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同一労働同一賃金ガイドライン改正案のポイントと企業実務

労働案件の法律

本改正案は、いわゆる「同一労働同一賃金(均等・均衡待遇)」をめぐる裁判例の蓄積を受け、ガイドライン(指針)を、実務で使えるレベルまで具体化・拡充することが中核です。とくに、従来のガイドラインで相対的に手薄だった「賞与」「退職手当」「家族手当」「住宅手当」「病気休職(病気休暇を含む)」「夏季冬季休暇」等について、原則となる考え方や“問題となる例/問題とならない例”が追加・整理されます。

また、改正案はガイドライン単体ではなく、関連する省令・指針を一体で見直すパッケージです。具体的には、雇入れ時等の「労働条件明示」に、労働者が待遇差の説明を求められる旨を加える省令改正案、派遣元・派遣先の指針見直し案、短時間・有期雇用労働者の雇用管理指針見直し案等が同時に公表されています。

適用(施行)時期は2026年10月1日が予定され、告示・公布は2026年4月下旬(予定)とされています(いずれも“案”段階で、確定日は現時点で未確定=未指定です)。[3]

経営・人事の視点での最重要ポイントは、次の3点です。
第一に、「何となく正社員だから」「将来が違うから」では説明が足りない方向に、ガイドラインがさらに寄っていきます(待遇ごとの性質・目的に即した説明の精度が問われます)。
第二に、待遇差是正は、“非正規を上げる”だけでなく、「制度目的に整合する形で組み替える」発想(例:住宅手当・家族手当の要件と目的を再定義し、職務・配置変更・勤続見込みに沿って設計)が必要になります。
第三に、説明義務は「求めがあったら答える」運用から、更新時等に「分かりやすい資料」を渡し、請求権を周知する運用へ、行政指針ベースで強化されます。

目次

改正案の主要ポイント

改正案は、ガイドライン(告示)等の「改正案」として公表され、2026年10月1日適用が予定されています。

条文改正の要旨(何が「法改正」で、何が「運用強化」か)

今回の改正のうち、企業実務へのインパクトが大きいのが、省令改正案での「雇入れ時等の明示事項」の追加です。要点は、雇入れ時等に交付する明示情報に、労働者が(比較対象労働者との)待遇差の内容・理由等について説明を求めることができる旨を加える、というものです。(説明実務の前倒し)

そのほか、派遣元・派遣先の指針、短時間・有期雇用労働者の雇用管理指針も、過半数代表者の適正選出・不利益取扱い防止、説明資料交付の推奨、更新時の周知など、運用面の改善が具体化されます。

適用範囲(誰に、どこまで波及するか)

改正案の対象は、短時間・有期雇用労働者および派遣労働者を中心に据えたガイドラインです。
一方で、改正案では、所定労働時間が通常の労働者と同一で、期間の定めのない労働契約の労働者(いわゆる無期雇用フルタイム)や、いわゆる「多様な正社員」についても、均衡の考慮に当たりガイドライン趣旨を踏まえるべき、といった記載が追加される方向が示されています。これは、法の直接適用範囲の外側でも、企業内の公正な制度設計として“波及”させる意図を読み取れます。

非正規雇用者への影響(ポイントが「賃金」から「手当・休暇・説明」へ広がる)

改正案が追加する具体項目は、非正規側の請求が実際に集中しやすい領域です。とくに新設・拡充が明示されているのは、賞与、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、病気休職(病気休暇を含む)、夏季冬季休暇、などです。

非正規の待遇差是正は、結果として「総額をそろえる」話ではなく、待遇ごとに「目的に沿った差か」を問う方向です。これは、企業側にとって「制度目的(例:職務の対価、長期勤続への報償、勤務地・転居負担の補填等)を言語化し、規程と運用を一致させる」必要性が上がることを意味します

賃金・手当・福利厚生の比較基準

改正案は、裁判例で争点になった待遇項目について、待遇の性質と目的、そして職務内容・責任、配置変更の範囲、その他の事情との関係で、どこまで相違を設けられるかを具体例で示す方針です。

福利厚生についても、「給食施設・休憩室・更衣室」のように、利用機会を等しくすべき施設が明確にされ、その利用条件(料金・割引等)も不合理な相違を設けてはならない、という整理が示されています。

