IT法務・AI・暗号資産ブロックチェーンNFT・web3の法律に詳しい弁護士|中野秀俊
グローウィル国際法律事務所
03-6263-0447
10:00~18:00(月~金)

【知的財産権】AI(人工知能)のシステム開発で注意すべき法律ポイント

ロボット・AI・ドローンの法律

AIのシステム開発の特徴

AIのシステム開発では、通常、開発過程においてプログラムと独立して価値を有している学習用データセットが生成されます。

また開発の最終成果である学習済モデルは、その元となった以下の2つで構成されてると考えることができます。

  • 学習前のAIのプログラム
  • 学習済パラメーター

それぞれについて、知的財産権などの権利を、ベンダ又はユーザにいずれかに帰属させるかが問題となります。

AIのシステム開発においては、従来のシステム開発と比較して、学習用データセットと学習済モデルの権利関係について決定する必要があります。

この点で従来のシステム開発と比較して、問題がよりいっそう複雑化する可能性があります。

学習用データセットの権利帰属について

生のデータがユーザからベンダーに提供され、ベンダーにおいて各主要なデータセットが編集されるようなケースを想定して、学習用データセットについての著作権などの知的財産権の帰属するか問題になります。

ベンダー・ユーザ間の契約において、特に規定を設けない場合

このように特に規定がない場合には、学習用データセットの作成を行ったベンダーに帰属することが原則です。

もっとも、学習用データセットの作成行為について、ベンダだけでなく、ユーザも創作的な関与をしていると認められる場合には、学習用データセットに関して新たに発生した著作権は、ユーザとベンタの共有の可能性があります。

学習用データセットに著作権が成立し、当該権利がベンダに帰属する場合は、ユーザは、学習用データセットをベンダから許諾を受けない限りは利用できないことになります。

他方でベンダは、学習用データセットの権利者として自由に利用することができます。

次に、学習用データセットに著作権が成立し、当該著作権がベンダーとユーザの共有となる場合には、ベンダーとユーザともに相手方の同意がなければ学習用データセットを利用することができません

最もベンダーとユーザいずれも情報解析のために使う場合については、学習用データセットを利用することができます。

学習用データセットに関する規定例について

学習用データセットに関する一切の権利はユーザに帰属する場合の規定例です。

第●条(学習用データセットの取扱い)

  1. ベンダは、ユーザがベンダに提供したデータを利用して作成した学習用データセットについて、本契約における秘密情報として扱い、本委託業務遂行のためにのみ利用するものとする
  2. ベンダは、本委託業務が完了し、又は本契約が終了した場合、ユーザの指示に従って学習用データセットが記録された媒体を破棄もしくはユーザに引き渡し、ベンダが管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする
  3. 学習用データセットに係る特許権、著作権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権の登録を受ける権利並びに著作権法27条及び28条に関する権利を含む。以下同じ)を含む学習用データセットに排他的、独占的にアクセスして利用することのできる権限は、学習用データセットの作成に係るものを除き、ユーザのベンダに対する本契約に関する委託料の支払いが完了した時点で、ベンダだからユーザに移転する
  4. ベンダはユーザの学習用データセットの利用について自ら学習用データセットに関する著作者人格権を行使せず、第三者をして行使させないものとする

学習済モデルの権利の所在について

上記のように、また開発の最終成果である学習済モデルは、その元となった「学習前のAIのプログラム」と「学習済パラメーター」で構成されることになります。

学習済モデルに関する知的財産権に関しては、以下のようなパターンが考えられます。

  1. 学習済モデルに関する知的財産権をベンダに帰属させ、ユーザに対してはその利用を許諾する
  2. 学習済モデルのうち、 AIプログラムと学習済パラメータ部分とを分離し、前者に係る知的財産権をベンダ、後者に係るものをユーザに帰属させる
  3. 学習済モデルに関する知的財産権をユーザに帰属する

①学習済モデルに関する知的財産権をベンダに帰属させ、ユーザに対してはその利用を許諾する

以下は、学習済モデルについて、その元となったAIのプログラムと学習済パラメーターの双方をベンダーに帰属させることを想定した規定です。

もっともこのような条項では、ユーザの保護という観点からは手薄になってしまうため、ユーザ側としてはこれをベースに様々な検討を加える必要があります。

第●条(学習済モデルの取り扱い)

  1. ユーザーは、第●条に基づき、ユーザからベンダーに提供されたデータを用いてAIプログラムを学習させることにより得られた学習済モデルに関する特許権及び著作権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権の登録を受ける権利並びに著作権法27条及び28条に関する権利を含む。以下同じ)も学習済モデルも排他的、独占的に利用することができる権限が、ベンダに帰属することを確認する
  2. ベンダはユーザに対し、学習済モデルを利用することのできる非独占的権利を許諾するものとする
  3. ベンダは、2項の範囲のユーザの学習済モデルの利用について自ら学習済モデルに関する著作権人格権を行使せず、第三者をして行使させないものとする

②学習済モデルのうち、 AIプログラムと学習済パラメータ部分とを分離し、前者に係る知的財産権をベンダ、後者に係るものユーザに帰属させる。

これは、学習済みパラメータに関する知的財産権がユーザに帰属することになります。

もっとも、ユーザとしては、AIプログラムと学習済みパラメータ部分が一体となって、初めて技術的価値を有するならば、学習済みパラメータだけでなく、AIプログラムについても、知的財産権を保護する必要があります。

第●条(学習済モデルの取り扱い)

  1. ユーザーは、学習済モデルのうち、AIプログラムに関する特許権及び著作権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権の登録を受ける権利並びに著作権法27条及び28条に関する権利を含む。以下同じ)は、ベンダ側に帰属することを確認する
  2. 学習済モデルのうち、学習用パラメータに関する知的財産権を含む学習済パラメータを排他的・独占的に利用する権限は、ユーザのベンダに対する本契約に関する委託料の支払が完了した時点で、ベンダからユーザに移転するものとする
  3. ベンダは、本委託業務が完了し、または本契約が終了した場合、ユーザの指示に従って、学習済パラメータが記録された媒体を破棄若しくはユーザに引き渡し、ベンダが管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする
  4. ベンダは、ユーザに対し、AIプログラム使用できる独占的権限を許諾する
  5. ベンダは、ユーザによる学習済パラメータの利用について著作権人格権を行使せず、第三者をして行使させないものとする

③学習済モデルに関する知的財産権をユーザに帰属する。

これは、ベンダがAIプログラムについての知的財産権をいらないという場合です。

この場合でも、AIプログラムのうち、汎用的な部分とユーザから委託を受けて制作した部分とを分けて、汎用的な部分は、ユーザーに帰属するということも考えられます。

  1. 学習済モデルの特許権及び著作権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権の登録を受ける権利並びに著作権法27条及び28条に関する権利を含む。以下同じ)は、ユーザのベンダに対する本契約に関する委託料の支払が完了した時点で、ベンダからユーザに移転するものとする
  2. ベンダは、本委託業務が完了し、または本契約が終了した場合、ユーザの指示に従って、学習済モデルが記録された媒体を破棄若しくはユーザに引き渡し、ベンダが管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする
  3. ベンダは、ユーザによる学習済モデルの利用について著作権人格権を行使せず、第三者をして行使させないものとする

AIのシステム開発は、権利関係を明確に

以上のように、AIのシステム開発は、通常のシステム開発よりも複雑な権利関係を規定する必要があります。

特に著作権などの知的財産権の項目は、念入りに規定しておく必要があるのです。

後から、権利関係一切を相手方に持っていかれたしまったということがないように、しっかりと契約しておきましょう!