IT法務・AI・Fintechの法律に詳しい弁護士|中野秀俊のホームページです。 IT法務や仮想通貨(ICO)、AIなどのITビジネスを専門に扱う法律事務所です。
グローウィル国際法律事務所
10:00~18:00(月~金)

投資契約書で注意すべき条項(会社運営に関する条項)について【解説】

IT企業のための法律

スタートアップ・ベンチャー企業にとって必須の投資契約書

スタートアップ・ベンチャー企業にとって、資金調達をする際に、VCなどから投資契約書が出されることがあります。

そのときに、起業家、経営者が注意すべき条項について解説します。特に、今回は会社運営に関わる事項です。

取締役・オブザーバー派遣に関する条項

投資家は、出資をするスタートアップ企業に取締役を派遣することを求めることがあります。投資家としては、出資先企業に取締役を派遣することによって、事業上の重要な情報を即時に把握することができるようになります。

取締役の一員として取締役会に出席することにより、事業運営の監督をすることができるというメリットがあります。

第X条(取締役の指名)

  1. 投濱家は、会社の取締役1名を指名することができる。この場合、会社および株主は投資家が指名した者が会社の取締役に選任されるよう協力し、必要な手続きを取るものとする
  2. 投資家の事前の書面による承諾がない限り、前項に基づき投資家が指名した取締役を解任することはできないものとする
  3. 第1項に基づき投資家が指名した取締役の職務遂行に関し、投資家は会社および株主に対し、いかなる責任も負わないものとする

投資家から取締役を派遣することを求められた場合、最も重要なことは取締役会の構成がどのようになるのかという点です。取締役会決議が必要な場合、決議をするためには取締役の過半数の賛成が必要となります。

取締役会の過半数を握られてしまうと、投資家の株式数が過半数に至らない場合でも会社の実権を投資家が握ることになってしまいます。

また、派遣される取締役の職務について、第3項のような投資家の責任限定が規定されることもよく見られます。

出資を受けるスタートアップ企業としては、このような規定を受け入れざるを得ないことも少なくありませんが、同時に派遣される取締役に経営上のアドバイスや取引先の紹介などを期待する場合、投資契約に派遣される取締役の役割として規定しておくことを求めておくことが考えられます。

投資家によっては、取締役は派遣しないものの、オブザーバーとして指名された者が取締役会に出席できるように求めてくる場合もあります。

この場合、取締役ではありませんので取締役会決議には参加できませんが、オブザーバーが出席することにより直接間接に影響を与える可能性がありますので、オブザーバーの役割についてもしっかりと話し合っておくことが必要です。

重要事項の承認・通知に関する条項

取締役・オブザーバーの派遣は、投資家がいち早く情報を手に入れることができることと、事業方針を含めた重要事項を決定する取締役会に出席することにより、事業運営の監督をするという目的があります。

投資契約書には、重要事項の承認・通知に関する条項が設けられることが一般的です。

第X条(重要事項の承認・通知)

  1. 会社および株主は、以下の各号に定める事項について決定または承認する場合、投資家の事前の書面による承認を得るものとする
    1. 定款の変更
    2. 株式の発行、新株予約権の発行、自己株式の取得・処分、株式併合その他総株主の職決権の数が変動する行為または変動する可能性を生じさせる行為
    3. 株式の譲渡承認
    4. 合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡、事業譲受
    5. 解散、清算または破産手続き開始、民事再生手続き開始、会社更生手続き開始その他倒産手続き開始の申立て
  2. 会社は、以下の各号に定める郭項が生じた場合、投資家に対して直ちに通知し、その対応について投資家と協議を行なうものとする
    1. 訴訟、差押、仮差押、仮処分その他の法的手続きの開始
    2. 重大な損失の発生
    3. その他会社の事業または財務状況に重大な影響を与える事象

第1項は、事前承認事項であり、言い方を変えると投資家による拒否権です。
これは、スタートアップ企業の経営者の自由を制限するものです。

投資家としては、投資している以上、計画どおり利益を上げてもらう必要がありますので、当初の計画に反することや会社にマイナスの影響が生じる可能性があることを自由にさせられないという考えは当然ともいえます

あまりに細かい事前承認事項を規定してしまうと経営のスピードが損なわれる可能性があるので注意が必要です。

なお、事前承認とするのではなく、事前に通知して協議を行なうという義務にとどめる場合もあります。

この場合、最終的な決定権はなおスタートアップ企業側(経営者側)に残されていますが、事前に協議をしなければ義務違反となってしまいますので、無断で進めることがないよう注意が必要です。

上場努力義務

最後に、会社運営に関する条項として上場努力義務に関する条項を取り上げます。

投資家は、スタートアップ企業に対して「投資」をしているわけですから、そのエグジット(出口)が必要です。そのエグジットの一つであり、スタートアップ企業への投資における中心ともいえるのが株式の上場(IPO)です。

多くの場合、株式上場時の株価は投資時よりも上がりますので、株式上場によって投資家は大きな利益を得ることができます。

そこで、投資契約書には以下のような上場努力職務に関する条項が設けられることがあります。

第X条(上場努力義務)

  • 会社は、XXXX年X月を目途として、会社の株式を上場すべく最善の努力をするものとし、投資家はこれに協力する

ここでのポイントは「上場をする義務」ではなく「上場すべく最善の努力をする義務」であるという点です。経営者としては、あくまでも「上場すべく最善の努力をする」義務にとどめなければなりません。

なお、努力義務でも、上場に向けて努力をしていないと、それは義務違反であると評価され、損害賠償請求の対象となることも考えられます。

少なくとも設定された時期までに上場が難しい場合には、投資家に説明をして理解を求める、新たな上場までの計画を示す、といった対応が必要です。