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社員の勧誘・引抜き行為に対する損害賠償っていくら取れるの?

IT企業のための法律

社員の引抜き行為に対しての損害賠償

自社社員を、他社に引き抜かれた!許せない!そんな相談が、弊社にもよく来ます!

他社の従業員に対し、自社に就職するよう勧誘したり引き抜いたりする行為については、明確に禁止する法律上の規定はありません。

原則として営業の自由の範囲内です。

しかし、このような引抜き行為が著しく社会的相当性を欠く手段、態様において行われた場合には、例外的に違法とされています。

では、社会的相当性を逸脱しているかどうか、どのように判断されるのでしょうか?

裁判例上、以下のような事情が考慮されています。

  • 退職から引き抜き行為が行われる迄の期間
  • 引き抜き行為の秘密性(退職時期の予告の有無)・計画性
  • 元の会社への中傷や信用毀損行為の有無・程度
  • 顧客への働きかけの有無
  • 引き抜かれた従業員の数
  • 元の会社の損害の程度など

こちらは、詳しくは「IT業界に多い「従業員の引き抜き行為」法律では損害賠償などを請求できるの?」に書かれています。

IT業界に多い「従業員の引き抜き行為」法律では損害賠償などを請求できるの?【2019年11月22日加筆】

引抜きによる損害賠償の金額

勧誘行為や引抜き行為により従業員が退職してしまった場合の損害としては以下のようなものがあります。

  • 当該従業員が在籍していたならば当該従業員が稼いだであろう利益(逸失利益)
  • 当該従業員が退職したことに伴い、新たに従業員を募集しなければならなくなったために必要となる採用コスト
  • 当該従業員に対してこれまで費やした教育研修費用

裁判例では、(1)のうち因果関係が比較的はっきりしている一定期間について、かつ不要となった人件費を控除した後の部分を認め、(2)や(3)は認めないことが多いです。

引抜きによる損害賠償が認められた事例

コンピュータ・プログラマー及びシステム操作要員の派遣を目的とする原告会社の元代表取締役が、会社を退職して競業会社を設立し、原告会社の従業員に働きかけて新会社(被告会社)に移籍させた事案です。

この事案では、原告会社の元代表取締役が、在職中に独立を考え、他の取締役とともに新会社設立に関する検討を開始し、顧客会社に対して新会社設立の計画を伝えて新規に契約することを働きかけたり、原告会社の従業員らに移籍の働きかけを行うなどし、退任後も原告従業員に対して新会社に移籍するよう勧誘した結果、10名の従業員が移籍することになりました。

裁判所は,「退職者が生じたことによる損害は、これを補充するまでの間において得られるべきであった利益という観点から算定するのが相当である。」としました。

そして、損害賠償の金額として、退職した従業員が生み出してきた利益の4か月分の限度において認めるとしました。

そして、1か月の利益の算定については、1名につき1か月あたり20万円とするのが相当としました。

そして10名につき4か月分の逸失利益は800万円であると認定しました。この1か月の利益の算定については、個別の事案ごとで異なります。

また、学習塾の引く抜き事例で、3月分の授業料から必要経費を控除(30%)差し引いた金額を損害とした例や、登録派遣社員を引き抜いた例では、派遣料損害額の3か月分を損害とみるのが相当であるとしました。

引抜きによる損害賠償が認められなかった事例

原告会社は、元従業員らの違法な引抜き行為により、22名が退職したため、顧客の新規開拓を行う原告会社の能力が低下し、また既存の顧客が逃げるなどの事態を招いた結果、手数料収入が減少したとして、当該減少を損害であると主張した事例です。

裁判所は、「原告の主張する手数料収入の減少が、退職の結果であると断ずる根拠はない。」として、損害賠償の請求を認めませんでした。

このように、引き抜き行為があって、従業員が退職した結果、売上が落ちたとしても、その分の損害賠償…というのは認められない傾向にあります。