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システム開発の紛争は法律的にどのような事実を整理するべきか【解説】【2022年10月加筆】

システム開発のための法律

システム開発紛争に備える

弊社でも、多くのシステム開発紛争事案の相談があります。システム開発の現場では、多かれ少なかれ、必ずトラブルになります

そこで、今回は、システム開発の現場でトラブルになったとき、なりそうなときに、どのようなところに気を付けるべきかを解説します。

システム開発の当事者の把握

システム開発のプロジェクトの当事者としては、主にベンダとユーザです。しかし、一定規模以上になると組織体制もシステムの構成も複雑になります。

開発対象となるシステムと、存続させる既存システムがいくつもあり、それぞれ担当するベンダが異なることも多いです。

ベンダの下請けとなる協力会社や、ユーザのプロジェクト・マネジメントを支援するコンサル会社、パッケージソフトウェアのベンダなど、多数の当事者が関与しています。

現に、トラブルとなっている当事者間だけでなく、トラブルの影響範囲や、潜在的な紛争を把握するためには、組織体制やシステムの構成、これらに関わる契約関係などのプロジェクト全体を把握する必要があります。

初期段階では、最低でも、以下の点が重要になります。

  1. プロジェクトの組織体制
  2. システムの構成
  3. プロジェクト発足からの時系列表
  4. 関係当事者との契約関係という訴訟になった場合には、裁判官に紛争の要点を効率よく把握してもらう必要がある

しかし、ソフトウェア製品や対象となる業務、あるいは開発の進め方など、背景となる知識が正しく伝わっていないと、見当違いの評価を受けることになりかねません。

念頭のおかないといかないのは、自分にとっての「常識」は、相手方や裁判所の「常識」ではないということです。

導入しようとしていたパッケージ製品の特徴の理解が必要になるかもしれないし、原価計算の方法を理解しないと不具合であるか否か判断ができない場合もあります。

こうした基礎知識は、専門分野における経験則の一種で、裁判の場では、主張・立証が必要になりますが、プロジェクトに関わる資料をいくら漁ってもこれを直接的に立証できる証拠は出てきません。

争点に関わると思われる事項については、客観的な資料を収集したり専門家の説明を聞くなどして整理しておきたいところです。

ここで整理したことは、弁護士や裁判官への説明の際などに使い回すことができます。

システム開発の資料を整理する

長期にわたる交渉や訴訟では、担当者が退職したり交替したりする可能性もあれば、弁護士に資料を提供しなければならないこともあるので、ここまでの資料収集と検討によって、自社の法的立場がおぼろげながら見えてくるはずです。

自分たちのどこに強み、弱みがあるのか、相手からどのような主張がなされるのか、その主張を覆すだけの根拠はそろっているのか、といったことを検討しなければなりません。

なお、この検討の際に、過去の裁判例の判断を過度に重視するのは危険です。

例えば「仕様を凍結するという合意の後にも仕様追加の要望があったのだからユーザに責任がある」を一般化して判断してはならないということです。

システム開発紛争に関する裁判例は特に、いずれも事例判断にすぎません。システム開発の現場は、千差万別であり、個別の事情が、ケースごとに異なります。

システム開発裁判の実際

冒頭で述べたように、訴訟の結果は予測しにくいものではあるが、こうした検討を元に、交渉での獲得目標ラインを設定することになります。

訴訟に要する期間・費用を考慮し、交渉段階である程度、譲歩するのも一つの手段です。訴訟になると、システム開発紛争は、通常の民事事件と同様にランダムに配転されます。

そうなると、裁判官が、システムのことを分からないといったことが、発生します。

弁護士が明かす!システム開発の契約トラブルによる裁判・訴訟の現実。

システム開発紛争には、専門委員というシステムの専門家が関与するケースが多いです。専門委員は、システムの専門家なので、システムに関する理解は早いです。

また、専門委員が関与すると、付調停といって、専門委員を介した話合いの手続きがなされることがあります。

この調停では、システムの専門家を介しての話合いになるので、システムの中身に突っ込んでの話合いがされます。しかし、最終的に話し合いがまとまらなかった場合には、再度、訴訟手続きに戻るので、紛争が長期化する可能性があります。

システム開発紛争において、裁判以外の解決手段

システム開発紛争においては、裁判以外の解決があります。

一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)に設置されたソフトウェア紛争解決センターです。

同センターは、仲裁、中立評価、単独判定、和解あっせんなどの手段を用意しています。この手段には、システム開発紛争の経験がある弁護士や技術専門家らが事件を担当します。

この手続きでは、最短で2か月程度、大規模なものでも、半年程度で、結論がでることから、訴訟よりも早く結論が出る傾向にあります。

システム開発紛争の判例の傾向

実際のシステム開発訴訟になった場合には、どのような傾向があるのでしょうか。

裁判例の中には「ベンダ=専門家vsユーザ=素人」という構図で、ベンダ側に厳しい判決を判断をする場合があります。

しかし、システム開発は、普通の事件以上に、個別事情が判決に影響します。自社の有利な主張、証拠があるかを整理し、裁判官に伝える能力が必要になってくるのです。