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既存の著作物ではなく、新たな著作物を利用する場合に、その制作を外部に委託することがあります。
その際には制作の発注段階の契約において、その成果物の著作権の扱いについて取り決めておくことが大事です。
著作権の扱いとしては、大きく分けて、発注者が成果物の著作権の譲渡を受ける方法と、著作権は受注者に留保したまま発注者が利用許諾を受けるという方法が考えられます。
成果物の著作権の譲渡を受ける場合、翻案権及び二次的著作物の利用に係る権利(著作権法27条、28条)は、譲渡の目的として規定しておかなければ譲渡されていないものと推定されてしまいますので注意が必要です。
発注者から見て、成果物をできるだけ自由に利用したいのであれば、著作権譲渡を受けてしまうほうが、その後の利用に対する制約は少なく、便利ではあります。
一方、受注者から見れば、成果物の著作権を譲渡してしまえば、以後自分自身でもその著作物を利用することができなくなってしまいます。
従来はコンテンツの受発注に際して発注書なども交付せずに、口頭で受発注が行われることも多かったようです。そういった場合に、当事者間の「力関係」に物を言わせて、発注者に成果物に関する権利を譲渡させるケースも多かったようです。
しかし、2010年に公正取引委員会から「コンテンツ取引と下請法」というガイドブックが発行されたこともあり、近年ではコンテンツ取引においても下請法に従った所定の発注書面を交付するようになっています。
裁判例においても、撮影した写真の著作権に関して、口頭では「権利の買取り」という合意がされていたにもかかわらず、それは著作権を譲渡するという趣旨ではなく、包括的な使用許諾の趣旨であったと認定したものもあります。
このような裁判例に照らすと、きちんと発注書や契約書をやりとりして権利関係を明確にしておくことは、発注者にとってもメリットがあるといえるでしょう。
成果物の著作権は受注者に留保したまま、発注者で目的に応じた範囲で利用許諾を受けることもあります。
発注した時点において成果物の利用範囲が明確に決まっているような場合であれば、その範囲で許諾を受ければ足りますし、発注先が有名なクリエイターであったりする場合など、著作権譲渡まで受けることが取引慣行に合致しないこともあります。
権利譲渡の場合と異なり、利用許諾の場合には、発注段階で予定していた範囲と異なる態様で作品を利用したいと思った場合には、改めて許諾を求める必要が出てきます。
そう考えると発注者としては、やはり著作権譲渡を受けてしまったほうが良いようにも思えますが、前述の「コンテンツ取引と下請法」でも、コンテンツ作成の目的たる使用の範囲を超えて、二次使用権などを無償で譲渡・許諾させることが不当な経済上の利益の提供要請に当たると説明されていますし、発注者と受注者の関係によっては独占禁止法上の優越的地位の濫用にも当たり得ます。
とにかく権利を買い取ってしまえば良いということではなく、予定している利用態様やコストなどを勘案して、許諾を受けるのか譲渡を受けるのかを検討する必要があります。
許諾を受けた後で当初予定をしていなかった態様で追加的に利用する必要が生じたのであれば、改めて許諾を受けたうえでその分の対価を支払うというのがフェアであるように思います(その代わり、正当な対価さえ支払えば不当に利用拒絶されないような契約上の対策は必要かもしれません。)。
コンテンツの発注の段階で、成果物の利用目的や展開の可能性などに照らして、必要十分な権利処理を行うことが重要です。