島野製作所(東京都荒川区)をご存知でしょうか。この会社、アップル社に部品を供給している会社なのですが、アップル社に対して、独占禁止法違反や特許権侵害に基づく損害賠償を求めている裁判を起こしました。
理由は、アップルが島野製作所に部品技術を他社に流用させたり、リベートの支払いを強要するなどしたこと。島野製作所は、アップルに対して、東京地方裁判所に提訴しました。
しかし、ここで、問題が。両社の契約書には「裁判等はカリフォルニア州の裁判所で行う」との合意があったのです。そのため、そもそも、日本の裁判所で審理できるのか?という点が問題になりました。
この点、東京地裁は「今回の契約書にあった裁判等はカリフォルニア州の裁判所で行うという合意は無効」とする中間判決を出したのです。
相手とトラブルになったときに、「訴えてやる!」という風になりますが、じゃあ具体的にどの裁判所に訴えるのか…これが「裁判管轄」という問題です。
裁判所は、日本全国にあり、もっといえば、世界各地にあります。裁判になったときに、どこの裁判所で行うのかは、法律で詳細に定められていますが、契約によっても定めることができます。
多くは、契約書の一番最後に、(合意管轄)という条項があり、そこで紛争になった場合は、どこの裁判所で行うかが規定されています。
基本的に、契約で裁判管轄が記載されていれば、そこの裁判所で訴えなければならないのです。よって、国内の契約でも、裁判管轄は重要ですが、国際間の契約では、非常に重要になってきます。
契約書で、裁判管轄が定められていたのに、裁判所はなぜ無効だと判断したのでしょうか。日本の民事訴訟法では、国際間の裁判管轄の合意を定めた民訴法3条の7は次のような条文です。
- 当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる
- 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない
ここで重要なのは、2項の『一定の法律関係に基づく訴えに関し』という部分です。つまり、契約で裁判管轄を定める場合には、「一定の法律関係」をきちんと規定する必要があるのです。
例えば、『当事者間の一切の紛争に関するもの』といった抽象的で広すぎるものでは、契約による裁判管轄が認められない可能性があるのです。
今回のアップルと島野製作所間の契約書を見てみないと分からないですが、裁判管轄の規定の仕方が抽象的で広すぎたことが考えられます。
今回の判決によって、国際間の取引の場合には、裁判管轄という条項を入れておけば大丈夫…とは限らないことが分かりました。合意管轄の規定の仕方も、きちっと考えるようにしましょう!