さらに、派遣領域では、派遣先の便宜供与の対象施設に「駐車場」を含む旨の明確化、派遣先が評価情報提供等に協力する配慮、派遣料金交渉が実質的に機能しない場合の留意、などが盛り込まれます。

均衡待遇・均等待遇の具体例

改正案は、「問題となる例」が明示されています。

待遇項目ガイドラインの例
(要旨)
問題になるポイント企業が取るべき対応(規程・運用)
基本給(能力・成果・勤続)能力・経験に応じる/成果責任の有無に応じる/勤続は更新時に通算評価する等(問題例:経験が現職と無関係なのに高くする、時短に同一目標を課す、更新しているのに勤続を通算しない)「正社員の将来期待」だけで上げる、評価軸が実態とズレると危険規程:基本給の決定要素(能力・成果責任・勤続評価方法)を明文化。運用:評価表・目標設定を雇用区分でなく実態で整合。説明テンプレ:「当社の基本給は(能力/成果責任/勤続)を基準に決めており、○○さんは△△のためこの水準です。」(〔厚労省ガイドライン案 p.10–13〕)
賞与会社業績等への貢献に応じて支給する賞与は、同一貢献なら同一(問題例:同一貢献の有期に支給しない/正社員は全員に支給するのに非正規はゼロ)「正社員だけ一律支給」は説明困難。貢献・責任・不利益(ペナルティ)との見合い整理が鍵規程:賞与の目的(貢献配分/生活補助等)と算定基準を明示。運用:非正規にも評価・支給ルールを用意(ゼロ支給の場合は合理的根拠と代替設計が必要)。説明テンプレ:「賞与は会社業績への貢献指標(○○)に基づき算定し、同一指標で評価できる方には雇用形態を問わず同じ計算式を適用します。」(〔厚労省ガイドライン案 p.15–17〕(判例:大阪医科薬科大学、長澤運輸)
退職手当退職手当は後払い・功労報償等の性質があり、目的が妥当するのに均衡ある内容を支給しない場合は不合理になり得る(※“支給しない代わりに基本給が高い”等の見合いがない場合に留意)「非正規は一律ゼロ」で、見合い設計も説明もないと危険規程:退職手当の目的(長期勤続報償等)と支給要件(勤続、雇用見込み)を整理。運用:更新実態が長期なら「ゼロ固定」を再検討。説明テンプレ:「退職手当は長期勤続に伴う功労報償の性質があり、勤続見込み等の要件を満たす方には雇用形態にかかわらず均衡を踏まえた設計にしています。」(〔厚労省ガイドライン案 p.17〕)(判例:メトロコマース)
家族手当(配偶者手当)更新を繰り返すなど継続勤務が見込まれる有期には同一支給が原則(問題例:継続見込みがあるのに不支給)。配偶者手当は就業調整要因の指摘があり「働き方に中立的」見直しが望ましい旨の注記“更新実態”を無視して不支給は危険。配偶者手当は制度目的の再定義が必要規程:家族手当の目的(生活保障/定着)と「継続見込み」判断基準を明記。運用:更新回数・職務継続実態を反映。説明テンプレ:「家族手当は生活保障の趣旨があるため、更新状況等から継続勤務が見込まれる方には同一基準で支給します。」(〔厚労省ガイドライン案 p.21–22〕)(判例:日本郵便(大阪))
住宅手当転居を伴う配置変更の有無で支給する場合、転居が見込まれる有期には同一支給が原則。問題例として「転居が見込まれることを理由に正社員に支給しているのに、実態として転居命令がない」ケースを提示目的(転居負担補填)と実態(転居なし)がズレると説明不能規程:住宅手当の目的を「転居負担補填」等で明確化し、転居実績・命令実態に合わせて要件再設計。説明テンプレ:「住宅手当は転居を伴う配置変更の負担補填として設けており、実際に転居が想定される方には雇用形態にかかわらず同一基準で支給します。」(〔厚労省ガイドライン案 p.22–23〕)(判例:ハマキョウレックス)
病気休職(病気休暇含む)療養専念の病気休職(病気休暇含む)は、短時間(無期)は同一、 有期は契約終了までの期間を踏まえて認める。さらに、給与保障を正社員にするなら、更新を繰り返す有期にも同一保障(問題例:継続見込みがある有期に給与保障なし)“有期だから一律短い/無給”は更新実態次第で危険規程:休職期間・給与保障の決定軸(契約期間、更新実態)を明記。運用:更新見込みのある人に、最低限「契約終了まで+同一保障」の整合を取る。説明テンプレ:「病気休職は療養のための制度で、契約期間や更新状況に応じて取得可能期間と給与保障を定めています。更新実態がある場合は通常の労働者と同様の保障を適用します。」(〔厚労省ガイドライン案 p.25–26〕)(判例:日本郵便(東京))
夏季冬季休暇原則として同一付与(問題例:繁忙期限定の短期勤務ではない有期に付与しない)“有期だから付けない”は通りにくい。繁忙期限定かどうかが分岐点規程:付与要件を「勤務形態(短期・繁忙期限定か)」など客観基準で明記。運用:実態が通年勤務なら付与設計へ。説明テンプレ:「夏季冬季休暇は心身回復の目的のため、繁忙期限定の短期勤務でない方には雇用形態を問わず付与します。」(〔厚労省ガイドライン案 p.26〕)(判例:日本郵便(佐賀))
福利厚生施設(給食施設・休憩室・更衣室)+利用条件同一事業所で働くなら同一利用を認める。さらに利用料金・割引率等の“利用条件”でも不合理差を設けない旨を明確化“施設は使わせるが料金は割高”も争点化し得る規程:施設利用の対象・条件(料金、割引)を統一。運用:派遣・パートも含め受付ルールを一本化。説明テンプレ:「給食施設等は同じ事業所で働く方に同じ条件で利用いただけるよう、料金・割引も含め統一しています。」(〔厚労省ガイドライン案 p.24–25/p.47〕

