプロジェクト支援の場や機会を提供するサービスです。
- 会員間のプロジェクトの支援に関する売買契約(成立・取り消し・解約・解除等の一切)は、すべて当事者会員間(または関連する第三者を含むがこれに限られません。以下、「会員間等」といいます) の自己責任によるものとし、 当社は取り消し、中途解約、解除、変更、返金、保証など当事者間等における契約の履行には一切関与いたしません。
- 会員間等においてトラブル等が発生した場合についても、当社が別途定めるケースを除き、当社が仲裁し、解決にあたることはございませんので、取引に際しては十分に注意し、予めご了承の上ご利用ください
資金調達の実施者及び出資者との問題については、責任を負わない条項としては、以下のような規定がされています。
当社は、本サービスを通じて行われた第三者と会員との取引について、一切の責任を負わないものとし、全ての取引は当該第三者と会員の責任においてなされるものとします。
購入型クラウドファンディング事業者としては、利用規約の定めをきちんとしておく必要があるのです。
購入型クラウドファンディングの出資者を規制する法律は、特にありません。
株式型クラウドファンディングとは、非上場株式の発行により、インターネットを通じて多くの人から少額ずつ資金を集める仕組みです。
日本クラウドキャピタルのFUNDINNOや、弊社も出資しているDANベンチャーキャピタル株式会社のGo Angelなどがあります。
資金調達の事業者については、原則として、有価証券届出書の提出、目論見表の作成交付などの発行開示手続きをとることが必要です。
もっとも、株式発行価額の総額が1億円以下であれば、この規制が適用されないため、資金調達の実施者としては、まずは、この規制がかからないように、利用するのも一つの手段だと思います。
資金調達の実施者としても、株式を発行して、出資してもらうので、多数の小口の株主が発生することになります。
このことにより、株主管理コストの増加、多数の株主が議決権を持つことによる企業経営の柔軟性が失われる可能性もあります。
そのため、資金調達の実施者は、資金調達後の株主構成や資本政策の点も含めて、株式型クラウドファンディングを導入するか、また何株発行するかを決める必要があります。
株式型クラウドファンディング事業者は、「第一種金融商品取引業」の登録を受ける必要があります。
この「第一種金融商品取引業」の登録は、非常に高いハードルがあります。
そこで、2014年の金融商品取引法の改正により、以下の2点を条件に、第1種少額電子募集取扱業者という新たな登録制度が設けられました。
第1種少額電子募集取扱業者とは、最低資本金として1,000万円を用意すれば第一種少額電子募集取扱業者としての登録が受けることが可能となりました。
これは、通常の第一種金融商品取引業者の最低資本金が5,000万円(業務内容によっては最大30億円)であることを考えると、大幅な参入要件の緩和です。
また、通常の第一種金融商品取引業者では兼業規制があり、行うことができる業務が金商法上列挙されています。それ以外の業務を行いたい場合には、内閣総理大臣(金融庁長官)の承認が必要となっています。
しかし、第一種少額電子募集取扱業者は、このような兼業規制がかからないため、他業種からの参入が容易となっているのです。
ほかにも、金融商品取引責任準備金の積立義務等が適用されないなど、緩和措置が取られています。
株式型クラウドファンディングへの出資者を規制する法律は、特にありません。
融資型クラウドファンディングとは、ある目的の為に資金を必要としている企業が、投資家に対して、クラウドファンディング事業者と通じて、貸付を行えるサービスのことを言います。
中小企業などでは、銀行からの融資が厳しいところもあり、新たな資金調達手段として注目されています。
日本クラウド証券株式会社のCrowdBankや、maneo株式会社のmaneoが主なところです。
融資型クラウドファンディングの資金調達の実施者は、金銭消費貸借契約上の借主になります。よって、弁済期限までに、所定の元金と利息を支払う必要があります。
日本において、他人にお金を貸すことを業として行うことは、貸金業登録が必要になります。そうなると、融資型クラウドファンディングの各出資者は、貸金業登録をする必要がでてきます。
しかし、各出資者が、貸金業登録が必要となれば、融資型クラウドファンディングを通じて、融資する人は極端に少なくなります。
そこで、現状の融資型クラウドファンディング事業者は、以下のようなスキームを取っています。
このようにすることで、出資者が、特に貸金業登録しなくても、融資できる仕組みを整えているのです。
出資者は、金銭消費貸借契約上の貸主になります。
以上のようにクラウドファンディングには、様々なタイプがあり、立ち位置によって、適用される法律が異なります。
クラウドファンディングについては、法律面だけでなく、実際の運用面が大切です。それぞれの法律を守って、運営するようにしましょう!