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SES契約における法律ポイントとリスク対策

システム開発のための法律

システム開発現場では「SES(システムエンジニアリングサービス)契約」が一般的に使われています。SES契約とは、自社のエンジニアを顧客企業のプロジェクト現場に派遣し、その労働時間に応じて対価を得る契約形態です。

一般に「作業時間○時間×単価」のように料金が決まり、エンジニア不足を補う手段として広く重宝されています。しかし近年、こうしたSES契約が労働者派遣法違反や偽装請負に当たるケースが注目されています。たとえば、派遣先企業がSESエンジニアに直接作業指示を出している実態が発覚すると、違法な労働者派遣とみなされてしまいます。

違法が認定されると、労働局からの調査・指導や業務停止命令など重大な行政処分が科されるおそれがあり、企業の信用にも大きく傷が付きます。そこで本稿では、SES事業者が直面する法的リスク(偽装請負・違法派遣など)を整理し、行政調査対応やIPO審査対応の視点も踏まえて、実例を交えつつ対策を詳しく解説します。

SES契約を巡る法的リスク

SES契約の構造上、クライアント企業側がエンジニアに直接指示・監督する形態は労働者派遣と類似し、許可なく行えば違法です。
例えば、「SEが顧客企業の担当者から直接『このコードを修正して』と指示を受けた」という事例では、労働者派遣法上の禁止行為に該当する可能性があります。

実際、労働基準監督署による調査では、SES契約でトラブルとなった従業員からの通報で発覚するケースが典型的です。厚労省の統計でも、企業への指導件数や総合労働相談件数は増加の一途をたどっており、SES事業者への締め付けは厳しさを増しています。

したがって「みんなやっているから大丈夫」という考えは通用せず、後手に回ると業務改善命令・業務停止命令など公表リスクの高い行政処分を受けかねません。

こうした現状を踏まえ、SES契約が抱える法的な問題点を明確化する必要があります。

目次

SES契約と請負・派遣の違い、関連規制

SES契約は法律上「準委任契約」に近い形態ですが、実際の運用次第で労働者派遣や請負と見なされるリスクがあります。労働者派遣法では「自社で雇用する労働者を他人の指揮命令のもとで働かせる」ことが派遣と定義され、他人に雇用させる契約を除外しています。

つまりSES事業者(ベンダー)が自社エンジニアを雇用しつつ顧客企業に派遣する場合、現場での指揮命令系統がどちらにあるかが最大のポイントです。

SES契約では原則としてベンダー側が自社エンジニアを管理・指揮し、顧客は業務成果物に対する要望をベンダー責任者に伝える関係にしなければなりません。

クライアント企業が現場で直接指示を出すと労働者派遣とみなされ、登録なければ実施すれば違法となります。

また、SES契約は請負契約とも区別されます。請負契約では請負企業が仕事の完成責任を負い、成果物に対して対価を得ますが、SES契約は「時間や人数による対価」なので、成果物完成の有無にかかわらず料金が発生します。

そのため、SESが法律上請負と認められるためには「①ベンダーが全責任を負うこと、②ベンダーがエンジニアを指揮監督すること、③ベンダーが法令上の義務を負うこと、④単なる労働力提供にとどまらない事業性を持つこと」が求められます。

これらの要件が契約書や運用で担保されていないと「偽装請負」に該当し、取引先との関係が実質的に派遣型になる可能性があります

さらに重要なのが厚生労働省の「労働者派遣事業と請負との区分に関する基準」(いわゆる37号告示)です。SES事業者が適法に事業を行うためには、この37号告示の各条項に違反しない状態を保つことが近道とされています。

偽装請負対策では実態の運用が重視されますが、書類や契約内容をあらかじめ37号告示準拠とし、その「違反し得る余地がない」ことを示すことが求められますつまり、SES契約を巡る法的整備では、37号告示の要件を踏まえつつ、運用面でも実態と書類を整合させることが不可欠です

労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示37号)

契約形態指揮命令者雇用関係許可要否ポイント
SES契約(準委任)ベンダー側(現場責任者経由)ベンダー(雇用)不要顧客側が直接エンジニアに指示しないこと
労働者派遣クライアント側(派遣先管理者)ベンダー(派遣元)要(派遣元許可)顧客指揮下で働くため許可必須。許可なく派遣すれば処罰
請負契約請負企業(元請け)請負企業(雇用)不要完成責任が請負企業。成果物で対価

