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投資業者、金融業者が顧客から損害賠償請求を受けたときの対応ガイド

金融・投資業者にとって、顧客から「損害賠償請求」を突きつけられる事態は避けて通れないリスクです。たとえ万全の説明や対応をしていても、市場変動や誤解から顧客とのトラブルが発生する可能性があります。
しかし、初期対応を誤ると問題が深刻化し、訴訟や行政処分に発展しかねません。
弊社では、投資業者、金融業者の側に立って、年間100件以上の交渉、訴訟事件を手掛けています。
本記事では、顧客から損害賠償請求を受けた場合の適切な対応について、法的根拠と実務ポイントを網羅的に解説します。
損害賠償請求の一般的な法的根拠
まず、顧客が投資業者、金融業者に損害賠償を求める際の法的な根拠を整理します。主に以下のような法律・原則が関係します。
民法上の債務不履行責任(契約責任)
投資業者と顧客との契約上の義務を業者が履行しなかった場合、民法第415条に基づき損害賠償責任が生じ得ます。例えば「契約どおりに説明義務を果たさなかった」「契約に反する運用をした」等があれば債務不履行として請求される可能性があります。
民法上の不法行為責任(一般損害賠償)
業者の行為が故意または過失により顧客の権利や法律上保護される利益を侵害した場合、民法第709条の不法行為責任が成立します。
契約関係がなくても、業者の違法な勧誘や虚偽説明によって損害が出た場合には不法行為に基づく損害賠償請求があり得ます。
金融サービス提供法等の責任
金融サービス提供法等では、金融商品販売業者等に重要事項の説明義務を課し、違反時の損害賠償責任を明記しています。同法5条は「重要事項の説明をしなかった場合や断定的判断の提供を行った場合」は顧客に生じた損害を賠償する責めに任ずると定めています。
さらに同法6条では、説明義務違反による元本欠損額を損害額と推定するなど、顧客の立証負担を軽減する規定も置かれています。
この法律により、金融商品の販売時にリスク等を説明しなかった業者は、発生した損失(元本欠損額)を賠償すべき責任を負うことになります。
金融商品取引法等の業法上の義務
金融商品取引法(いわゆる金商法)も、金融商品取引業者に対し顧客保護のための様々な義務を課しています。例えば、不適切な勧誘行為の禁止(断定的判断の提供の禁止や損失補填の禁止など)や顧客に対する誠実公正義務があります。これら業法の規定そのものは直接の損害賠償請求権を定めていませんが、業者が金商法上の義務に違反した事実は民法上の過失を基礎付ける重要な事情となります。また金融商品取引法第39条は、金融商品業者が顧客の損失補填を約束・実行することを明確に禁止しており、同時に顧客側も損失補填を要求する行為を禁止しています。
したがって、仮に顧客から「損失を補填しろ」と要求されても、業者は法令上応じることができない点に留意が必要です。
消費者契約法
顧客が個人消費者である場合、消費者契約法の規定も関連します。事業者が重要事項について事実と異なる説明をしたり、将来の不確実な事項について断定的判断を提供して顧客を誤認させ契約させた場合、消費者契約法に基づいて契約取消しや損害賠償請求が認められることがあります。
また、契約書に「損害賠償責任を一切負わない」等の条項があっても、同法により一部無効となる可能性があります(故意・重過失による責任の免除は無効など)。
以上のように、民法の契約責任・不法行為責任をベースに、金融サービス提供法や金融商品取引法といった特別法の規定が加わり、顧客は様々な法律構成で損害賠償を請求してくる可能性があります。近年では特に「適合性の原則」違反(不適切な勧誘)や「説明義務」違反に基づく損害賠償請求が重要な救済手段となっており、このような請求を認める裁判例も増加しています。
投資業者、金融業者も、自社がこれらの法的義務を負っていることを再確認し、万一請求を受けた場合にどの根拠で責任を追及されているのか把握することが肝要です。
よくある損害賠償請求の原因
次に、顧客からの損害賠償請求でよく問題となる原因・論点を整理します。金融・投資分野のクレームでは、以下のような主張が典型的です。
説明義務違反
「商品のリスクや仕組みについて十分な説明を受けていなかった」という主張です。特にデリバティブを含む複雑な金融商品では、重要事項の説明不足が裁判でも争点になります。法律・判例上、業者には顧客の知識や経験に応じて理解できるよう丁寧に説明する義務があるとされています。
例えば、「元本割れの可能性」「追加証拠金(追証)のリスク」「市場変動による損失の恐れ」などを事前に説明しなかった場合、説明義務違反として損害賠償が認められる余地があります。実際、近年の判例では「顧客が正しく理解できるまで説明すること」を業者の義務内容に含める判断も増えています。
