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CVCにおいて大企業がスタートアップ企業への関わり方を解説【2023年2月加筆】

IT企業のための法律

取締役の指名/オブザベーション・ライト

投資家がスタートアップへの投資を決定する場合においても、多額の金銭を出資する以上、出資金が適切に使用されるよう、出資後のスタートアップの動きを一定程度監督することが必要です。

スタートアップの経営や運営に直接的に関与する方法は、自ら又は投資家の意向を理解する者を当該スタートアップの取締役とすることです。

スタートアップのステージにもよりますが、一定のステージ以降は投資家から取締役会の設置を要求されるため、取締役会の設置後は、取締役会の審議・決議において一定の影響力を及ぼすことができます。

そこで、株主間契約においては、特定の投資家にスタートアップの取締役を指名する権利(取締役指名権)が付与されることがあります。

投資家(又は投資家が指名する第三者)が取締役に就任することは、数多くのスタートアップに対して投資をし、EXITの過程を間近で見てきた投資家の有するノウハウや、特にCVC(又は事業会社)の場合は、当該事業分野のノウハウ等が提供されることが期待でき、スタートアップにもメリットがあります

他方で、CVCはその投資目的によっては、スタートアップやその他の投資家と利害が対立することもありうるため、利害の対立が顕在化した場合も想定しながら指名権を付与するか否かを慎重に検討する必要があります。

投資家に指名を認める取締役の人数については、初期段階(シリーズAなど)では、当該ラウンドにおける優先株式(A種優先株式)を保有する投資家全体で1名の取締役を指名するケースが多いです。

ただし、投資家の指名する取締役の影響力を一定以上に維持する等の観点から、指名人数のみならず、取締役の上限数も規定されることが多いです。

なお、指名人数を増やしすぎないようにされている主な理由は、例えば以下のとおりです。投資家としては、以下の点を踏まえて、取締役指名権を設定するのか、設定したとして行使をするのか否かを慎重に検討する必要があるのです。

  1. スタートアップ企業では創業メンバーも3名程度ということが多いところ、あまりに多数の取締役を投資家が指名できるとすると、取締役の合計人数を相当程度増やさざるを得ない結果となり、取締役会における創業者側の裁量・支配権が弱くなりすぎる可能性がある
  2. 投資家が発行会社の取締役を指名することで、スタートアップの意思決定の迅速性が失われ、結果的にスタートアップの成長を阻害する可能性がある
  3. 投資家は、スタートアップの取締役を1名指名したとしてもそれにより発行会社の意思決定権限を得るわけではないため、取締役指名権は、オブザベーション・ライトおよび情報提供義務を規定することによって代替できる場合も多い
  4. 取締役として経営に関与するということは同時に会社経営に対する責任を負うことを意味するから、「とりあえず権利を確保しておこう」という無目的な取締役指名権は無意味なだけでなく有害ですらある

このように、投資家が指名できる取締役の人数を限定的に設定していくと、次は誰が取締役を指名できるか、という点が問題になります。

この問題について、複数の投資家がいる場合、出資割合が大きな投資家に対して優先的に取締役指名権が与えられることが多いです。

投資家相互間の関係性によっては、複数の投資家が共同して1名分の取締役指名権を持つこともあります(例:そのラウンドで発行される株式の過半数の議決権を保有する投資家らが、共同して1名の取締役を指名する)。

また、取締役指名権を有しない投資家においても、相当額を出資している以上、スタートアップに対して一定の監督を行う必要があり、取締役会等の重要な経営判断がなされる場に参加してその状況を把握したいと考えることが通常です。

そこで、株主間契約において、投資家にオブザーバを指名する権利を付与することも多いです

オプザーバは、取締役ではないため取締役会の決議自体に参加することは認められないですが、取締役会や経営会議などの重要な経営判断が行われる会議に出席することが認められるように設計されます。