民法改正の施行日が、2020年4月1日に迫っています。
今回の民法改正では、様々なことが変わっていますが、特にIT企業にとって、重要なところが、請負契約と準委任契約のところです。
前回は、請負契約の瑕疵担保責任の変更点と契約条項の修正案を解説しました。
参考記事:改正民法における業務委託契約(請負契約)における瑕疵担保責任の条項案のポイント
代表弁護士の中野は、東京弁護士会・法曹親和会の改正民法プロジェクトチームのメンバーであり、
改正民法についての著書(改正民法(債権法)の要点解説)もあります。
今回は、請負契約と準委任契約の他の条項について、みていきます。
※民法改正に伴う契約書のひな形を無料でダウンロートできるようにしましたので、ご参照ください。
請負人の報酬は、仕事の目的物の引渡しを要するときは引渡しと同時に、引渡しを要しないときは、仕事の完成後に支払うこととされており、現行民法には、仕事の完成前に請負人が報酬を請求することができる旨の規定はありません。
しかし、仕事を完成できないことにつき、注文者に帰責事由があるときは、報酬全額の請求が可能で、さらに、それ以外の場合でも、判例は、請負人が仕事を完成することができなくなったことを理由に請負契約が解除された場合において、以下の場合には「既に完成した部分について」は解除をすることができないとしていました。
その結果、請負人は既に完成した部分に対応する報酬を注文者に対して請求することができることになります。
改正民法では、上記の判例法理を以下のように明文化しました。
当該部分について仕事の完成があったとして、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができることが定められました。
請負人(受託者)としては、これまで仕事の完成前の割合的報酬が規定されていない業務委託契約を締結していた場合、民法改正を契機に、割合的報酬規定を設けることについて委託者と交渉することが考えられます。
なお、改正前後を問わず、委託者の受けた「利益の割合」は一義的ではないため、業務委託契約の中途解約時に受託者(請負人)が得られる報酬の額は明確化しておくべきです。
条項例では、具体的な支払額やマイルストーンを別紙として定めることを想定しています。
第○条(業務委託料の支払い)
その一方で、注文者(委託者)としては、仕事の内容が可分でない場合にまで、単純な日割計算等による割合的報酬規定を設けたりすることのないよう注意すべきです。
改正民法で請負人の割合的報酬が明文化されたのは、あくまで仕事の内容が可分である場合に限られます。
また、委託者としては、完成した仕事の一部により委託者が受ける利益と、支払うべき割合的報酬の額が釣り合っているのか、吟味する必要がある。
主な改正内容 委任契約において受任者が報酬を受け取ることについて合意がなされた場合、報酬の請求時期は委任事務の履行後となるのが原則です。
この点、現行民法では、委任事務の履行ができなくなったことにつき受任者に帰責事由がなければ、受任者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるとされています。
しかし、委任者に帰責事由があるときは、全額請求可能ですが、受任者の帰責事由により委任事務の履行が中断したときは、受任者は割合的報酬を請求することができないとされています。
改正民法では、以下の通り、受任者は委任者に報酬を請求できるとしました。
第○条(業務委託料の支払い)
委任(準委任)契約は、請負契約とは違い、作業時間や作業内容に対して、報酬が支払われます。
もっとも、勝訴判決を得た場合に成功報酬を支払う弁護士への訴訟委任など、委任事務処理の成果に対して報酬が支払われる場合があります。
現行民法には、成果の達成が委任報酬の支払いの条件となっている場合の規定はありません。
改正民法では、成果に対して報酬を支払う旨の合意がされた場合についての条文が新しく規定されました。
具体的には、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合、報酬は、その成果の引渡しと同時に支払うこととされました。
成果が引渡しを要しない場合は、委任事務を履行した後で、成果物が渡した後に報酬を請求できることになります。
改正民法は、原則として、改正法の施行日( 2 0 2 0 年 4 月 1 日)後に締結された契約や施行日後に発生した債権に適用され、現行民法下で既に締結している契約には引き続き現行民法が適用されます。
もっとも、現行民法下で締結された契約が改正法の施行後に合意により更新された場合(いわゆる自動更新条項による更新の場合を含む)、それ以降、改正民法が適用されると解されています。
そのため、現在締結しているすべての業務委託契約に改正民法が影響するわけではないが、相手方との間に継続的な委託関係があり、改正法施行後も契約が更新される見込みがある場合には、更新までのタイミングで改正民法対応のための交渉を行うことを検討すべきです。