適合性原則違反(不適切勧誘)
投資経験や財産状況、知識に照らして不適切な金融商品を勧誘・販売した場合のクレームです。金融商品の販売・勧誘では「顧客に適した商品を提供すること」(適合性の原則)が求められます。例えば、高齢でリスク許容度が低い顧客にレバレッジの高いFX取引を執拗に勧め大きな損失を生じさせたケースなどでは、適合性原則違反として責任追及される可能性があります。
適合性原則は法律に明文規定はありませんが、金融庁のガイドラインや裁判例で信義則(民法1条)上の義務として位置付けられており、違反すれば不法行為責任を問われ得ます。
断定的判断の提供等による誤誘導
「必ず儲かる」「絶対損しない」などと確実でない将来の利益を断定的に述べて勧誘した場合のクレームです。金商法で明確に禁止された行為であり、顧客がそのような説明を信じて契約した場合は損害賠償請求の大きな根拠となります
例えば「この投資信託はプロが運用するので、確実に利益が出ます」と保証めいた説明をした場合、違法な勧誘として責任を問われかねません。
損失補填要求
投資で損失が出た顧客が「損した分を補償しろ」と求めるケースです。ただし前述のとおり、損失補填は法律で禁止された行為であり、業者が応じることはできません。顧客側からの補填要求自体も金融商品取引法で禁止行為とされているため、仮に「損失補填しないなら訴える」等の要求があれば、その不当性も含めて慎重に対応する必要があります。補填要求に安易に応じることは違法となり、金融庁から業務停止等の厳しい処分を受けるリスクがあります
契約違反・約款違反
例えば「約束された運用報告をしてくれなかった」「投資一任契約で定めた運用ルールに反した取引をされた」等、契約上の義務違反を理由に損害を請求される場合です。これは民法415条の債務不履行責任として追及されます。契約書や約款で定めた事項を業者が守っていたか否かが争点となります。
その他の不法行為
業者の従業員による横領・詐欺、不正な手数料徴収、説明資料の虚偽記載などがあれば、それ自体が不法行為として損害賠償の対象になります。また複数顧客に被害が及んだ場合には集団訴訟や行政処分につながることもあります。
以上が顧客からよく主張される請求原因です。特に営業現場の行為が「説明不足」「勧誘が強引すぎた」などと指摘されトラブル化するケースが散見されます。自社でどのような請求原因が起こり得るか日頃から想定し、契約書や販売プロセスを点検しておくことが望ましいでしょう。
損害賠償請求を受けた際の初動対応
顧客から損害賠償請求の連絡や内容証明郵便が届いた場合、初動対応が極めて重要です。最初の対応いかんで、その後の解決の難易度や自社の法的立場が大きく左右されます。以下に初動で取るべき基本的な対応をまとめます。
事実関係と証拠の確保
まず、クレームとなっている取引や経緯の事実関係を速やかに社内で調査しましょう。担当者とのやり取り記録、契約書、交付書面、メールや電話の記録など関連資料をすべて保全します。
後から証拠が散逸しないよう、関係社員には証拠保全の指示を出し、電子データの削除禁止・バックアップ取得も行います。何があったのか事実を正確に把握することが全ての基本です。
顧客への第一次対応(受領通知)
クレーム提起直後の顧客対応としては、まず請求を受け付けた旨の連絡を速やかに行います。内容証明郵便で請求書が届いた場合は、形式的でも構いませんので「貴殿の請求内容は社内で検討のうえ追って回答します」という受領通知を送りましょう。
口頭でクレームを受けた際も、「真摯に受け止め事実関係を確認いたします」と伝え、即答は避けます。初動段階では感情的な応酬を避け、こちらの検討時間を確保することが大切です。顧客に対しては誠実な姿勢を示しつつも、責任の認否はしないよう注意します。
専門家(弁護士・保険会社)への連絡
クレームを受けたら早期に顧問弁護士や専門の弁護士に相談することを強くお勧めします。損害賠償請求を受けた時点で弁護士に相談すれば、適切な対応策のアドバイスと請求額の妥当性判断が得られます。
小さな会社では「まず自分たちで対応しよう」と考えがちですが、初期の段階で専門家の意見を仰ぐことで問題の長期化・拡大を防げます。特に法的論点の多い金融トラブルでは弁護士の関与が不可欠です。
監督官庁への報告検討
トラブルの内容によっては、金融商品取引業者として金融庁や財務局への報告が必要になる場合もあります。たとえば重大な法令違反が疑われるケースや多数の顧客に影響が及ぶ問題では、自発的に状況を当局に報告し指示を仰ぐことも検討します。ただし通常はまず社内対応・顧客対応に集中し、行政報告が法令上義務づけられているか(金融商品取引業等の報告事項か)専門家と確認の上で判断すると良いでしょう。
