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ネットワークビジネスで押さえておきたい法律と注意点
ネットワークビジネス(マルチレベルマーケティング、MLM、法律上は「連鎖販売取引」)は、適切に運営すれば有効なビジネスモデルですが、過去に悪質な事例も多く存在したため日本では厳しい法律の規制下にあります。
副業レベルの小規模な開始であっても、大規模な組織運営であっても、経営者として関連法令を正しく理解し遵守することが重要です。本記事では、ネットワークビジネスに主に関係する法律の概要、違法となりうる勧誘方法や誤解を招く表現の例、違反時のペナルティ、消費者保護の観点からの規制の背景、そして法令順守のための実践的アドバイスについて、平易な言葉で解説します。
関係する主な法律とその概要
ネットワークビジネスを行う上で押さえておくべき主な法律は、特定商取引法、消費者契約法、そして景品表示法です。それぞれ規制内容や目的が異なりますので、概要を確認しましょう。
特定商取引法(連鎖販売取引のルール)
「特定商取引に関する法律」(特定商取引法)は、訪問販売や通信販売などと並び、マルチ商法を「連鎖販売取引」として詳細に規制している法律です。マルチ商法自体は適法な販売形態ですが、無秩序に拡大すると参加者が不利益を被りやすいため、この法律で厳格なルールが定められています。
特定商取引法では、勧誘段階から契約後まで一連の取引行為に対し、以下のような義務や禁止事項を課しています。
氏名・勧誘目的等の明示義務
勧誘を行う際は、事前に自分(または所属企業)の氏名や会社名、勧誘の目的(連鎖販売取引の契約を結ぶこと)、取引する商品やサービスの種類を相手に告げなければなりません。例えば「〇〇会社の△△と申します。○○という商品について、販売契約のご説明をさせていただきたいです。」といった説明を最初に行う必要があります。目的を隠して呼び出したり、会社名を伏せて勧誘したりすることは禁止です。
不実告知・威迫等の禁止
勧誘時や契約解除の妨害時に、商品の品質・性能、将来得られる利益(マージン)、支払う費用、契約解除の条件など重要事項について嘘を告げたり事実を告げなかったりしてはいけません。また、契約を締結させるため、あるいは解約させないために相手を威圧したり困惑させる行為も禁止されています。要するに、誤解を与える説明や高圧的な勧誘は法律違反となります。
書面交付義務
契約に至る前後で二段階の書面交付が義務付けられています。契約前には事業内容や商品・条件を記載した「概要書面」を渡し、契約締結後は遅滞なく取引内容を明記した「契約書面」を交付しなければなりません。
概要書面には会社の名称・住所、担当者名、商品の内容や性能、支払う費用(特定負担)、得られる利益の計算方法(特定利益)、契約解除・クーリングオフの条件、禁止行為に触れる旨などを記載する決まりです。契約書面には実際の契約内容(商品名、金額、支払い方法、クーリングオフの方法等)を詳しく記載し、契約後ただちに交付します。
書面には重要事項の注意喚起やクーリングオフの案内を赤字で明示することなど細かな規定もあります。これらは消費者に十分な情報を提供し、後から内容を確認できるようにするための措置です。
クーリングオフ制度
連鎖販売取引では、消費者は契約書面を受け取った日(商品が後日届く場合は商品受取日)から起算して20日以内であれば、理由を問わず書面または電子メール等で契約解除(クーリングオフ)できます。この20日間は法律で保証された熟考期間であり、事業者はこの間の解約について違約金や損害賠償を請求できません。
また、万一勧誘時に事業者がクーリングオフ不可と偽ったり威圧して行使を妨げた場合は、20日を過ぎてもクーリングオフが可能です。契約書面に必要事項が欠けていた場合も同様です。クーリングオフがなされた場合、事業者側は受領代金や手数料の返還義務があり、消費者側も受け取った商品を返品する原状回復義務を負います。
中途解約・返品ルール
クーリングオフ期間経過後でも、消費者は将来に向けて連鎖販売契約自体を解約(退会)することができます。さらに入会後1年以内に退会した場合、一定条件下で未使用・未販売の商品について契約解除(返品)が可能です。この際、事業者が請求できる違約金は返品商品価格の10%以内と上限が定められています。
