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【宇宙と法律】宇宙ビジネスへの法整備「宇宙活動法」を弁護士が解説【2023年9月加筆】

法律時事ニュース

宇宙ビジネスの法整備

日本では平成20年に宇宙基本法が制定されました。

この法律では、宇宙ビジネスへの民間参画を促す市場環境の整備を狙いとした法制度の整備が義務付けられました(宇宙基本法35条)。

また、経団連が、2030年度までに宇宙ビジネスの市場規模を20兆円程度に拡大すべきである旨を提言していて、宇宙ビジネスの民間参入も活性化しています。

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そして、日本では2016年11月9日には、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(以下、「宇宙活動法」といいます。)が成立しました。今回は、この宇宙活動法を解説します。

宇宙活動法の概要

宇宙活動法は、民間事業者の宇宙ビジネスへの参画を規定しています。主な特徴は、以下の通りです。

  1. 人工衛星やその打上げ用ロケットの打上げ又は管理に内閣総理大臣の許可が必要
  2. 人工衛星等の打上げに伴う事故によって損害が発生した場合の損害賠償請求について
  3. 人工衛星等の打上げに伴って発生し得る損害賠償債務を打上げ事業者のみの負担とする

それぞれ、見ていきましょう。

ロケット打ち上げの許可制

宇宙ビジネス発展のためには、民間事業者の参入の活性化が不可欠です。

しかし、日本が批准している宇宙条約(正式名称:月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を規律する原則に関する条約)では、民間企業の活動についても国が国際責任を負担し、許可や継続的監督を必要であるとの規定されています。

また、宇宙損害責任条約(正式名称:宇宙物体により引き起こされる損害についての国際責任に関する条約)において、人工衛星等の落下によって諸外国が被った損害について、国が無過失責任を負うと規定されているので、宇宙ビジネスへの民間参画には、国の関与が必要になってきます。

そのため、宇宙活動法では、民間業者が、人工衛星やロケットを打ち上げる際には、厳格な安全性審査基準が求められ、行政の許可が必要になります。

具体的には、日本国内、人工衛星等の打ち上げを行おうとする者は、打上げの度に、所定の申請書類を提出して内閣総理大臣の許可を得る必要があるのです。

許可の審査においては、法に定められた所定の基準を満たすことが必要です。

審査項目としては、
ロケットの飛行能力、点火装置等につき外部要因による発火の防止機能、ロケットの飛行安全管制のためのコマンドの送受信機能、及び緊急時の飛行中断機能等、ロケットやその打上げ施設等につき安全性が確保されているか、また、打上げ用ロケットに搭載される人工衛星の利用目的や方法が宇宙基本法や諸条約に適合し、公共の安全性が確保されているかといった観点から審査が行われます。

打上げに伴う事故によって損害が発生した場合の損害賠償請求について

上記のような許可基準があるとはいえ、ロケットの落下事故等が起きた場合には、甚大な被害が生じます。その損害額は、莫大なものになることが予想され、その損害額を誰が負担するのかという問題が生じます。

そこで、宇宙活動法では、打上げ事業者に無過失の損害賠償責任を負わせています。

しかし、それだけですと、打ち上げ事業者の資力の問題が生じるので、打ち上げ事業者に対して、ロケット落下等損害賠償責任保険契約を利用した損害賠償担保措置を義務付けています。

被害者には、上記保険の保険金から損害金が支払われることになるので、被害者が保護される仕組みです。

また、上記保険でもカバーできない多額の損害が発生した場合には、政府が一定額を負担するロケット落下等損害賠償補償契約という制度も創設されています。

打上げ事業者のみに損害賠償義務を負わせる

宇宙活動法では、ロケットの打上げにおいて、事故が発生した場合に、被害者に対して損害賠償債務を負う主体を打上げ事業者に限定し、その他のメーカーには、責任を負わせないことになっています。

こうすることで、衛星運用者や部品メーカー等の市場参画を容易にし、国際競争力の強化を図るためです。

なお、被害者に対する損害を賠償した打上げ事業者が、責任を負うべき衛星運用者や部品メーカーに対して、自身が支払った金額を賠償請求することはできます。

ただし、打上げのために提供された資材その他の物品又はサービスの提供者に対する請求は、故意によって発生した場合に限定する(民法上は、「故意または過失」)とされています。

法律の整備で、ビジネスの後押しに

以上のように、宇宙活動法によって、不透明だった宇宙ビジネスに、一定の方針が示されました。

日本としても国を挙げている政策なだけに、今後の宇宙ビジネスの発展に注目です。