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M&A契約の「キーマンクローズ」と「競業禁止条項」における法律的な注意点【2022年6月加筆】

IT企業のための法律

「キーマンクローズ」とは

M&Aの条件交渉が大詰めを迎えた場合に、契約書に規定する条項が問題になります。

ここで、問題になるのが、「キーマンクローズ条項」です。

キーマンクローズ条項とは、M&Aで会社(株式)を売却後も、代表取締役等の経営者などが、一定期間は職務を継続するという条項です。

スタートアップ・ベンチャー企業の場合、創業者が大きな影響力を持っており、従業員もその創業者がいるから、働いているというケースがよくあります。

バイアウト後に、創業者などのキーマンがいなくなってしまうと、会社の業績にも響いてしまい、買収側としても、買収した目的を達成できないケースがあります。

よって、多くの場合には、買収側からこのキーマンクローズ条項を盛り込むことが求められています。

キーマンクロ-ズ条項の注意点

キーマンクローズ条項は、会社(株式)売却する側には、一定の制約になります。

ただ、上記のように、ベンチャー企業の場合には、創業者をはじめ、キーマンがいないと運営できない場合も多いので、バイアウトの際には、必須の前提条件として提示される場合も多いのです。

そこで、売却側としては、どの範囲であればキーマンクローズ条項を受け入れられるかを検討する必要が生じます。

検討する事項は、次の3つです。

  • 期間
  • 期間中の報酬
  • インセンティブ

まず、売却した会社にコミットする期間を決める必要があります。最低でも、1年はコミットすることが多く、2~3年といった条項もあります。

また、その期間中の報酬も決めておく必要があります。

創業者からすれば、拘束されるからには、その期間中の報酬条件やインセンティブを適切に保証してもらいたいと考えるはずですので、その旨は契約書にその旨を盛り込んでおく必要があります。

また、売却側の創業者として、売却後も会社の運営に携わりたい場合にも、上記のことはきちんと定めておく必要があります。
買収側からは、取締役の解任権の行使される可能性もあります。

このようにことがないように、対象会社の経営者たる地位を奪われないことを明確に規定しておく必要があります。

競業禁止条項について

買収側は、買収した会社の事業について、売却側が、同じようなビジネスに関与してもらっては困ると考えます。

売却した経営者は対象会社の事業と、同じまたは類似する事業を行ってはならない競業禁止条項を併せて要求するケースが一般的です。

売却側の創業者などは、競業禁止条項が残っている場合には、類似のビジネスを始められなくなります。

売却側の創業者などで、売却後に、関与する可能性のあるビジネスがある場合には、競業禁止条項の対象の期間・範囲は気を付けておくべきです。

例えば、競業禁止の期間を、「株式売却後より○年間」とM&Aの時点を起点として競業禁止の期間を定め、「在職期間中および退職後○年間」などという形で退職後も拘束を受けることはないように交渉することが考えられます。

また、株式を売却したお金で、エンジェル投資家になったり、アドバイザーとして他の起業家に、アドバイスしたりすることもあります。

そのような行為が、競業禁止条項に、引っかからないようにする必要があります。

「信頼ベースで」という言葉が、一番危ない!

上記のように、キーマンクローズ条項・競業禁止条項は、売却する側、買収する側、両方にとって、非常に重要な条項です。

一番、注意すべきなのは、「その点は信頼ベースで行きましょう」と言われ、曖昧にされてしまうケースです。

買収側の担当者と信頼関係ができている場合であっても、その担当者が会社を辞めてしまうリスクや、人事異動が生じてしまうリスクは常にあるのです。

M&A後もこのキーマンクローズ等の条項は、違反があったか否かで紛争になりやすいところですので、売却側の経営者は、新しいことをしようとする際には、M&Aの契約の締結後においても契約内容を見直したり、弁護士に相談するなどしたほうが安全です。