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日本において暗号資産(仮想通貨)ファンドの法律的注意点と実務上の論点

仮想通貨(ビットコイン、イーサリアム、リップル等)やICOの法律について仮想通貨に詳しい弁護士が解説

日本国内で暗号資産ファンド(仮想通貨ファンド)を組成・運用しようとする金融・Web3スタートアップの経営者・事業責任者に向け、本記事では関連する法規制と実務上の重要ポイントを解説します。暗号資産ファンドには、金融商品取引法や資金決済法などの金融規制に加え、マネーロンダリング対策の法律や税務面での留意事項も絡んできます。以下では、これら各観点から国内法制度上の注意点を整理し、具体的なファンド組成スキームや成功・失敗事例、最新のガイドライン情報も交えながら説明します。

また金商法の登録を受けずに、できる方法も解説しておりますので、ぜひお読みください!

目次

暗号資産ファンドに関わる主要な法律

暗号資産ファンドを巡る法的環境は複数の法律にまたがります。特に重要となるのは以下の4つの法律です。

金融商品取引法:第二種業登録とファンド持分規制

出資の募集・運用行為は証券規制の対象となり、ファンド持分は有価証券として取り扱われます。適切な業者登録(第二種金融商品取引業等)が必要か、例外適用できるかを検討する必要があります。

金融商品取引法(以下「金商法」)では、投資家から資金(暗号資産を含む)を集めて事業を行い、その収益を分配するスキームは「集団投資スキーム持分」と呼ばれる有価証券に該当します

したがって暗号資産ファンドも、その出資持分は金商法上の有価証券として規制されます。

自己募集と第二種金融商品取引業

ファンドの出資持分を発行体自ら募集・私募する行為(自己募集)は、原則として第二種金融商品取引業に該当し、内閣総理大臣(金融庁)への業者登録が必要です

無登録で一般投資家から出資を募ることはできず、違反すれば行政処分や刑事罰の対象となります。

例外(適用除外)

金商法にはファンド規制のいくつかの例外も設けられています。例えば以下の場合には第二種業の登録が不要となります。

・他の登録業者への委託:募集・勧誘行為を全て他の第二種業者(証券会社等)に委託し、自社では一切投資勧誘を行わない場合

・適格機関投資家等特例業務(いわゆる63条ファンド):出資者がすべてプロ投資家(適格機関投資家)であるか、少なくとも1人の適格機関投資家+49人以下の一定の富裕層のみの場合は、金融庁への届出だけで営業可能な制度があります

・海外投資家特例業務:出資金の50%超を海外投資家から調達し、国内出資者を適格機関投資家など限定的な者に絞る場合も登録不要となります

上記の例外に該当しない場合、ファンド募集を行うには自社で第二種金融商品取引業の登録を受けるか、登録業者と提携して代行してもらう必要があります。実務上は後者の方法(登録業者に募集取扱を委託)がよく採られます。例えば後述のSBIグループの事例では、ファンド運営会社は登録業者ではないものの、SBI証券が第二種業者として出資持分の募集行為を受託しています

暗号資産(仮想通貨)での調達も規制対象

2020年5月施行の金商法改正により、ファンド出資の受領手段として暗号資産で資金を集める場合も「金銭とみなす」規定が設けられました(改正金商法2条の2)。それ以前はビットコイン等での出資募集は金商法の範囲外でしたが、現在は暗号資産建てファンドも法規制の範囲内です。同様に、出資は法定通貨で募り配当を暗号資産で行う場合なども原則規制対象と解されています。

投資運用業の要否

金商法上、ファンド資産の運用対象にも規制があります。ファンド資産の50%以上を有価証券またはデリバティブ取引に投資する場合、そのファンドの運用行為は「投資運用業」に該当し、別途投資運用業の登録(が必要です。

一方、運用の主な対象が暗号資産の場合は「有価証券等への投資」ではないため、この投資運用業規制は及びません。つまり暗号資産メインのファンドは、運用行為については投資運用業の免許不要です。

実際、先述のSBIの暗号資産ファンド(後述)でも投資対象が暗号資産のみであるため、運用会社は投資運用業登録を取らずに運営できています

セキュリティトークンの扱い

近年、ファンド持分そのものをトークン化して発行するケース(いわゆるSTO)も検討されています。この場合、2020年改正で創設された「電子記録移転権利」に該当し、トークン化されたファンド持分は、第一項有価証券(株式等と同等)として扱われます。

その結果、不特定多数に流通可能な状態でトークンを発行・販売するには、第一種金融商品取引業の登録が必要となるなど規制が一段階厳しくなりますただし、トークン化しても発行体自ら私募で資金を集める場合は従来通り第二種業の範囲であり、適格機関投資家特例等も適用可能です

要するに、ファンド持分を一般公開のトークンとして発行する場合はハードルが高いため、現時点では多くの事例で従来型の匿名組合持分の形(後述)を取っています。

以上が金商法上のポイントです。適切な登録や届出を経ずにファンドを募集した場合、証券取引等監視委員会が差止め命令を裁判所に申し立てた例も複数あります違法な無登録営業と見做されればビジネスの継続は不可能になるため、計画段階からこの分野の専門家への相談が必須と言えます。

