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最先端の仮想通貨ビジネスといえども、インターネットビジネスであることは変わりありません。そのため利用規約の定めは重要です。
現状の仮想通貨取引所でも、利用規約の規定をめぐって、議論が起こりました。
そこで、今回は、コインチェックとZaifの利用規約から、仮想通貨事業者にとって、最適な利用規約をみていきたいと思います。
そもそも、利用規約とは、事業者とユーザーとの約束事を規定したものです。そして、これは契約書の代わりになるものです。
これは、本来であれば、契約書という形で、双方の署名捺印をするべきものですが、インターネットのサービスでこれをするのは現実的ではないので、利用規約という形で、お互いの契約事項を規定しておくのです。
利用規約については、契約書の代わりになるものなので、基本的に、どのようなことを定めてもOKです。事業者が、利用規約を定め、ユーザーがこれに同意すれば、それが契約となり、双方はその規定を遵守する必要があります。
ただし、どのようなことを定めても良いからといって、無制限に何を定めても良いかというと、そうではありません。特に、BtoCサービスについては、消費者契約法に注意する必要があります。
消費者契約法とは、事業者と比べて、立場が弱いユーザーを保護しようとするものです。よって、一方的に、ユーザーに不利になるような条項を置くと、無効になる可能性があります。
2018年1月末に、仮想通貨流出騒動があったコインチェックですが、その利用規約の規定についても、ネット上で話題になっていました。
例えば、コインチェックの利用規約には、以下の条項がありました。
コインチェック利用規約
第17条(免 責)
5 当社は、当社による本サービスの提供の中断、停止、終了、利用不能又は変更、登録ユーザーのメッセージ又は情報の削除又は消失、登録ユーザーの登録の取消、本サービスの利用によるデータの消失又は機器の故障若しくは損傷、その他本サービスに関連して登録ユーザーが被った損害につき、賠償する責任を一切負わないものとします。
ここで、問題となるのは、「賠償する責任を一切負わないものとします。」という条項です。
このように、一方的に、事業者が責任を負わない規定は、有効なのかというのが、問題になります。
消費者契約法第8条1項には、以下の内容が定められています。
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
以上のように、BtoCビジネスにおいて、事業者が「一切の責任を負わない」という規定は、無効になってしまうのです。
よって、上記コインチェックの利用規約の規定は、消費者契約法に違反し、無効となる可能性が高いです。
裁判例でも、FX取引の利用規約で、コンピューターシステムの故障や誤作動等で生じた損害は、事業者は免責されると定めた免責条項につき、消費者契約法第8条1項1号に照らして、事業者に責任がある場合には適用されないと判示しています(東京地裁平成20年7月16日)。
仮想通貨取引所Zaifを運営するテックビューロは、ハッキングにより仮想通貨が流出したことを発表しました。金融庁は、同社に対し、3度目の業務改善命令を出しました。
Zaifの仮想通貨流出が波紋 金融支援公表も…異例の3度目の業務改善命令
ここで、問題になったのは、仮想通貨取引所Zaifの利用規約が、事件発生日の前日に改定されていたことです。
Zaif Exchange利用規約の一部変更のお知らせ
利用規約を改定した箇所は、以下の通りです。
第9条 取引2項(変更前)
⑤当社は、当社による本サービスの提供の中断、停止、終了、利用不能又は変更、本会員のメッセージ又は情報の削除又は消失、本会員の登録の取消、本サービスの利用によるデータの消失又は機器の故障若しくは損傷、その他本サービスに関連して本会員が被った損害につき、賠償する責任を一切負わないものとします。(変更後)
⑤当社は、当社による本サービスの提供の中断、停止、終了、利用不能又は変更、本会員のメッセージ又は情報の削除又は消失、本会員の登録の取消、本サービスの利用によるデータの消失又は機器の故障若しくは損傷、その他本サービスに関連して本会員が被った損害の填補を保証するものではありません。(変更前)
⑦当社は、システムの異常による本サービスにおける本サービスで取り扱う仮想通貨に係る約定を取り消すことができます。その際、当社は、当該取消その他本サービスに関連して本会員が被った損害につき、賠償する責任を一切負わないものとします。(変更後)
⑦当社は、システムの異常による本サービスにおける本サービスで取り扱う仮想通貨に係る約定を取り消すものとします。その際、当社は、当該取消その他本サービスに関連して本会員が被った損害の填補を保証するものではありません。
前述の通り、「一切の責任を負わない」という条項は、条項自体、無効になる可能性が高いです。これを、「損害の填補を保証するものではありません。」に変更したことになります。
利用規約の変更について、経済産業省が定める「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」では、以下のように定めています。
利用者による明示的な変更への同意がなくとも、事業者が利用規約の変更について利用者に十分に告知した上で、変更の告知後も利用者が異議なくサイトの利用を継続していた場合は、黙示的にサイト利用規約の変更への同意があったと認定すべき場合があると考えられる。
そして、当該準則では、利用規約の変更について利用者に十分に告知した上で、変更の告知後も利用者が異議なくサイトの利用を継続していた場合は、黙示的にサイト利用規約の変更への同意があったと認定すべき場合がある、としています。
そして十分に告知したと言えるためには、サイトへの掲載だけではなく、ユーザーへのメール送信等による通知も行うことが望ましいとされています。
事業者としては、利用規約の変更をする場合には、ユーザーに対して、適切告知するとともに、メール通知などの措置も取り、利用規約の変更が有効とされるような措置を取るようにしましょう。
以上のように、仮想通貨事業者の利用規約は、話題になることが多いです。
仮想通貨ビジネスは、多額のお金が動く分、ユーザーの関心も高いところです。また、ひとたび、問題が起これば、事業者にとって、多大な損害が生じる可能性が高いです。
仮想通貨事業者は、きちんとした利用規約を作成するようにしましょう。