よくある質疑・現場トラブル

実際の現場では、以下のような事例・質疑が多く見られます。事前に想定して適切に対応策を講じておくことが重要です。

クライアントからの直接指示

クライアント企業の担当者がSESエンジニアに直接指示した場合、「それはSES契約ではなく労働者派遣になる」と指摘されます。例えば、顧客から「来週までに機能追加を仕上げてほしい」とエンジニアへ直接言われていると、派遣法違反の疑いが生じます。

対策として、顧客の指示は必ずベンダー側の現場責任者を経由させ、日々の作業指示書も責任者が発行する運用にする必要があります。

エンジニアの選定・面談

クライアントがエンジニアの職務経歴書を要求したり、採用面接を行ったりすると、ベンダーの人選に干渉していると判断されやすいです。実際、「応募者の履歴書を提出せよ」と言われたケースでは、労働局に「社内選定でなく顧客が選んでいる」と見なされ、違法とされる可能性があります。

職務経歴書の提出や面接が必要な場合は、ベンダー側の選考(スキルマッチング)を済ませた後に行い、あくまで形式的・情報確認程度にとどめるのが望ましいです。

現場責任者の常駐

SES現場にエンジニア一人だけを派遣し、責任者を置いていない場合は要注意です。労働局の見解では「常駐者が1名しかいないと、実質的に顧客の指示が直接行われていると判断されやすい」とされています。
この場合には、作業指示書を詳細に規定し、クライアント企業の指示がなくても、現場エンジニアだけで作業できるといった状況を作り出すことが必要です。

管理者不在時の対応

現場責任者が不在の状況下でクライアントから指示が出ると問題です。そのため責任者が不在でもエンジニアが独りになるような場合には代替責任者を設けるか、緊急時の指示系統をマニュアル化する必要があります。

たとえば「責任者不在時にはメールで事前承認を取る」「ベンダー管理部門がフォローする」などのフローを社内運用ルールとして定めておくとよいでしょう。

現場の状況

作業場所の区別(名札・社章の付与など)や勤怠管理方法、保険加入状況などもチェック対象になります。

労働局は現場の服装やオフィススペースでベンダー社員と顧客社員を明確に区別しているかも確認しており、社内マニュアルで取り決めがあれば安心です

以上のような質疑例からもわかる通り、SES運用では「指揮命令関係」と「労務管理の主体」が常に問題視されます。各ケースに応じた具体的な対応策を契約書と運用ルールに落とし込み、社内で周知徹底しておくことが重要です。

SES事業者への行政調査対応と対策

労働局からSES事業への調査通知が来た場合、企業は速やかに以下のような対応を行う必要があります。行政調査は事前の連絡(電話・書面通知)から始まり、実際の訪問調査・ヒアリング、そして必要に応じた是正指導・処分へと進みます。

通知受領~準備

通常、調査予定日の1ヶ月前に電話連絡があり、その後書面で日時や担当官、提出書類の概要が通知されます

通知書には訪問日程や提出書類(契約書、請求書、作業指示書、タイムシート、座席表など)が記載されているので、期限厳守で準備します。

提出書類の準備

指定された書類を漏れなく用意します。具体的には契約関係書類(基本契約書・個別契約書)、見積書・請求書・領収書など料金に関する資料、作業指示書・業務報告書など発注者とのやり取り資料、タイムシート・作業日報・勤怠表・賃金台帳といった労務管理資料、就業条件明示書や雇用契約書(雇用形態による)などです

この際、SES契約以外に出向契約や派遣契約、求人広告等の書類が求められる場合もあります。

それぞれの契約形態(出向・請負・派遣)に該当する書類を漏れなく揃え、どの契約に基づくものか自社で整理しておきます。

実態把握・整合性確認

単に書類を揃えるだけでなく、実際の運用状況を把握しておくことが肝要です。書面上は適法であっても、現場で顧客指揮が行われていれば「偽装請負」と判断されます。労働局の調査では、事前に入手していた社内マニュアルやメール等との整合性を厳しくチェックされるケースもあります。内部情報に矛盾があれば指摘されるため、社内規定と実態が一致するよう、事前に可能な限り社内教育資料や運用フロー(フローチャート・Q&Aなど)を作成しておくと安心です