以上が特定商取引法に基づく主なルールです。これらは消費者トラブルを未然に防ぐための最低限の約束事と考え、確実に守る必要があります。なお、類似したものに無限連鎖講防止法(ねずみ講を禁止する法律)があります。商品取引の実態を伴わず会員募集だけを重ねるようなスキームは違法な「無限連鎖講」(ねずみ講)とみなされ、契約自体が無効になるだけでなく懲役刑や罰金刑の対象にもなり得ますt。
消費者契約法(不当な勧誘や契約条項の無効)
消費者契約法は、事業者と消費者との契約全般に適用される法律で、不公正な勧誘行為や不当な契約条項から消費者を保護するものです。ネットワークビジネスにおいても、以下のような場面で関係します。
契約取消権
事業者が契約の勧誘に際し、事実と異なることを告げたり重要な事実を故意に告げなかった結果、消費者が誤認して契約した場合、また威迫して困惑させ契約させた場合は、その契約を後から取り消すことができます。例えば「必ず儲かる」と誤解させて加入させた場合や、リスクについて何も説明せず契約させた場合などは、後日消費者から契約無効を主張され得ます。
不当条項の無効
契約書に消費者の権利を一方的に奪うような条項があっても、それは法的に無効とされます。例えば「一切返金しない」「事業者はいかなる責任も負わない」といった条項は消費者契約法に照らして無効となり、主張しても認められません。
特に、事業者の故意・重過失による損害まで免責するような条項や、消費者側の契約解除権を不当に制限する条項は無効です。ネットワークビジネスの会員規約を作成する際には、こうした違法な約款を入れないよう注意が必要です。
要するに、消費者契約法は「契約自由」の限界として、騙し取られた契約や一方的すぎる契約内容をなかったことにできる法律です。違法な勧誘で結んだ契約は後から無効にされ、結局ビジネス継続は困難になります。契約条件についても、公平で良心的な内容を心がける必要があります。
景品表示法(誇大広告や不当表示の禁止)
「景品表示法」(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)は、商品の広告や表示について消費者を誤認させる表現を禁止する法律です。ネットワークビジネスでも、商品の宣伝や勧誘時の謳い文句がこの法律の規制対象となります。
優良誤認の禁止
商品の品質・性能などについて、実際より著しく良い内容をうたう表示は禁止されています。例えば「このサプリを飲めば誰でも短期間で絶対に痩せる」といった根拠のない断定的な広告は優良誤認表示に当たり違法です。また、健康食品で病気が治るような表現も薬機法等と併せて問題になります。
有利誤認の禁止
価格や取引条件について、実際よりも著しく有利に見せかける表示も禁止です。例えば「今だけ誰でも必ず月収100万円稼げます!」「通常価格○○円の商品が、特別会員になれば実質タダ」といった表示は、事実と異なる利益を誇張している場合アウトになります。ネットワークビジネスの勧誘でありがちな「簡単に高収入」「誰でも成功できる」といった宣伝は、この有利誤認に該当するおそれがあります。
景品表示法に違反した場合、消費者庁から措置命令(不当表示の取り消し・再発防止を命じる行政処分)が下され、社名公表や是正措置が求められます。さらに課徴金納付命令(売上に応じた罰金的な支払い)を科されることもあります。誠実な広告表示は信頼構築の基本でもありますので、誇張せず事実に基づいた情報提供を心掛けましょう。
違法な勧誘や誤認を招く表現の例
法律で禁止されている行為や、違法と判断される恐れがある勧誘・表現の具体例をいくつか挙げます。以下のような行為は絶対に避けてください。
目的を隠した勧誘(キャッチセールス的手法)
本当の目的を告げずに友人知人を食事やイベントに誘い出し、その場でビジネス勧誘を始める行為。特定商取引法では、勧誘目的を告げず人を誘い出して密室で契約を迫ること自体が禁止されています。例えば「良い副業の話がある」とだけ伝えて呼び出し、実際はマルチ加入の勧誘をするようなケースが該当します。
事実と異なる説明・誇大な勧誘トーク
商品の性能を実際以上に称賛したり、確実な利益が出るように見せかけたりする虚偽誇張は違法です。「必ず儲かる」「絶対に損しない」「誰でも数ヶ月で○○万円稼げる」といった断定的なセールストークは根拠がなければ不実告知として禁止されています。特に将来得られる収入(特定利益)について保証的な表現をすることは厳に慎むべきです。
重要事項を告げない・リスクを隠す
商品のデメリットや仕入れコスト、毎月のノルマ、解約条件など不利な情報を故意に伏せて勧誘する行為も不実告知に当たります。「在庫を抱えるリスクがある」「一定額の商品購入が必要」といった重要な負担部分(特定負担)はきちんと説明しなければなりません。都合の良い点だけ話し、都合の悪い点を黙って契約させるのは違法な勧誘です。
