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ライセンス契約における「表明保証条項」とは【解説】

IT企業のための法律

ライセンス契約の表明保証について

ライセンス契約を締結する場合に、ライセンス契約の対象である知的財産権や技術について、その有効性や第三者の権利を侵害しないことに関し、ライセンサーが表明保証を行うべきか否かについては、日本の法律に明示的な規定はありません。

民法では、570条に瑕疵担保責任が規定されていますが、この規定がライセンス契約に準用されるか否か、また、準用されるとして、ライセンス対象の知的財産権に無効理由があることや、ライセンス対象技術が第三者の権利を侵害していることが、同条にいう「隠れた瑕疵」に該当するか否かは、判例上、明らかになっていません。

したがって、ライセンスの対象となる知的財産権や技術について、ライセンサーが何らかの保証責任を負うのか否か、また、負うとした場合の責任の範囲や内容については、契約上明記しておくことが、疑義とそれに伴う紛争を避けるためには、望ましいといえます。

ライセンシーの観点

ライセンシーの観点からすれば、一定の対価を支払ってライセンスの許諾を受ける以上、知的財産権の有効性や第三者権利の非侵害について、ライセンサーに表明保証してほしいと考えるのは自然といえます。

特に、ライセンス対象の知的財産権は、事後的に無効と判断されることがあり(特許法123等)、知的財産権が無効とされれば、対象となっていた発明等を第三者も自由に使えることとなるため、ライセンシーの立場としては、ライセンス契約の価値がなくなるに等しいと考えるかもしれません。

また、ライセンス対象の技術が第三者の権利(特許等)を侵害していた場合、同技術の使用を続けることは、差止請求権(特許法100条等)の対象となり、また、損害賠償請求(民法709条)の対象にもなります。

そうなると同技術を使い続けることはできなくなるため、この点も、ライセンサーに対して、第三者の権利を侵害していないことを表明保証してほしいと要望する理由になります。

ライセンサーの観点

他方、ライセンサーの観点からすると、ライセンス対象の知的財産権に無効理由がないと確信を持つことは難しいのが、実際です。

特許を例に考えると、一度有効に成立して登録された特許であっても、同じ発明を記載した先行文献が後に発見されたがために、その有効性が否定されることは、よくあるケースです。

また、第三者の権利に関しても、ライセンス契約当時、公開されていなかった特許出願が事後的に登録されることにより、ライセンス対象技術に対する差止請求権の根拠となることがあり得ます。

さらに、既に公開されている特許出願についても、最終的に登録されるのか、また、登録されるとして、いかなる技術的範囲を含む形で登録されるのかを事前に予測するのは極めて困難です。

以上の点を考慮すると、ライセンサーとしては、ライセンス対象の知的財産権の有効性や第三者権利の非侵害について表明保証をするのは、避けたほうが望ましいといえます。

ライセンシーの観点とライセンサーの観点で、表明保証条項を入れるべきか否かの利害は対立しますので、かかる条項を入れるか否か、入れるとして、いかなる内容とするかは、重要な交渉ポイントとなり得ます。

妥協点としては、例えば、ライセンサーが知る限りライセンス対象の知的財産権に無効理由がないとか、契約締結時点において第三者から知的財産権の侵害を主張する通知書等を受け取っていないなど、表明保証対象の事実関係を限定した規定を置くことが考えられます。

ライセンス契約の表明保証違反の効果

日本の民法上、表明保証という概念や用語は用いられておらず、その違反の効果も規定されていません。

したがって、ライセンス対象の知的財産権の有効性や第三者権利の非侵害について、一定の表明保証条項を置く場合、その違反の効果についても規定することが重要です。

この点も、最終的には当事者間の交渉に委ねられる事項ではありますが、表明保証違反が判明した場合の効果の例としては、以下を挙げることができます。

  1. ライセンシーによる契約解除
  2. ライセンシーが被った損害の賠償請求
  3. ライセンシーが支払ったライセンス料の返還請求

ライセンシーによる契約解除

①の契約解除は、ライセンス対象の知的財産権が無効となった場合や、ライセンス対象の技術の使用が不可能となった場合に、ライセンシーがそれ以上のライセンス料支払義務を免れるという機能があります。

ライセンシーが被った損害の賠償請求

②の損害賠償請求については、損害の範囲についても検討することが重要です。例えば、ライセンス対象の技術を使うことができると期待して行った設備投資の費用が損害に含まれるかといった点は、ライセンサーの責任に大きな影響を与えるおそれがあります。

他にも、第三者から権利侵害を主張されて提起された訴訟への対応費用や、当該訴訟の結果として判決で命じられた損害賠償の額などを対象とすることが考えられます。

ライセンシーが支払ったライセンス料の返還請求

③のライセンス料の返還請求については、特許を例にとると、無効審判が確定した場合、特許権は初めから存在しなかったものとみなすとの規定(特許法125条)との関係が問題となります。

この規定を理由として、特許が無効となった場合は、支払い済みライセンス料はライセンシーに返還されるべきとの考え方があります。ライセンス対象の知的財産権の有効性をライセンサーが保証していた場合には、ライセンス料の返還請求が認められるべきとの主張は、より説得力を増すかもしれません。

他方で、特許が無効と判断される以前は、ライセンスなしに特許発明を実施していれば侵害と判断されるおそれがあった以上、ライセンスの許諾を受けることによる利益をライセンシーは享受していたとして、ライセンス料の返還を認めるべきではないとの考え方もあります。

こうした疑義を避けるためにも、表明保証違反があった場合のライセンス料返還義務の有無について、契約上規定しておくことが望ましいといえます。


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