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Web3・メタバース事業における日本法の重要ポイントを弁護士が解説

Web3やメタバース領域で新規ビジネスを展開する際には、従来とは異なる法律リスクが存在します。事業者として押さえておくべき日本法上の注意点を、主要な法分野ごとに整理します。
知的財産権の注意点(著作権・商標権・特許権)
NFTコンテンツと著作権
Web3ビジネスではNFTアートやゲームアイテムなどデジタルコンテンツの販売が盛んです。しかし、他人の著作物を無断でNFT化して販売する行為は著作権侵害に該当します。
たとえば第三者のイラストを許諾なくNFTにすれば、複製権(著作権法21条)や公衆送信権(23条1項)、譲渡権(26条の2第1項)などの侵害となり得ます。また、元の作品を改変してNFT化すれば翻案権(27条)や同一性保持権(20条1項)の侵害も問題になります。
実際、NFTマーケットプレイスの利用規約でも権利侵害コンテンツの出品は禁止されており、違反すれば削除やアカウント停止等の措置を受ける可能性があります。経営者は、自社が発行・販売するNFTに用いる画像・音楽等について、著作権者から正式なライセンスを取得しているかを必ず確認しましょう。
メタバース上のブランドと商標権
メタバース空間では、自社や他社のブランドロゴ・キャラクターがアバター衣装やバーチャルアイテムとして利用されるケースがあります。第三者の登録商標や有名ブランドを無断使用すれば、当然ながら商標権侵害となり得ます。
実例として、米国では高級ブランド「エルメス」のハンドバッグ「バーキン」を模したNFTアート(通称メタバース・バーキン)に対し、エルメス社が商標権侵害で提訴したケースが知られています。
日本でも商標権は属地主義(国ごとに保護)ですが、メタバース上で日本のユーザー向けに販売すれば日本の商標法適用を検討する必要があります。さらに、有名ブランドでなくとも、不正競争防止法によって周知表示の無断利用が禁じられる場合があります。企業はメタバース上で自社・他社のブランドがどう使われているか監視し、自社ブランドの保護と他社権利の尊重双方に気を配りましょう。
デジタルデータの所有権と特許
NFTやメタバース内のアイテム(仮想の土地・アバター衣装等)は、ブロックチェーン上の「データ」に過ぎず日本の民法上は有体物ではないため「所有権」の客体になりません。
ユーザーはNFT自体を法律上「保有」しているに留まり、その背後のデジタル作品について所有権を取得するわけではない点に注意が必要です。
そのため、NFT販売時には「購入者が得る権利は何か」(例:デジタル作品の鑑賞権や利用許諾)を契約上明示しておくことが重要です。
メタバース上のアバターやアイテムの扱いも契約次第で、プラットフォームの利用規約でユーザーに利用権のみ付与し、コンテンツ著作権は譲渡しないケースが一般的です。加えて、自社がメタバース関連の新技術(例えばVR装置やブロックチェーン技術)を開発した場合、特許権や実用新案権で保護することも検討しましょう。他社の特許を実装サービスで侵害しないよう、技術面の知財調査も怠らないことが肝要です。
データ保護・プライバシー(個人情報の取扱い)
メタバースにおける個人情報の範囲
メタバースではユーザーがアバターを用いて行動し、現実以上に詳細な行動データや発言ログが蓄積されます。まず押さえるべきは、これらユーザー関連データが個人情報保護法上の「個人情報」に該当するかです。
個人情報とは「生存する個人に関する情報で、氏名や生年月日等により特定の個人を識別できるもの」や「他の情報と容易に照合して特定個人を識別できるもの」を指します。
多くのメタバースサービスではユーザー登録時に氏名・メールアドレス等を取得し、それに紐づく形でアバターや行動履歴データを管理します。この場合、アバターIDや行動ログも他の登録情報と結び付けることで個人を特定できるため「個人情報」に該当します。
たとえ匿名のアバター名のみで現実の氏名を含まない場合でも、運営者が照合可能な形でデータを保持していれば個人情報とみなされるので注意が必要です。一方で、完全に個人と結び付かない統計データや仮想空間内の行動パターンのみでは「個人情報」ではなく、「個人関連情報」となります。
しかし個人関連情報であっても、利用目的の明示や適切な安全管理措置が求められる点は注意しましょう。
メタバース事業者はプライバシーポリシーを整備し、収集するユーザーデータの項目や利用目的を明確に通知・公表することが不可欠です。
Web3プラットフォームと金融規制(暗号資産・資金決済法 等)
暗号資産の法律とNFTの位置付け
Web3事業ではトークン発行や仮想通貨の利用が伴うため、金融商品取引法や資金決済法上の規制を検討する必要があります。まず、日本の資金決済法でいう「暗号資産」(仮想通貨)とは、
・不特定の者に対する支払い手段として利用できる財産的価値であって、電子的に記録・移転可能なもの等と定義されています(1号暗号資産)。また、それと相互交換可能で支払い手段性を持つものも暗号資産に含まれます(2号暗号資産)。
NFT(非代替性トークン)は、一般に一点物のデジタル資産であり、ビットコインのように広く決済に使えるものではないため、現行法上は暗号資産(仮想通貨)に該当しないと解されています。
金融庁のガイドラインでも、経済的機能が通貨代替となるもの以外は暗号資産に該当しないとの判断要素が示されており、代替性のないNFTは基本的にこれに当たらないと考えられています。したがって、単なるコレクターズアイテムとしてのNFT販売であれば、暗号資産交換業者の登録などは不要です。
NFTが法律的規制がかかる場合
ただしNFTであっても設計次第では金融規制の対象となり得る点です。例えば、発行したNFTが不特定多数間で売買され市場性を帯びる場合や、他の暗号資産と1対1で交換可能な性質を持たせた場合には、「実質的に2号暗号資産に該当する可能性」が議論されています。
また、NFTを用いた資金調達スキームでは、NFTを持っている者に収益を分配する場合には、金融商品取引法の「集団投資スキーム持分」として有価証券に該当します。
この場合には、第二種金融商品取引業の登録が必要となります。無登録で有価証券にあたるNFTを販売すれば、5年以下の懲役または500万円以下の罰金(法人は最大5億円以下の罰金)といった厳しい刑事罰が科され得るので注意してください
資金決済法とステーブルコイン
2023年6月に施行された改正資金決済法では、新たに「電子決済手段」という概念が導入され、いわゆるステーブルコイン(法定通貨連動型の暗号資産)の発行・流通が国内で可能となりました。
この改正により、ステーブルコイン発行業者は銀行や信託会社、資金移動業者等の登録業者に限定され、裏付け資産や換金請求権などの規制が整備されています。
Web3企業にとっては、独自トークンを発行してエコシステム内通貨にしたい場合に、この電子決済手段の制度に該当するか検討が必要です。例えば、自社メタバース内で法定通貨と1:1で交換可能なトークンを発行するなら、銀行等と連携した発行スキームが求められます。
資金決済法は他にも、前払式支払手段(プリペイドカードや電子マネー)の規制も含んでおり、ユーザーからお金を預かって後日サービスやアイテム提供に充てるモデルではこの規制を考慮する必要があります。要するに、トークンの機能次第で適用法律が変わるため、発行・運用前に専門家と金融法規制の当否をチェックすることが肝要です。あわせて、暗号資産の取引に関しては犯罪収益移転防止法(AML/CFT)に基づくKYC(本人確認)や取引記録保存義務も課される点を忘れないでください。
消費者保護の法律~電子商取引法・特定商取引法~
オンライン取引と特定商取引法
Web3・メタバース事業で一般消費者向けにNFTやデジタル商品、サービスを販売する際には、従来のECサイトと同様に特定商取引法や電子契約に関するルールが適用されます。
特定商取引法上、ウェブサイト等を通じた商品の販売は、「通信販売」に該当し、事業者は利用者に対して取引内容を適切に表示する義務があります。

