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不動産業界というと、伝統的な業界であり、IT化とは無縁のイメージがあります。
しかし、近年では、「不動産Tech」という言葉もある通り、不動産業界にも、ITやAIを駆使したサービスが生まれています。
従来の不動産業界では、広告はチラシや店頭広告、説明は対面や実際の内覧、書面のやり取りは紙ベースでしたが、IT化により、オンラインでの情報提供、マッチング、AIの活用、書面の電子化などが、進んでいます。
しかし、不動産にまつわる法律については、伝統的な不動産業界を想定したものなので、IT化に当たっては、様々なハードルがあります。
そこで、今回は、不動産Techや不動産系ベンチャーの注意すべき法律について、解説していきます。
一口に不動産Techといっても、様々な種類があります。
一番、オーソドックスなのが、物件情報の検索や情報をIT化したものです。
大手企業が、最初に参入した分野であり、アットホーム、SUUMOLIFULL HOME’Sなどが有名なところです。
最近では、AIを駆使し、消費者側と事業者側の情報格差を埋めようとする企業も出てきており、すまいValu、【マンションマーケット】などが有名です。
不動産会社への問い合わせといえば、対面か電話でしたが、事業者は相当数の時間を取られていました。
そこで、AIを導入し、チャット型の対応をしているところがあります。住まいのAI ANSWER、iettyなどが有名です。
これまでの不動産業界では、内覧・物件案内については、実際に店舗に来てもらい、スタッフが案内するのが一般的でした。
しかし、この形態ですと、急に内覧がしたい場合や地方にいる場合には、内覧はできないといった不便さがありました。そこで、以下のようなサービスが展開されています。
スマートロックには「Qrio Smart Lock」や「NinjaLock|スマートロック」「米国で人気のスマートロック「August(オーガスト)」
物件をVRで体験できるサービスには「バーチャル内覧アプリケーション「Room VR」」や「SUUMOスコープ」などがあります。
不動産取引において、売りたい(貸したい)人と買いたい(借りたい人)をマッチングさせるサービスも登場してきています。
このようなサービスは、事業者自身は、不動産取引に関与せず、あくまでマッチングさせるだけのサービス(不動産・賃貸 物件情報は直談.comやカウルなど)が多いです。
最近、多くなってきているのが、不動産の売り手と買い手との間での売買や、貸主と借主との間での賃貸借を、web 上でマッチングさせるサービスです。
このようなサービスでは、従前の一般的な水準よりも低額の手数料や手数料を無料するサービスが出ています。
単純な売買や賃貸だけでなく、請負工事の発注者と請負人とをマッチングさせるサービスや居抜き物件のマッチングサービスなどがあります。
不動産の売買や賃貸の代理や媒介を業として行う場合は、宅地建物取引業法上の免許が必要です。
この点「媒介」とは、どのような行為を言うのかは、明確に規定されていません。
裁判例上は、「当事者の一方の依頼を受け、当事者間にあって宅地建物の売買、交換、貸借の契約を成立させるためにあっせん尽力するすべての事実行為」とされています。
具体的にどのような行為が「媒介」に該当するかについては、例えば、「取引物件の探索、物件情報の提供、売却広告、権利関係等の調査、現地案内、契約当事者の引き合わせ、取引物件等に関する説明、取引条件の交渉・調整、契約締結の立会い等、契約成立に至る尽力行為をいう」とされています。
ただ、上記のうち、一つでも行えば、直ちに「媒介」に当たるわけではなく、どこまでの行為をすれば「媒介」に当たるかは、専門的な判断は必要です。
ここで重要なのは、単に売りたい(貸したい)顧客と買いたい(借りたい)顧客をマッチングさせるのみでは、「媒介」には当たらず、宅建法上の「免許」は必要ないということです。
また、単なる情報提供のほかにも、不動産情報の検索機能の提供や情報・意思表示の伝達などは、原則として「媒介」には該当しないと言えるでしょう。
上記のように、マッチングのみのプラットフォーム事業者は、宅建法上の免許は必要ありません。では、実際に、不動産を売りたい人、貸したい人は、宅建法上の免許は必要ないのでしょうか?
上記のように、宅建法上の免許がいる場合とは、不動産の売買や賃貸の代理や媒介を業として行う場合です。
ここで、「業として」とは、反復継続して行うことをいいます。よって、売主が、自己保有不動産を一回限り売買する場合には、宅建法上の免許は必要ありません。
また、「不動産の売買や賃貸の代理や媒介を業として行う場合」とあるので、不動産オーナーが、自己所有物件について賃貸業を営むことは、宅建法上の免許は必要ありません。
マッチングサービス運営事業者は、利用規約の中で、ユーザーである売主や貸主に対して、宅建法上の免許が必要な場合には、きちんと取得することを義務付けることが必要です。
不動産屋さんの完全オンライン店舗などはできるのでしょうか?
現行法上では、以下の要件を満たさなければならないとされています。
このようなことから、重要事項の説明については、「対面」で行う必要があるとされています。そうなると、不動産の完全オンライン店舗を運営することは、法律上、難しいです。
もっとも、重要事項説明書について、IT化が本格運用されています。
上記運用になって可能となるのは、重要事項の説明義務の履行をIT化を利用して行うことにとどまります。重要事項を記載した書面の交付がデータによりなされることを可能とするものではありません。
AIによって、各社の過去の取引情報などをもとに、不動産の現在価値や成約価格などを推定・算出するサービスがあります。
ここで注意すべきことは、「不動産鑑定業」とは、自ら行うと他人を使用して行うとを問わず、他人の求めに応じ報酬を得て、不動産の鑑定評価を業として行うこととされています。
そうなると、報酬を得ないで不動産の経済価値を判定・表示するのであれば「不動産鑑定業」に該当しないことになります。
以上のように、不動産Techの場合には、既存の法律との抵触が生じる可能性があります。
ビジネスとしては、可能性がある分野である分、法律面でつまづくことのないように、事前に法律的に手当できるところは、対策をしておくことが必要です。