資金決済法~暗号資産交換業との境界~

暗号資産ファンドでは投資対象としてビットコイン等の暗号資産を自己勘定で売買・保有することになります。この点、その行為が「暗号資産の売買または交換を業として行う行為」に該当すると資金決済法上の暗号資産交換業ライセンスが必要となりますが、通常のファンド運用スキームでは以下の理由から交換業には該当しないと解されています。

ファンドが行う暗号資産の売買は、あくまで自己の固有財産の運用に過ぎず、他人のために暗号資産の交換サービスを提供する「業」ではないと考えられます

例えば合同会社(SPC)が自己資産としてBTCやETHを売買するのは、株式投資ファンドが株式を売買するのと同様に自己運用行為であり、交換業登録の対象ではありません。

投資家から見ても、出資した資金や暗号資産はファンドの中で運用されているだけであって、ファンド運営者が投資家ごとの資産を預かり交換・送付するといったサービスを行うわけではありません。したがってカストディ業務(暗号資産の管理・送付代行)にも該当しません。

資金決済法以外の関連規制

なお2023年には資金決済法の改正でステーブルコイン等(デジタルマネー型電子決済手段)に関する新制度も導入されました。原則として発行体は銀行などに限られ、海外発行のステーブルコインを取り扱う場合も登録が必要になるなどの規制があります。

ファンドがUSDT等のステーブルコインを運用に使う場合、直接ファンドが発行体になるケースは考えにくいですが、日本国内でステーブルコインを入手・利用する際には取引可能な交換業者を経由する必要があります。この点、2023年下期以降、JVCEA(日本暗号資産取引業協会)の自主規制により一部の海外ステーブルコイン(USDCなど)の国内流通が解禁されつつあります。暗号資産ファンドでもステーブルコインを流動性手段として活用する場合は、そうした最新のルール整備をフォローすることが大切です。

犯罪収益移転防止法

いわゆるAML/CFT法制で、取引時確認(KYC)などマネロン対策の義務が定められています。ファンド運営主体が該当事業者に当たる場合、投資家の本人確認や疑わしい取引報告等が求められます。

暗号資産ファンドだからといってマネーロンダリング対策の規制が緩いわけではありません。むしろ暗号資産は匿名性ゆえにマネロンに悪用されやすいとの観点から、国際的に規制強化が進む分野です。日本でも「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づき、ファンド運営に関わる事業者には以下のような義務が課される可能性があります。

取引時確認(KYC)の実施

暗号資産ファンドのスキームによって、適用範囲が異なります。例えば自社で第二種金融商品取引業の登録を行い投資勧誘する場合、その金融商品取引業者は特定事業者として投資家の本人確認義務があります。また暗号資産交換業者も同法の特定事業者であり、ファンドが交換業者を利用して資産の出入金を行う際には交換業者側で厳格なKYCが行われます。特に近年の法改正で、暗号資産交換業における取引時確認が必要となる取引金額の閾値引下げ(いわゆるトラベルルール対応)が実施されました。

これにより少額の暗号資産送金でも顧客情報の付与が必要となり、ファンドから暗号資産を外部に送付する場合(例えば利益分配で投資家にBTCで支払う等)の実務にも影響があります。

トラベルルールへの対応

2023年6月、改正犯収法が施行され、日本でも暗号資産の移転時に送金人・受取人情報を付与するトラベルルールが義務化されました。JVCEAはこれに合わせて会員(交換業者)向けに「暗号資産の送付を依頼する利用者への周知」やQ&Aを公表し、各社が対応ソリューションを導入しています。ファンド自体は交換業者ではありませんが、資産の送受信には必ず交換業者が介在するため、例えばファンドが投資家にイーサリアムで分配金を送る場合でも、利用する交換業者が発信者・受信者情報を相手方業者へ通知する仕組みになっています。要は、ファンド関係者も現行のAML/CFT体制を正しく理解しておく必要があるということです。

疑わしい取引のモニタリング

特定事業者に該当する場合、継続的なモニタリングも求められます。例えばファンドに不審な大口入金があった、あるいは分配金送付先のウォレットが過去にハッキング資金と関連している、といった場合には「疑わしい取引」として金融当局へ報告する義務が生じ得ます。暗号資産のトランザクションはブロックチェーン上で追跡可能な一方、匿名性も高いため、ブロックチェーン分析ツールを活用したトランザクションモニタリングを行うファンドもあります。

このように、AML/CFTへの対応はファンド運営の健全性確保に直結します。仮に法的に特定事業者に該当しないケース(例:無登録の63条ファンド等)であっても、「知らないうちに犯罪収益の洗浄に加担していた」などという事態は絶対に避けねばなりません。実務上は銀行口座開設時や出資金の受入時に金融機関でKYCが行われますが、ファンド側でも追加の本人確認書類取得や質問票による資金源確認を行うのが望ましいでしょう。スタートアップとはいえ、大手金融機関並みのコンプライアンス意識で取り組むことが信頼確保につながります。