調査後の対応

調査後、違反が認められれば是正指導(書面で違反事項と是正措置を指示)や改善報告の提出が求められ、再度報告書で対応状況を報告します。

重大な違反や繰り返しがあれば、最終的に「業務改善命令・業務停止命令」が出され、発出事実が公表されてしまうため企業にとって致命的です。

以上の手順を踏まえ、調査に対応できる体制を事前に整備しておくことが不可欠です。

SES事業者の対策:契約・運用面の整備

SES事業者がリスクを軽減するためには、契約書の整備や社内ルールの徹底を行うことが重要です。具体的対策を以下にまとめます。

契約書の明確化

責任者明記

SES契約書に「ベンダー側が現場責任者(及び代理者)を選任し、クライアント企業からの指示は当該責任者のみが受ける」といった条項を必ず入れます。例えば「甲(ベンダー)は現場責任者1名を選任し、乙(顧客)は作業指示等を当該責任者に行う」と明示するとよいでしょう。

契約形態の明確化

SES契約のほか、常駐先オフィスの賃貸借契約を別途締結し、作業環境もレンタルスペースであることを明示するなど、形式上も業務委託・労働派遣と切り分ける工夫が求められます。

出向契約を活用する場合には出向元・出向先との雇用関係が生じるため、かえって複雑です。出向形態を検討する際は賃金以上の対価が発生していないか、多数の企業に同一従業員を出向させていないかを十分確認してください。

リスク条項

万一ベンダー側の過失で顧客に損害が生じた場合の賠償責任条項や機密保持条項(NDA)も契約で定めます。ただしNDAは顧客が必要とする範囲にとどめ、エンジニア個人を顧客が選定しない仕組みとセットにしましょう

社内運用・マニュアル

指揮系統の明文化:前述の契約条項に沿って、実際の指揮命令経路を社内マニュアルで規定します。たとえば「現場では責任者の指示にのみ従う」「クライアント企業担当者から相談があった場合もまず責任者に連絡する」などフロー図・Q&A形式で整理しておきます

社内教育資料を作成し、営業・現場担当者にも繰り返し伝えることが必要です。

勤怠・管理体制

エンジニアの労働時間管理はベンダー側が主導して行い、シフトや休暇申請の承認もベンダー責任者が行う体制にします。作業場所では顧客社員と区別できるよう名札・社章を付け、座席表を別紙にして提示するなどの工夫も推奨されます。

勤務評価・人事考課もベンダー側で行い、顧客からの助言はあくまで参考意見と位置づけます

行政調査への備え

調査時には上記の書類・情報が求められるため、日頃から契約書・請求書・作業日報・タイムシートなどを適切に保管し、エンジニア管理台帳(就業状況、配置先)を整備しておきます。調査通知が来たら前述のプロジェクト集約や書類準備を直ちに進めるよう、社内で体制を決めておきましょう。調査官への対応では「虚偽や隠蔽は厳禁」です。たとえ不備が見つかっても正直に認め、是正計画を示す姿勢が処分軽減につながります。

逆に報告内容と内部資料に矛盾があると、労働局は「隠蔽・虚偽」と見なし、一発で厳しい行政処分を科す恐れがあります。

IPO審査への対策

SES事業者がIPO(上場)を目指す場合、上場審査機関(主幹事証券会社)はSES契約に潜む法的リスクを厳しくチェックします。IPO準備としては、まず契約書・関連文書を37号告示準拠に修正・追加し、「違法な余地がない」ことを示すことが必要です

具体的には基本契約書に37号告示2条の要件を満たす文言を加えたり、37号告示に抵触する可能性のある文言を削除・修正したりします

次に、社内運用も整備し、指揮命令系統や緊急時対応などをフローチャートやQ&A化して記録に残します。社内教育を行っている証拠資料(研修資料やマニュアル)も作成・保管しておくとよいでしょう最後に、整備した契約書・運用フローについて弁護士による確認を受け、意見書を作成すると安全性が高まります。

これにより、IPO審査の場でも「当社はSES契約に関して適法に運営されています」と主張しやすくなります。

まとめ

SES契約はIT業界で一般的な取引形態ですが、運用を誤ると偽装請負や違法な労働者派遣と判断されるリスクがあります。労働局の監督も厳しくなっており、告発や定期調査で行政処分を受ける事例が増えています。

本記事で挙げた問題点やQ&A事例、行政調査対応の流れ、IPO準備のポイントを参考に、早めに自社のSES契約実態を見直し、必要な措置を講じることをお勧めします。SES契約に関する疑問や具体的対応については、IT業界に詳しい法律の専門家に相談することが早期解決につながります。

当事務所でもSES契約に関するご相談を100社以上対応しています。労働局への対応件数も日本一の実績があります。SES事業者は、ぜひご相談ください。

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