企業が取るべき実務対応

改正案は「新しい義務を大量に追加する」というより、既存の均等・均衡待遇規律を、裁判例に沿って「説明可能な形」に実装せよというメッセージです。準備の成否は、①リスクの見立て、②規程の整合、③説明資料の品質、④労使コミュニケーション、で決まります。

リスク評価(まず何から点検するか)

リスク評価は、「誰が」「誰と比べて」「どの待遇で」「何を目的に差を付けているか」を棚卸しする作業です。改正案で項目が拡充される分、最低限、次の待遇は優先棚卸しを推奨します

賞与、退職手当、家族手当(配偶者手当含む)、住宅手当、無事故手当、病気休職・病気休暇、夏季冬季休暇、福利厚生施設

とくに「手当の趣旨が「長期勤続確保」なのに、更新を繰り返す契約社員を除外している」「転居を想定したはずの住宅手当だが、実際には転居運用がない」など、目的と実態のズレが高リスクです。

就業規則・賃金規程の見直し(「目的条項」と「支給要件」を整える)

規程見直しで最も効くのは、各待遇について「性質・目的」「支給要件」「算定基準」「例外取扱い」を明記し、運用(実態)と一致させることです。最高裁・ガイドラインは、待遇の性質・目的に即して不合理性を判断する枠組みを繰り返し示しています。

配偶者手当(収入要件付き)については、改正案で「働き方に中立的な制度」への見直しを促す留意が示されているため、制度の目的と要件を再検討し、必要なら段階的改定(代替給付の設計、経過措置)を検討することが安全です。

給与制度設計(「同一にする」ではなく「納得できる設計」へ)

均等・均衡待遇対応で、企業が陥りがちな誤解は「全員同額にしなければならない」という思い込みです。実務上は、待遇を次のように分解し、説明可能な設計に組み替えるのが王道です。

職務の対価(基本給・職務給等)/成果・貢献(賞与)/勤続・定着(退職手当・褒賞)/負担補填(住宅・転居・地域手当)/生活保障(家族手当)/健康・安全(病気休暇・安全関連手当)といった「目的別の箱」に分け、その箱ごとに“誰に妥当するか”を判断します。

労務管理フロー(説明義務を「プロセス化」する)

改正案は、説明を「個別対応」から「標準プロセス」へ移す設計になっています。短時間・有期雇用労働者向けの雇用管理指針(案)では、説明の方法として、資料を用いた口頭説明または資料交付等が示され、口頭説明の場合も活用資料の交付が望ましい、個人情報等の観点で交付困難でも閲覧等の工夫をする、などが明記されています。