以上が初動対応の概要です。早期に事実を把握し、関係者で情報共有して、慌てず計画的に動くことが肝心です。
初動を誤ってしまうと、後で有利な証拠を失ったり対応のまずさ自体が争いを激化させることにもなりかねません。逆に初動をきちんと行えば早期解決できる可能性も十分あります。
顧客とのやりとりで留意すべきポイント
クレーム対応において、顧客とのコミュニケーションは非常にデリケートです。進め方次第で、紛争が円満に収まることもあれば、こじれて泥沼化することもあります。以下に顧客対応時の留意点をまとめます。
丁寧かつ誠実な態度
基本は顧客の話に耳を傾け、誠意をもって対応することです。相手が感情的になっている場合でも、業者側は冷静さを保ちましょう。言い訳や責任転嫁は避け、「ご指摘の点を調査のうえ対応いたします」といった前向きな姿勢を示します。顧客の怒りや不満をまず受け止めることで、事態が落ち着く場合もあります。
不用意な謝罪や断定を避ける
相手をなだめようとして安易に「当社に非がありました、お詫びします」などと言ってしまうと、後で法的に不利になる可能性があります。謝罪自体が直ちに責任認諾になるわけではありませんが、誤解を招く表現は禁物です。同様に「営業担当者が悪かった」など社内の責任について断定的な発言をすると、争点を自ら認めたと受け取られかねません。あくまで「現在調査中」のスタンスを崩さず、結論めいたコメントは控えます。
記録を残す
顧客との電話や面談内容は逐一記録し、可能であれば日時・場所・出席者と要点をメモに残します。重要なやりとりは後日メールや書面で確認し、「◯月◯日のご面談内容について弊社認識では以下の通りです」と記録を共有するのも有効です。紛争が長引いた際、「言った言わない」の争いを防ぐため、コミュニケーションの記録化を徹底します。
窓口の一本化
顧客対応は可能な限り担当者を固定し、一貫性ある対応を心がけます。やりとりのたびに担当が変わると顧客の不信感を招きますし、情報伝達ミスも起こり得ます。場合によっては弁護士を窓口に立てることも検討します(特に顧客側が弁護士を立てている場合はこちらも代理人を通す方が適切です)。
顧客対応では、誠実さを示しつつも法的な自社防衛線を守るというバランスが求められます。クレームがエスカレートしないよう細心の注意を払いましょう。一方で、明らかに悪質なクレーマーである場合(根拠なき要求の繰り返しや恫喝的言動など)は、毅然とした態度も必要です。その際は弁護士から内容証明を送付する、適切な場での解決(ADRや調停の申立て等)に誘導するなど、プロの力を借りることを検討します
示談交渉か訴訟か:解決方法の判断ポイント
顧客からの損害賠償請求に対し、示談(和解)で解決を図るか、訴訟も辞さず争うかは経営判断上の重要なポイントです。それぞれメリット・デメリットがあり、ケースバイケースで判断する必要があります。以下に主な検討材料を挙げます。
請求金額と支払い余力
顧客の請求額が比較的小さい場合(例えば数十万円程度)であれば、早期に一定額の和解金を支払って解決した方がコスト効率が良いことがあります。反対に請求額が非常に大きい場合や、支払えば会社の財務に重大な影響が及ぶ場合は、簡単に応じるわけにもいきません。訴訟費用(弁護士費用や時間的コスト)と和解金の額を比較し、合理的な経済判断を下します。
自社側の非の程度(法的責任の有無)
業者側に明確なミス・違法行為が認められる場合は、裁判になっても敗訴のリスクが高くなります。このようなケースでは、示談で条件交渉をして早期解決を図る方が得策でしょう。一方、自社に落ち度がなく請求が言いがかり同然である場合、安易に支払えば「クレームをつければお金がもらえる」と認識されてしまいます
将来の悪循環防止のためにも、争う姿勢を見せることも重要です。
判例上の見通し
弁護士から得られる見解として、「同種事案で会社側が勝訴した判例が多い」「この論点は近年厳しく追及される傾向がある」といった情報があります。それによっても方針は左右されます。例えば説明義務違反が争点の場合、近年は顧客側に有利な判例が蓄積していることを踏まえ、和解を検討する、といった判断がありえます。
まとめ
金融・投資業者にとって、顧客との信頼関係は命綱です。一度のトラブル対応が会社の評判を左右し、将来のビジネスにも影響を及ぼします。しかし本記事で述べたように、正しい手順で適切に対応すれば、たとえ困難なクレームでも乗り越えられるはずです。ぜひ平時から備えを万全にし、万一の際には冷静かつ着実な対応で自社と顧客の双方にとって最善の解決を図ってください。

