他人のコンテンツを使用するときに、著作権法の「引用」を満たす必要があります。
引用の要件はすべて満たすことを前提として引用を行う場合に、元のコンテンツの一部を権利者に許諾なく変更することはできるのでしょうか?
著作権者には権利として、著作者人格権があります。
著作者人格権には、「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」があります。その中で勝手に元のコンテンツの内容を変えるのは同一性保持権侵害なります。
すなわち著作者は著作者人格権の1つとして、著作物の内容について他人に無断で改変されない権利、「同一性保持権」を有しています。
これに反するような「改変」行為があったという場合には、当該行為の差止め、慰謝料請求等をなし得ることとなります。
「改変」とは、元のコンテンツに増減変更が加えられることを指すとされています。
元のコンテンツに誤植と思われる記載がある場合においても、これを変更することは「改変」にあたり、そのような変更は原則、同一性保持権侵害となると考えられています。
裁判例としては、送り仮名の変更、読点の削除、中黒「・」の読点への変更、改行の変更が同一性保持権侵害とされたものがあります(東京高判平成3年12月19日「法政大学懸賞論文事件」)。
ただ、例外的に改変行為があっても、同一性保持権侵害とならない場合があります。それは、著作権法20条2項各号に規定されている事項がある場合です。
この中でも、一般の引用という観点から出てくるのは同条項4号の場合です。同条項4号は、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」と定めておりますが、この規定に該当する場合には、引用の際に改変を行っても同一性保持権侵害にはならないということとなります。
裁判例としては、「小林よしのり『ゴーマニズム宣言』引用事件」(一審:東京地判平成11年8月31日、控訴審:東京高判平成12年4月25日)において、もとの漫画を引用する際に、①原カットで醜く描写された人物につき両目部分に黒い目隠しをした点、②原カット内に記載された文言を丸で囲み、漫画の欄外に向かってそれぞれ線を引いた先に新たな文言を記入した点、③原カットでは3カット横並びであったものを、左の1カットを中のカットの下に配置した点が、それぞれそもそも「改変」にあたるのか、改変だとして「やむを得ないと認められる改変」にあたるのかが争われました。
裁判所は、一審・控訴審ともに、①の目隠しは「改変」にあたると認定したうえで、「描かれた人物は同人がこれを見れば不快に感じる程度に融く描写されており名誉感情を侵害するおそれが高い」、「目隠しによってそのおそれが低くなった」、「目隠しは引用者によることが明示されている」という各点をとらえ、「やむを得ない改変」にあたると判断しました。
②については、一審・控訴審ともに、原カットの内容を完全に認識することができること、加筆をしたのが引用者であることが明らかであって、当該箇所を原著作物の一部と誤解するおそれがないとして、そもそも「改変」にあたらないとしました。
③のカットの配置変更については、「改変」にあたることは一審・控訴審ともに認定しましたが、「やむを得ない改変」にあたるかでは一審と控訴審で判断が分かれました。
すなわち、一審では各コマを読む順序に変更が生じる可能性がないこと、もとのコマ割りで引用するために縮小すると小さな文字で書かれたセリフ部分が判読しにくくなることをとらえ「やむを得ない改変」としましたが、控訴審では文字が判読しにくい点は本文中で引用すれば足りること、縮小しなくても原カットのまま引用できる方法があることから、そのような改変は、引用書籍のレイアウトの都合を不当に重視し、原カットの表現を不当に軽視したものとして「やむを得ない改変」にはあたらず、同一性保持権侵害にあたると判断しました。
このように、引用の際に改変を行った場合でも、「やむを得ない改変」にあたれば同一性保持権侵害とならないこととなりますが、あくまで例外的な場合であり、「やむを得ない改変」に該当するかは、極めて限定的です。
引用の際には著作物の表現をそのまま用いることを原則とし、どうしてもその一部を改変したいという場合には、「やむを得ない改変」にあたるか否かは十分に注意しましょう!