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AI(人工知能)が、他人の知的財産(著作権や特許権)を侵害した場合には、どうなるの?【2021年11月加筆】

ロボット・AI・ドローンの法律

AI自身が、著作権侵害した

AI技術が、どんどん進化していくと、人間が意図せずとも、AI自身が生み出したコンテンツが、他人の知的財産権を侵害することが考えられます。

例えば、人間の指示によらずに、AIがウェブ上から他の者の著作権があるデータを収集したり、AIが生成する画像や音楽が、他の者の画像や音楽の著作権を侵害するようなケースです。

このような場合に、AIの使用者は、他人の権利を侵害する意図もなく、AIの行為について具体的な指示をしていなかったにもかかわらず、AIが行った知的財産権の侵害の責任を問われるのでしょうか。

AIが自動的に行動した結果、知的財産を侵害している場合には、AIに対する差止めや損害賠償請求が可能かという点が問題となります。

差止請求

まず、差止請求については、差止めの対象となる行為については故意・過失は必要ありません。

つまり、客観的に侵害しているかどうかが問題であり、客観的に侵害している行為に対しては差止めがなされます。

差止請求の請求される者は知的財産を侵害する「者」または侵害するおそれのある「者」であり、人間である必要です。

判例では、ゴルフ場の開発許可の取消しを求めたが、裁判所は、動物には訴訟の当事者となる能力がないとして訴えを却下した事例があります。

よって、現行法では、AIそのものは法的主体とならない以上、訴訟手続においても、AIそのものに対する差止めや損害賠償請求は認められないので、請求権者は、AIの背後にいる法人や自然人に対する差止請求や損害賠償請求をすることになります。

しかし、AIの背後にいる者に対する差止請求が認められるか否かについては、AIが自動的に行動している場合には、背後にいる者がそもそも侵害しているわけでないとも考えられます。

この点については、現在の法律では明確ではなく、判例もありません。また、そもそも、AI自体が作成した物に著作権が認められるのかという問題があります。

AI(人工知能)の法律問題【著作権・特許権】を弁護士が解説

AIが生成したものが、著作物として保護されないのであれば、元の著作物の著作権を侵害しておらず、差止めも認められないという考え方もあり得ます。

損害賠償請求

損害賠償請求については、侵害する者の故意・過失が問われることになります。

故意・過失は基本的に人間のみについて判断されるものであるため、AIが人間の知らぬところで勝手に侵害行為をしたのであれば、AIの使用者には故意・過失はなく、損害賠償責任を問われることはありません

ただし、AIが知的財産権を侵害することが具体的に予想できる場合に、それを回避するような仕組みを構築していなかったのであれば、結果、義務を果たしていないことが過失であるとして、AIの使用者が過失を問われる可能性があります。

以上からすると、AIの自律的行動による知的財産の侵害行為については、差止請求については、故意過失が問題とならないとしても、AIの背後にいる者に対する差止請求が認められるか不明確です。

また、損害賠償請求については、故意過失が要件であるとされていることから、AIの背後にいる利用者が責任を負う可能性は低いです。

したがって、AIが自ら生み出したコンテンツによる知的財産の侵害行為については、権利者から警告を受けるなど知的財産権侵害行為を認識した時点で、AIに知的財産権の侵害行為を中止させるという対応をすることが考えられます。

そのため、事業者からすると、AIによる知的財産権の侵害リスクを過人に評価する必要はないのです。