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従業員が交通費を不正受給!IT企業としては、どのような対処をすべきか。【2021年11月加筆】

IT企業のための法律

従業員が交通費を不正に受け取っていた

従業員の交通費について、多くのIT企業では、従業員から申請された区間を全額支給しており、住所地の変更による通勤ルートの変更については、従業員からの届出制を採用しているのではないでしょうか。

しかし、転居などで入社時に申告した通勤区間より短くなったにもかかわらず、報告等をせず、実際の通勤区間より長い区間の交通費を受給しているといった場合や、実は自転車通勤していたという従業員も少なからず存在します。

これは、交通費の不正受給にあたります。

一人の金額は数千円でも、不正受給をしている社員が多くいたり、不正受給の期間が長ければ、莫大な金額となることもあります。では、交通費の不正受給が発覚した場合、会社としてはどの様に対処したら良いのでしょうか?

民事上の責任

交通費の差額は、契約などの原因がないにもかかわらず、一方が利益を得て他方が損失を被った場合に該当し、不当利得となります。

会社側は、従業員に対し不当利得の返還を請求することができる可能性があります。

刑事上の責任

故意に申告をしなかった場合には、刑法上の詐欺罪に該当しうる可能性があります。詐欺罪は、最長で10年の懲役刑が科されることもある重大な罪です。

企業として不正受給への処罰はどうすべきか

事例としては、転居後の報告漏れが発端である場合がほとんどですが、近年では、健康のために実は自転車通勤をしていたなどといった事例も増えてきています。

また、交通費の不正受給が不正であると認識していないことが、非常に多いのが実情です。

では、会社側としてはどのように処罰をしたら良いのでしょうか?

過去には、4年8か月に渡り不正受給をしていた場合でも、懲戒解雇は処分として重過ぎるという判例もあり、いきなり解雇処分とするのは難しいのが実情です。

そのため、会社としては、けん責や訓戒、重い処分であっても減給や降格にとどめておく必要があると言えます。

ただし、処分は基本的には就業規則に則り行うものになりますで、交通費の不正受給における処分について、就業規則に規定されていることが必要となります。

そのため、転居した際は、社内でどのような手続きが必要なのか、そして、会社としてどのような処罰を施すかを規定し、全従業員に周知徹底する必要があります。

企業としての対応手順は

実際に不正受給が発覚した場合の対処手順としては、以下のような対応が考えられます。

①事情をよく確認すること

会社として、当事者の話を一切聞かずに処分を下すのは、事実誤認があった場合に問題となる可能性もあります。そのため、必ず意見を述べる場を作りましょう。

②証拠を残すこと

①にて聴取した内容が事実であれば、調書を作成しましょう。その際、当事者には必ず署名捺印をさせること!

他にも、不正を裏付けるものがあれば、保全しておきましょう。

③会社として調査をする

当事者の言い分に誤りがないか、不正受給の期間はどのくらいか、金額は総額いくらになるのかなど、当事者の言い分だけを信用せず、会社としても調査をしましょう。

証拠隠滅の恐れがある場合や、他の社員への混乱を避けるために、によっては出勤停止させるなどの措置も必要かもしれません。

④処分を検討する

面談や調書をもとに、処分を検討します。事情や金額、反省の弁などを総合的に考慮して決めることになるでしょう。処分が決定した際には、書面で通知しましょう。

もし、減給処分とする際には、減額の限度額が労働基準法で定められているため、減額のし過ぎには注意しましょう。

また、不当利得分の返還をさせるか否か、させる場合には返還方法なども検討する必要があります。指定口座への振り込みによる返還とする場合が多いです。

金銭的問題以外にも弊害が!

会社として社員の正しい住所を把握していないと、緊急事態に対処ができなくなる可能性もあり、場合によっては労基署から管理体制を問われる可能性もあります。

また、実は自転車で通勤していたなどといった場合には、通勤途中に交通事故等にあった場合、労災として処理する必要があるかもしれません。

会社としては、厳正な処分をする!ということを知ってもらうことが必要

1円でも1万円でも、不正受給は立派な横領であり、ちりも積もれば大きな損害です。

会社としては、兎にも角にも就業規則をしっかりと整備しておき、従業員には「厳格な処分がある」ということを知ってもらい、規定の通勤区間・方法以外の通勤をさせない決まりを確立させましょう。