多発する従業員の引き抜き行為
IT企業からの相談で多いのが、従業員を引き抜かれた、
元取締役が引き抜かれた従業員と、競業会社を立ち上げた
といった引き抜き事案です。
従業員の引き抜き行為については、法律上、どのような規制があるのでしょうか。
今回は、最新の事例を加筆し、見ていきましょう!
引き抜き行為は、原則として違法性はないが…
裁判例などでは、従業員の引き抜き行為自体は、原則として違法性はないとされています。
しかし、社会的相当性を逸脱し、極めて背信的な方法で行われた場合には、違法行為となるとされているのです。
では、社会的相当性を逸脱しているかどうか、どのように判断されるのでしょうか?
裁判例上、以下のような事情が考慮されています。
- 退職から引き抜き行為が行われる迄の期間
- 引き抜き行為の秘密性(退職時期の予告の有無)・計画性
- 元の会社への中傷や信用毀損行為の有無・程度
- 顧客への働きかけの有無
- 引き抜かれた従業員の数
- 元の会社の損害の程度等
社会的相当性を逸脱したと認定される事情は
それでは、社会的相当性を逸脱したと認定される場合には、どういう事情があったのでしょうか。
以下、裁判例で、問題になった事情を見ていきましょう。
- 勧誘行為が長期に(1年くらい)、一定期間集中して、氏名・番号などが書かれたリストをもとに退職方法をなど説明しつつ勧誘したこと
- 情報が会社に漏れないように手配していること
- 引抜の対象となる従業員の数が、大量といえること
従業員が72名の会社で、60名以上引き抜いた事案で、「大量性」を肯定
- 経営者など、会社の内部事情をよりよく知っているものが、
「会社に残っていると危ない。損をする」といた具体的な話をし、
その上で、新会社の待遇を説明(暗に、新会社の方をすすめてる)していること
- 計画性があること
⇒退職後すぐに、勧誘行為を開始し、すぐに自分が立ち上げた会社へ引き抜いたケースでは、
「用意周到で計画性が高い」といった認定のもとに、引き抜きの違法性を肯定した例もああります。
違法性が否定される事情とは
- 「元役員と会社側で、従前から経営方針が対立していた」場合に、「不合理な経営体制、不合理な人事措置」などへの対抗措置として行われた、という要素は、元役員側に有利に考慮されることがある。(高知地判平成2年1月23日、東京地判平成5年8月25日)
- 同時に、やめた従業員が、元役員の考え方に同調していた場合
- 勧誘対象となる従業員と面談の上で、(ⅰ)会社の概要を説明したり、(ⅱ)(もともと、当該従業員が旧会社に不満を持っており、転職の意思がある、という前提だが)「新会社に入らないか?」といった働きかけをした場合
引き抜きが違法だとして、損害賠償の金額とは
引き抜きが違法だとして、一体いくらの損害を請求できるのでしょうか?
考えられる損害の種類としては、①逸失利益、②新たに発生する採用コスト、③これまで辞めた従業員に対してかけた研修費などが考えられますが、裁判所は、①逸失利益のみ認める傾向にあります。
逸失利益の算定は、引き抜かれて退職した従業員の給与を基準とすることが多いです。
そして、辞めた従業員の月給の平均額に、4ヶ月程度を掛けた金額が、引き抜かれた者、一人当たりの損害賠償となる裁判例が多くあります。