威圧的な勧誘・クーリングオフ妨害
断ろうとする相手を執拗に責めたり、「今ここで契約しないと二度とチャンスはない」などと心理的に追い込んで契約させる行為は違法です。また、契約後に解約やクーリングオフを申し出た人に対し、「違約金が発生するぞ」「法律ではできないことになっている」などと嘘を言って翻意させようとすることも禁止されています。脅迫まがいの取り立てや解約妨害は論外で、行政処分のケースでもしばしば問題視されています。
違反した場合のペナルティ
法令に違反すると、行政上の処分や刑事上の罰則など厳しいペナルティを受ける可能性があります。経営に重大な支障を来すだけでなく、社会的信用も失墜します。その主なものを見てみましょう。
行政処分(業務停止命令等
所管官庁(主に消費者庁や都道府県)が調査の上、違法行為が認められると業務改善指示や業務停止命令などの処分が下ります。業務改善指示は問題行為の是正を求めるもの、業務停止命令は一定期間事業活動の一部または全部を停止させる非常に重い処分です。
例えば2017年にはある大手マルチ商法企業に対し、違法な勧誘行為があったとして消費者庁が6か月間の業務停止命令を発しています。このように営業停止となれば組織は大打撃を受け、信用回復も容易ではありません。違反が悪質な場合、関与した役員に対する業務禁止命令(役職停止)など追加措置もとられます。
刑事罰
特定商取引法違反の中でも悪質なものには刑事罰が科されます。一例として、勧誘時に嘘をついたり業務停止命令に従わなかった場合は3年以下の懲役または300万円以下の罰金(またはその両方)が科され得ます。
概要書面や契約書面を交付しなかった場合も6か月以下の懲役または100万円以下の罰金とされており、書面交付の義務違反だけでも刑事処分の対象です。さらに、法人ぐるみの違反であれば会社自体にも罰金刑が科され、違反内容によっては最高で3億円以下という非常に高額の罰金が定められています。景品表示法違反についても、措置命令に従わないような悪質事例では罰金刑が科される可能性があります。
違反行為の実態
日本国内では連鎖販売取引に関する消費生活相談が毎年1万件以上寄せられており、特に20代の若年層が契約者となるケースが近年は4割を超えています。若者が高額なローンを組んで商品を買わされた挙句、販売利益を上げられず借金だけが残る、友人関係を壊してしまう、といった深刻な被害例も後を絶ちません。こうした状況から、国民生活センターや消費者庁にはマルチ商法に関する苦情・相談が数多く寄せられてきました。
特に悪質なのはねずみ講(無限連鎖講)と呼ばれるもので、商品の実態がなく会員勧誘による出資金の分配だけを目的とするものです。ねずみ講は1978年に制定された無限連鎖講防止法によって全面的に禁止されており、違反すれば厳しい刑事罰が科されます。
マルチ商法(連鎖販売取引)は商品やサービスの販売を伴うため原則違法ではありませんが、放置すれば被害がねずみ講のように拡大しかねない側面があります。実際、マルチ商法も末端の会員ほど儲けにくく破綻しやすい構造を持つため、無限定に勧誘が繰り返されれば多くの消費者が損をする恐れがあります。
こうした理由から、特定商取引法では連鎖販売取引について細かなルールを定め、違法な勧誘や誤認させる宣伝を抑止しています。クーリングオフ期間を20日に長く設定しているのも、訪問販売等に比べより慎重な保護が必要と判断されたためです。知人からの誘いで断りにくい、仕組みが複雑で冷静な判断に時間がかかる――そうしたMLM特有の事情を踏まえ、消費者が後からでもクールダウンして撤回できる猶予を長めに取っています。
また、契約前後の書面交付を義務付けたり、誇大な表現を禁止したりしているのも、情報の非対称性を埋め公正な取引にするためです。事業者側が有利な情報ばかり与え、消費者が不利な条件に気付かないまま契約してしまう事態を防ぐ狙いがあります。消費者保護の観点からは、「十分な情報に基づき自主的かつ合理的な判断ができること」「不意打ちや強圧による契約をさせないこと」が大原則であり、法律の各規定もこの原則に沿って設けられています。
経営者の立場から見ると、これらの規制遵守は「面倒な制約」に思えるかもしれません。しかし見方を変えれば、適切に法令を守ることが消費者からの信頼につながり、結果的にビジネスの健全な発展を支えるのです。法令順守によって悪質業者との違いを示し、安心して参加・購入してもらえる環境を整えることが、長期的な成功への近道と言えるでしょう。