ファンド組成スキームと具体的注意点

法規制の整理を踏まえ、実際にどのような形でファンドを組成するかを検討します。日本国内で暗号資産を主な投資対象とするファンドを作る場合、次のような種類があります。それぞれメリット・デメリットや法的制約が異なるため、順に見ていきましょう。

任意組合(民法上の組合)

出資者全員が無限責任(失敗したら、その分の損失もすべて出資者全員が被る)を負う組合契約です。法律上、投資対象に制限はなく暗号資産への投資も可能ですが、無限責任のためリスクが極めて高い組合員は出資額以上の損失を被る恐れがあります。

ボラティリティの高い暗号資産には不向きと言え、実務上まず採用されません。

有限責任事業組合(LLP)

会社法上の持分ではなく組合契約で、組合員は有限責任となる事業組合です。2005年施行の新しい枠組みで投資適格資産の制限はありません。ただしLLPは本来営利事業を共同で行うための組合であり、単に金融投資だけを目的とするファンドへの利用には慎重な検討が必要です。金融庁の解釈上、LLPを用いて匿名組合的に資産運用だけ行う場合でも金商法上のファンド規制は免れないため、結局は第二種業登録など必要となります。実務上も暗号資産ファンドでLLPを使った例はほとんどないようです。

合同会社+匿名組合(GK-TK)スキーム

現在、国内暗号資産ファンドで最も一般的な組成形態です

合同会社(GK)をSPC(特殊目的会社)として設立し、出資者とは匿名組合契約を結びます。GKがファンド資産を保有・運用し、匿名組合員(投資家)は出資額を限度とする有限責任でその事業の成果配分を受ける形です

このGK-TKスキームには、有限責任性・機動性・柔軟性といった利点があります。合同会社は出資者=経営者であり設立費用も安く(定款認証不要)、倒産隔離もしやすいです。匿名組合契約自体も出資額以上の負担が原則なく(有限責任)、組合員は契約を結んで出資するだけで追加の義務はありません

加えて匿名組合員の氏名は外部に現れないため、プライバシー確保(匿名性)にも一定の配慮が利きます

もっとも、GK-TKスキームで忘れてはならない法的ポイントがあります。それは、匿名組合持分そのものが前述の「集団投資スキーム持分」という有価証券に当たることです。

したがって募集を行うには金商法上の規制をクリアする必要がある点に変わりありません。例えば、SBIグループが国内初の一般投資家向け暗号資産ファンドとして2021年に組成した「SBI暗号資産ファンド(匿名組合1号)」では、営業者(SPC)がSBIオルタナティブ・ファンド合同会社、匿名組合出資の募集取扱はSBI証券が受託する形を取りました。

SBI証券は金融商品取引業の登録業者であり、このスキームにより一般個人にも販売可能なファンドを実現しています。投資対象はBTCやETHなど7種の暗号資産で構成され、各銘柄の組入比率に上限20%を設け四半期ごとにリバランスするという設計でした。

この事例は国内規制を遵守しつつ暗号資産ファンドを成功裏に立ち上げたケースとして参考になるでしょう。 一方で、失敗事例や注意すべきケースも存在します。典型的なのは無登録でのファンド募集や詐欺的スキームです。過去には「年間○○%の高配当保証」などと称して仮想通貨投資を募り、実態はポンジ・スキームだった例が複数報告されています。また海外ファンドだから日本の法律は関係ないと誤解し、国内投資家に無登録で外国籍ファンドへの出資勧誘を行い、監視委から警告を受けたケースもあります。

合同会社の社員権スキーム

出資者に合同会社の社員権(株式会社でいう「株式」)を購入してもらい、社員になってもらう。
会社は、暗号資産等に投資して、利益を社員に配当する。
この方法を合同会社の社員権スキームと言います。このスキームであれば、原則として金商法の登録は必要なく、誰でもファンドに近いことを始められます。

ただ、このスキームもファンド規制にかからないようにするために、細かい対策が必要になりますので、このスキームを取るときは、事前準備をしっかりとしましょう!

弊社では、「合同会社の社員権スキーム」の組成については、日本有数の実績を持ちます。
ぜひ、一度ご相談ください!

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海外法人スキームだったら、大丈夫?

日本居住者を相手に資金を集める以上、海外法人を設立して、その法人が募集をする方法でも、国内法規制を免れない点に留意が必要です。 もちろん日本国内の法律なので、金商法や資金決済法は、日本居住者や日本国内の法人に対してのみ適用されるものではあります。

しかし、海外法人で運営していても、経営陣の誰かが日本に居住しているときは、その経営者は日本が適用されます。また海外法人でも、日本法令を遵守していないと、金融庁から無登録営業と会社名や代表者名などを公表されてしまう恐れがあります。

https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/mutouroku.html

まとめ

以上の通り、暗号資産ファンドについては、金商法などの厳しい法律が適用されます。
きちんと登録をしてファンド事業を行うのか、合同会社の社員権スキームなどの方法で行うのか、きちんと方針を決めて、法律事項を順守して行いましょう!

仮想通貨(ビットコイン、イーサリアム、リップル等)やICOの法律について仮想通貨に詳しい弁護士が解説

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