派遣についても同様に、説明の求めがない場合でも更新時等に分かりやすい資料を交付し、説明請求権を周知することが望ましい、とされています。

社内説明・労使協議

改正案では、短時間・有期雇用労働者や派遣労働者の意見反映(話合い機会・アンケート等)を促す方向が示されています。制度改定の“内容”だけでなく、手続の丁寧さが紛争予防に直結します。

とくに派遣領域は、過半数代表者の適正選出や不利益取扱い防止、協定周知等の留意が具体化されています(協定方式の企業は要注意です)。

正社員・契約社員・派遣・パート・アルバイトの比較表(実務での見え方)

区分典型例実務での比較の起点改正案で論点が増す待遇(例)人事がやるべきこと
正社員無期フルタイム比較対象(通常の労働者)になりやすい既存制度の「目的」が問われる(住宅・家族・退職等)制度目的の言語化、運用の実態との一致
契約社員有期フルタイム/短時間同一企業内で正社員と比較賞与・退職手当・家族/住宅手当・病気休職・夏季冬季休暇更新見込み・配置変更範囲を踏まえ、支給要件を再設計
パート短時間無期/有期同一企業内で正社員と比較福利厚生施設・休暇・一部手当の合理性“時間比例”で足りる部分/足りない部分を切り分け
アルバイト短時間有期が多いパートと同様(名称ではなく実態)短期・繁忙期限定か否かが効く契約期間と更新運用の実態を揃える
派遣派遣先均等・均衡方式/協定方式派遣先(または派遣元)との比較が絡む説明義務運用、便宜供与(駐車場等)、評価情報、料金交渉派遣元・派遣先で役割分担を明確化し、記録を残す

(出典:ガイドライン見直し概要、ガイドライン新旧、派遣元/派遣先指針概要、雇用管理指針概要)

想定Q&A

Q:改正案は「法改正”」すか。守らないと直ちに違法になりますか。
A:ガイドライン自体は指針ですが、原則となる考え方に反した場合「不合理と評価され得る」ことが明記されています。また、今回は省令改正案も同時に示されており、雇入れ時の明示事項など実務プロセスに直結します。まずは“違法・適法”二択でなく、「訴訟・行政対応で説明が通るか」を基準に準備するのが現実的です。

Q:同一労働同一賃金ということは、非正規の賃金を正社員と同額にすべきですか。
A:改正案が前提にしているのは、待遇ごとに性質・目的を踏まえて不合理性を判断する枠組みです。したがって「一律同額」が結論ではなく、職務内容・責任、配置変更範囲、その他事情に照らして説明できる差であるかが中心になります。

Q:待遇差を解消するために、正社員の手当を下げて合わせても良いですか。
A:改正案では、通常の労働者の待遇引下げによる解消の場面について考え方の明確化が示されています。実務上は、不利益変更が別問題として発生し得るため、原則として「下げて合わせる」計は慎重に検討すべきです。

Q:家族手当(配偶者手当を含む)は、非正規にも必ず出さないといけませんか。
A:改正案の具体例では、更新を繰り返すなど相応に継続的勤務が見込まれる場合に、同一の家族手当を支給すべき考え方が示されています。他方で、継続見込みが乏しい場合の不支給が直ちに問題にならない例も示されています。

Q:住宅手当は「転居の可能性」を理由に正社員だけに出しています。今後も大丈夫ですか。
A:改正案では、転居を伴う配置変更の有無にかかわらず支給される住宅手当についての留意が示され、実態に照らした判断が求められます。制度設計(転居負担の補填なのか、生活補助なのか)と運用(実際に転居があるのか)を整合させ、説明資料に落とすことが不可欠です。

Q:派遣について、派遣先として何を準備すればよいですか。
A:派遣先指針(案)では、便宜供与の対象施設に駐車場を含む旨の明確化、評価情報の提供等への協力、料金交渉が実質的に機能しない場合の留意などが示されています。派遣元任せにせず、「施設利用」「評価情報」「料金・賃金改善の協議記録」を整備することが重要です。

Q:従業員から「正社員との待遇差の理由」を聞かれたら、どこまで開示する必要がありますか。
A:改正案の指針では、資料を用いて理解しやすい説明をすること、資料交付が困難でも閲覧等の工夫をすることが示されています。他者の個人情報保護との調整が必要なため、典型的には「比較の枠組み」「制度の目的」「自分に当てはまる要件」の説明資料をテンプレ化し、個別給与の生データはマスキングして取り扱う設計が安全です。


労働案件の法律

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