IT法務・AI・暗号資産ブロックチェーンNFT・web3の法律に詳しい弁護士|中野秀俊
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AI(人工知能)開発で重要な情報が盗まれた!【不正競争防止法】

ロボット・AI・ドローンの法律

AI開発で、自社の情報が盗まれた!

AI開発においては、高度な情報の蓄積により成り立っています。そんな中、自社のAI開発による情報が無断で利用されるなどのケースが生じる場合があります。

例えば、仲違いで、会社を去った元取締役や従業員が、自社のAI開発における重要な情報を勝手に利用してしまうということが起こりえます。

このような場合に、会社としては、どのような法律上の請求ができるのでしょうか?

不正競争防止法

不正競争防止法は、他人の技術開発、商品開発等の成果を無断で利用する行為等を不正競争として禁止している法律です。

そして、不正の手段により「営業秘密」を取得する行為や不正取得した営業秘密を使用し、または関係する行為等に対しては、営業秘密を有する者は、差止請求や損害賠償請求をすることができるとされています

そこで、AIやデータについて不正競争防止法によって保護されると考えられます。AI関連でいうと、以下のデータが、保護の対象となります。

  1. 生データ
  2. データの取得方法、作成方法、加工方法、解析方法についてのノウハウ
  3. 学習用データセット
  4. AIのプログラム
  5. ニューラルネットワークの構造
  6. 学習済みパラメータ
  7. 学習済みモデル(派生モデルも含む)
  8. 学習方法のノウハウ

これらの情報・データについては、著作権・特許権の保護を受けることができないことがあるので、不正競争防止法による保護が意味があります。

ここで、問題となるのが、「営業秘密」という規定です。

不正競争防止法では、「営業秘密」が盗まれた、勝手に使われた場合には、法律上保護するが、営業秘密に当たらないと保護しない
という法律になっています。

そして、「営業秘密」とは「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」としており、1)秘密管理性、2)有用性、3)非公知性の3要件を満たすことが不正競争防止法による保護を受けるために必要であるとされています。

この3要件のうち、大事なのは、1)秘密管理性、3)非公知性なので、この点を解説します。

秘密管理性

AIをサーバからネット経由で提供するような場合には、AIのプログラム・データの内容を利用者に秘密にすることは比較的容易であり、秘密管理性要件を満たしやすいです。

他方、例えばAIを搭載した掃除ロボットや自動運転車のように、AIをマイクロチップなどに搭載したAI組込み製品を市場で販売するような場合には、その製品を購入した者は、マイクロチップを読み取ることでプログラム・データの内容を知ることができます。

そのような場合には、秘密管理性は失われてしまうことになってしまいます。

秘密管理性を保つために、AI組込み製品の製造・販売者としては、まず、消費者との間で秘密保持契約を締結することが考えられますが、そのようなことは現実的ではないですし、製品が転売されたような場合には、転売先に秘密保持契約の効力を当然に及ぼすことはできません。

そのため、秘密保持契約という方法で秘密管理性要件を満たすことは困難です。

そこで、秘密管理性を保つために、マイクロチップやマイクロチップの収納容器にマル秘表示をすること、マイクロチップの収納容器を特殊なねじで封入し第三者が容易に開封できないようにしたり、開封したら破壊されるようにすること、プログラム・データを暗号化することなどが考えられます。

このような対策を施すことで、一般情報と秘密情報を合理的に区別し、利用者が秘密情報であることを認識することができるので、秘密管理性があるとされる可能性が高めることができます。

非公知性

秘密管理性要件と同様に、AI組込製品を市場で販売するような場合に、非公知性要件が満たされるかが問題となります。

この点、市販された製品から営業秘密が一般に知られ得る状態にある場合には、非公知性はないとされています。

情報の内容が特別な手段をとらずにわかる場合はもちろん、何らかの分析や解析、リバースエンジニアリングが伴う場合であっても、それによって容易に営業秘密が取得できる場合には、非公知性がないと解されています。

他方、情報の内容が暗号化されているなど、リバースエンジニアリングが容易ではなく、それによる営業秘密の取得は相当程度に困難で、コストがかさむような場合には、非公知性は維持されると解されています。