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ヤマハや河合楽器製作所などが手がける音楽教室での演奏について、日本音楽著作権協会(JASRAC)は、著作権料を徴収する方針を固めたとのこと。徴収額は年間10億~20億円と推計されています。
JASRACが音楽教室からも著作権料徴収へ 年間10~20億と推計、ヤマハなど
批判の声も上がっていますが、この法的ポイントはどこにあるのでしょうか?
今回、JASRACが問題にしたのは、音楽教室での演奏です。
著作権法上では、著作権者に「演奏権」があります。JASRACは、音楽教室での演奏について、著作権法上の「演奏権」を侵害すると判断しました。
著作権法上の「演奏権」とは、公衆に楽曲を聞かせることを目的として演奏する場合、著作権者の許諾が必要となります。法律が想定している「公衆」の典型的な場合は、コンサートで演奏する場合です。
反対に、彼女の誕生日に、彼女にだけ演奏する場合などのように、特定の少人数に聞かせる目的で、楽曲を演奏する場合は「演奏権」が及ばず、著作権者の許諾は不要です。
そうなると、ポイントは「公衆」の解釈になります。実は「公衆」の判断については、過去の裁判でも度々争われてきました。
例えば、社交ダンス教室での曲を演奏した場合について、ダンス教室の生徒は「公衆」に当たるとした判例(名古屋地裁H15.2.7)があります。
この判例では、次のように判示しています。
受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は、組織的、継続的に行われるものであるから、社会通念上、不特定かつ多数の者に対するもの、すなわち、公衆に対するものと評価するのが相当である。
特定の受講生に対する曲の演奏(CDなどの再生も含む)も「公衆」の要件を満たすとしています。
今回の音楽教室での演奏は「演奏権」を侵害しているのでしょうか?
音楽教室側は、特定の生徒に対する、教育目的の演奏であり「演奏権」を侵害していないと反発しています。
上記の判例では「公衆」性の判断に当たって、以下のことが考慮されています。
このことを考えると、音楽教室も同じ事情にあるといえ「公衆」性が満たされる方向になりそうです。
しかし、一方、同判例は、「受講生は、あらかじめ固定された時間帯にレッスンを受けるのではなく、事前に受講料に相当するチケットを購入し、レッスン時間とレッスン形態に応じた必要枚数を使用することによって、営業時間中は予約さえ取れればいつでもレッスンを受けられる」こと。そして「レッスン形態は、受講生の希望に従い、マンツーマン形式による個人教授か集団教授(グループレッスン)かを選択できること」という事情も考慮しています。
この点、音楽教室では、時間指定やマンツーマンレッスンのみのところもあります。
このような場合に「公衆」性を満たすのかは、議論の余地があります。
仮に、音楽教室が「演奏権」を侵害しているとして、いくらの支払をしなければならないのでしょうか?
今回、JASRACは、受講料収入の2.5%徴収することを想定しているとのことです。
法律上は、著作権侵害をした場合には、侵害者に対して、損害賠償請求をすることができます。もっとも、著作権を侵害されたことによる損害というのは、算定が難しいので、法律上は救済規定があります。
つまり、以下について損害賠償請求できるという規定があるのです。
もっとも、音楽教室では、クラシック音楽などの楽曲を利用することも多いと思います。
クラシック音楽などは、著作権の保護の対象期間外です(保護期間は、著作者死後(公表後)50年)。対象期間外の楽曲を使用しても、当然、JASRACは、利用料金を徴収する権限はありません。
よって、正確に、利用料金を算出することは難しく、受講料収入の2.5%が妥当かどうかの判断は、非常に難しいといえます。
著作権は、特許権や商標権と違い、権利の発生に特許庁の登録が必要ありません。
そのため、知らぬ間に、著作権侵害していることも多々あります。また、侵害しているかが微妙なケースが多々あります。
どういう場合が著作権侵害になるのか、しっかりと見極めましょう!