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ベンチャーキャピタルからの投資契約における「強制売却権(ドラッグ・アロング・ライト)条項」とは

IT企業のための法律

VC投資契約で注意すべき条項

ベンチャーキャピタルからの出資を受ける段階になり、VC側から投資契約を受け取ることがあります。

この投資契約に注意すべき条項として、「ドラッグ・アロング・ライト」があります。

この「ドラッグ・アロング・ライト」とは、簡単にいうと、会社の売却を強制できる権利になります。

つまり、会社のM&Aを強制することができる権利ということになります。

例えば、会社を運営していくにつれて、バイアウトの話があったとき、一定の要件(例えば、株主総会の3分の2以上の承認)を満たした場合には、他の株主に対して買収に応じるべきことを請求できるという条項になります。

「買収」を強制する権利すから、非常に強力な条項になります。

VCなどの投資家としては、投資した会社に、M&Aの話があった場合には、そのM&Aを実行して自らの投資の回収を図りたいと考えるのは自然です。

よって、この条項は、このような投資家側から規定することを要請されるケースが一般的です。

これは「強制売却権」「売却請求権」「売渡請求権」などとも呼ばれます。

ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)が行使される条件とは

投資契約においては、ドラッグ・アロング・ライトが、どのような要件を満たした場合に、投資家側が、他の株主に対して買収に応じることを請求できるかという「発動要件」が規定されます。

例えば、以下のような場合です。

  • 全株主の総議決権の○%以上の賛成があった場合
  • 優先株主の総議決権の○%以上の賛成があり、かつ、会社の取締役会で承認された場合
  • 優先株主の総議決権の○%以上の賛成がある場合

当然ですが、経営陣にとっては、ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)が発動されないように、厳しい条件をつけておいた方がよいです。

ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)のポイント

投資契約において、ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)条項が、契約交渉で問題になるケースがあります。

経営者側からすると、投資家の意向で、自分の望まない時期に、望まない金額で売却を強制されてしまうから困ります。投資家側も、投資した以上は、リターンを適切に得る必要があるのです。

そうなると、ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)条項の「時期」と「金額」の規定を両者、納得できるものにしていく必要があります。

例えば、投資家側としては、上場目標時期までにIPOできなかったらさすがにM&Aに応じてほしいと考えているなら、「ただし、〇年〇月〇日以降に限り適用される」という形で、期限を設定することが考えられます。

また、投資家側としては、この期限について、ファンドの満期との関係で設定することも考えられます。

「金額」としては、例えば、「買収で想定される時価総額が○億円以上の場合に限り適用される。」などと規定することにより、経営陣も納得のバイアウトの条件をつけることが考えられます。

「時期」「金額」の両方を規定しておくことも考えられます。

例えば、上場目標期限までは、買収で想定される時価総額が一定額以上の場合に限り適用されるが、ある期限以降はそのような金額制限なく適用されると設計することも可能です。

このような形で、経営陣と投資家が、M&Aの時期や金額について、よく話し合い、適切な形でドラッグ・アロング・ライトの行使条件が設計されることが望まれます。

契約当事者を誰になるのか

ドラッグ・アロング・ライトを規定する場合には、契約当事者について検討する必要があります。

ドラッグ・アロング・ライトの目的が「少数株主に買収に応じることを請求できるようにする」ことにあるのであれば、反対する可能性のある少数株主を全て契約当事者にして拘束しておく必要があります。

この場合には、全株主を契約当事者とする必要があります。

株主が多い場合に、全ての株主を「投資契約」の当事者とすると、全株主に投資契約の内容を開示することになってしまううえ、投資契約の内容のチェックの負担までかけてしまうのも不合理であるため、ドラッグ・アロング・ライトの規定だけを抜き出して、別途、合意書等を作成するケースもあります。

ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)は、慎重に

以上のように、ドラッグ・アロング・ライト条項については、経営者側、投資家側で利害が対立しやすい規定です。

そもそも、この条項の意味することが分かっていないと、後から想定外の事態が生じてしまいます。

慎重に条項を決めるようにしましょう!