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ラップドトークンとは?日本法での位置づけと事業者が押さえる実務ポイント

ラップドトークンの仕組み
ラップドトークン(Wrapped Token)とは、ある暗号資産の価値を別のブロックチェーン上で再現するために発行されるトークンである。ユーザーが原資産(例:BTC)をカストディアンやスマートコントラクトに預け入れ(ロック)すると、対応するブロックチェーン上で1:1の価値を持つ新たなトークン(例:WBTC)が発行(ミント)される。逆にアンラップすると、ラップドトークンが焼却(バーン)され、原資産が返却される。
代表的な例としては、ビットコインをイーサリアム上のDeFiで運用可能にするWBTC(Wrapped Bitcoin)、イーサリアムのネイティブ通貨ETHをERC-20規格に準拠させて各種DeFiプロトコルで使いやすくするWETH(Wrapped Ether)、Polygon上のWMATICなどがあります。これらはクロスチェーンの相互運用性やDeFiでのレンディング・流動性提供において不可欠なインフラとなっています。
日本法における位置づけ
資金決済法上の「暗号資産」該当性
日本法上、ラップドトークンに特化した法令や行政のガイドラインは存在しません。したがって既存の法律枠組みへの当てはめが必要になります。
資金決済法2条5項は「暗号資産」を、①不特定の者に対する代価弁済に使用できる、②不特定の者と売買できる、③電子的に記録・移転できる、④法定通貨・通貨建資産・電子決済手段・セキュリティトークンでない、という4要件を満たす財産的価値と定義しています。
WBTCやWETHのようなメジャーなラップドトークンは、国内外の取引所で不特定の者との間で売買され、ブロックチェーン上で自由に移転できるため、上記4要件をすべて満たし「暗号資産」に該当する可能性が極めて高いです。実際に国内取引所で取り扱いが開始されているWETHなどは、金融庁登録済み暗号資産交換業者を通じて売買されており、事実上暗号資産として扱われています。
一方で、特定の企業が社内用途のみで発行し流通範囲を限定するラップドトークン(例:プライベートチェーン上のラップド社内ポイント)の場合は、「不特定の者」要件を欠く可能性があり、暗号資産に該当しない余地があります。もっとも、この判断は実態に即して個別に行われることに注意が必要です。
ラップ元がステーブルコインの場合──電子決済手段の問題
法定通貨と連動するステーブルコインをラップした場合は、別の規制が加わります。資金決済法では「電子決済手段」が定義され、法定通貨建てで発行価格と同額の償還を約するトークンは電子決済手段に分類されます。
具体例として、USDCをArbitrumなどのレイヤー2にブリッジしたWrapped USDCがあります。もしこのトークンが発行価格と同額での償還を約する仕組みを維持しているならば、電子決済手段に該当し、その取扱いには電子決済手段等取引業者としての登録が求められます。
事業者が「単なるブリッジサービス」のつもりでラップドステーブルコインを提供した結果、電子決済手段等取引業の無登録営業に該当するリスクがある点は特に注意が必要です。
ラップ元がセキュリティトークンの場合──金商法の適用
収益分配権を表章するトークン(セキュリティトークン)をラップする場合、金融商品取引法上の「電子記録移転権利」に該当する可能性があります。例えば、不動産ファンドの持分を表すセキュリティトークンを別チェーンにブリッジしてラップドトークン化するケースでは、ラップしたことで権利の実質が変わるわけではないため、金商法に基づく第一種・第二種金融商品取引業の登録や有価証券届出書の提出義務が引き続き適用されます。
事業者が押さえる実務ポイント
ライセンスの要否判断
ラップドトークンの売買・交換・カストディを業として行う場合、暗号資産交換業(資金決済法63条の2)の登録が必要となる。登録要件として、資本金1,000万円以上・純資産額が正であること、適正な業務遂行体制、コンプライアンス体制の整備が求められる。
2025年6月に成立した改正資金決済法では、暗号資産の売買の「媒介のみ」を行う新たな仲介業が創設された。例えば、ラップ/アンラップの取次ぎのみを行い、利用者の暗号資産を預からないビジネスモデルであれば、フルライセンスではなくこの仲介業の枠組みで参入できる可能性がある。自社のビジネスモデルがどの業態に該当するかの精査が最初の実務ステップとなる。