具体的には、事業者の氏名(名称)・住所・連絡先、支払方法、引渡時期、返品・キャンセル条件などを分かりやすく表示しなければなりません。NFT販売ページであっても例外ではなく、これら法定表示事項をサイト内に掲示する必要があります。
また、誇大広告や誤認を与える表示は禁止されており、NFTの価値や希少性を宣伝する際にも根拠のない断定的表現は避けましょう(景品表示法に抵触する恐れがあります)。メタバース内ショップでの販売行為も通信販売の一形態と考えられるため、現実と同等の表示・説明を心掛けることが大切です。
Web3・メタバースと利用規約
消費者を相手にする契約全般について定める消費者契約法にも注意が必要です。とくにオンライン利用規約やNFT購入規約において、一方的に事業者に有利で消費者の権利を不当に制限する条項は無効と判断される可能性があります。
例えば、「購入後のNFTに不具合があっても一切返品・返金しない」といった条項や、「事業者の故意・重過失による損害についても責任を負わない」という条項は、消費者契約法で無効とされ得ます。また、未成年がメタバース内で課金アイテムやNFTを購入するケースも考えられますが、未成年者との契約は法定代理人(親等)の同意がない場合取り消し得るため、年齢確認や課金額に上限を設けるなどの措置を講じましょう。

またweb3やメタバース、NFTは新しい技術ゆえにユーザーが誤解しやすい点については、事前にリスクを知らせておくこともトラブル防止に有効です。
例えば、「NFTを購入してもそのイラストの著作権は手に入りません」
「メタバース内アイテムはサービス提供期間中のみ利用できます」といった重要事項は、目立つ形で表示・周知しましょう。