JVCEA自主規制と上場審査
国内暗号資産交換業者がラップドトークンを新規に取り扱う場合、日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)の自主規制に基づく審査プロセスを経る必要があります。JVCEAは「グリーンリスト」制度(3社以上の会員が取扱い中の銘柄は事前審査不要)や「CASC制度」(一定の審査水準を満たした会員は事前審査省略可)を導入しており、既に複数社が取り扱っているWETHなどはグリーンリストに載っている可能性があります。
一方、新興のラップドトークン(例:2024年に登場したcbBTC等)を日本で初めて取り扱う場合は、JVCEAへの届出と個別審査が求められます。審査では、原資産の管理体制(カストディアンの信頼性)、ラップ/アンラップのスマートコントラクトの監査状況、原資産とラップドトークンの1:1ペグの維持メカニズム、発行主体のガバナンス構造などが重点的に確認されます。IEO銘柄で300万円、本邦初銘柄で100万円の審査手数料も発生することも注意が必要です。
AML/CFT──クロスチェーンリスクへの対応
暗号資産交換業者は犯罪収益移転防止法上の「特定事業者」であり、本人確認(KYC)、疑わしい取引の届出、トラベルルール(送金時の送受信者情報の通知)への対応が義務づけられています。
ラップドトークンはクロスチェーンブリッジを介して移転されるため、送金経路の追跡が困難になる場面が生じる。2025年初頭のBybitハッキング事件(北朝鮮系ハッカーによる15億ドル超のETH窃取)では、クロスチェーンブリッジやDEXが資金洗浄に利用されました。こうした事例を踏まえ、FATF第5次相互審査を控えた日本の規制当局もクロスチェーン取引のモニタリング強化を求める方向にあります。
具体的には、Chainalysis・Elliptic等のブロックチェーン分析ツールを導入し、ラップ/アンラップ取引を含むトランザクションの出所・行先を可視化する体制の構築が求められます。
カストディリスクの開示と管理
ラップドトークン特有のリスクとして、原資産を保管するカストディアンへの信用リスクがある。2024年のWBTCカストディアン変更問題はその象徴的事例です。BitGoがWBTCの管理をBiT Global社との合弁事業に移管し、TRON創設者ジャスティン・サン氏の関与が明らかになったことで、DeFi業界に大きな動揺が走りました。MakerDAO(現Sky)はWBTCの担保資産としての利用制限を検討し、対抗としてCoinbaseが独自のcbBTCをローンチする事態に発展しました。
日本の暗号資産交換業者がラップドトークンを取り扱う場合、利用者保護措置(資金決済法63条の10)に基づき、こうしたカストディアンの変更リスク、スマートコントラクトのバグリスク、ペグ乖離リスクなどを利用者に対して適切に説明する義務があります。金融庁の事務ガイドラインでも、暗号資産の性質・機能や内在リスクの情報提供が求められており、「ラップドトークンの裏付け資産がどこで誰に管理されているか」は開示すべき重要事項となる。
法改正動向のウォッチ──金商法移行と今後の展望
2025年4月、金融庁はディスカッションペーパー「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」を公表し、暗号資産規制を資金決済法から金商法へ移行させる方向性を示しました。同年9月以降、金融審議会の暗号資産制度ワーキンググループで具体的な議論が進んでいる。
金商法への移行が実現すると、暗号資産交換業者には現行の資金決済法よりも厳格なインサイダー取引規制・不公正取引規制・開示規制が適用されます。ラップドトークンについても、原資産との関係性やカストディ構造に関する継続的な開示義務が課されることが予想され、無登録業者に対するエンフォースメントが裁判所の緊急差止命令まで可能になるなど、罰則面も強化される方向にあります
事業者としては、現行の資金決済法ベースでの対応にとどまらず、金商法移行を見据えた体制整備──具体的には開示書類の準備、インサイダー情報管理体制の構築、社内コンプライアンスの高度化──を早期に着手すべきです。

