代表弁護士の中野は、東京弁護士会・法曹親和会の改正民法チームのメンバーであり、改正民法についての著書(改正民法(債権法)の要点解説)もあります。
まさに、改正民法について、立法者の立場からみることができ、立法の背景などから把握しています。
特にIT業界の民法改正の影響については、熟知しておりますので、本日は、IT業界・システム開発における民法改正の影響を解説していきます。
※民法改正に伴う契約書のひな形を無料でダウンロートできるようにしましたので、ご参照ください。
2017年5月26日に、改正民法が成立しました。今回の民法改正は、120年ぶりの改正です。
今回の改正が行われたのは、民法でも債権法と言われている分野です。
債権法とは、契約などを規定している分野で、企業への影響が特に大きい分野です。特に、IT企業やシステム開発の分野では、大きく影響を受けます。
そこで、今回は、民法改正によるIT企業・システム開発への影響と民法改正に伴い、どのような対応が必要なのかを見ていきたいと思います。
そもそも、理解しないといけないのが、日本では、契約自由の原則という大原則があります。
これは、契約をするかしないか、契約するとしては、どのような内容にするかは、契約当事者で自由に決めてくださいという原則です。
つまり、契約の内容は、法律で定められていない条項や法律とは異なる条項を規定しても問題はないということなのです(一部、法律と異なる契約をしても無効になる場合あり)。
契約問題について、法律は、契約の内容が全てで契約が記載されていないときに、適用されるにすぎないのです。これは、今回の改正民法でも同じです。
これから解説する改正民法においても、あくまで契約書に記載されていない場合に、適用されることになり、契約書で変更することもできることは頭に入れておいてください。
ベンダ側に有利になった規定もあれば、ユーザー側に有利になった規定もあります。契約書をチェックする際には、また自社の不利にならないようにチェックし、変更することが必要になります。
今回の改正民法は、いつから効力が始めるのでしょうか。
効力が始まることを「施行」といいます。改正民法では、施行日は、「法律が公布された日から3年以内」とされています。
改正民法は、2017年6月2日付で「公布」されています。そうなると、改正民法の「施行」は、2020年6月2日までの日ということになります。
通常、法律が施行される半年前くらいには、施行日がアナウンスされることが通常です。
例えば、改正個人情報保護法は、2015年9月9日 公布され、2017年5月30日に施行されています。そして、施行日が発表されたのが、2016年12月です。
改正民法は影響力が大きいので、施行日の半年以上までにはアナウンスがあると思いますので、注意しておきましょう。
システム開発で、よく用いられる形態としては「請負契約」か「準委任契約」があります。
今回の民法改正では、この契約についての規定も変更されています。そもそも「請負契約」「準委任契約」とは、どのような契約なのか、下記でみていきます。
請負契約は、仕事を完成させることが義務付けられていることがポイントです。
ベンダ側は、仕事を完成させて初めて報酬がもらえる契約になります。システム開発では、この契約が多く、明確な納入物があり、ベンダ側はこれを期日までに納入する義務があります。
システム開発の現場では、主に内部設計や製造、単体テスト、結合テストを請負契約で発注しているケースが多いです。
準委任契約は、仕事が完成させることが義務ではありません。 業務を処理することが契約内容となります。
典型的な例がSES契約のような形態で、人工と単価で料金が決まるのが、準委任契約です。
つまり、請負契約と違い、仕事を完成させることではなく、労働力や技術力を提供することを義務付けることになります。
ベンダ側としては、プロとして、きちっと労働力を提供すれば、義務は果たしたことになります。
実際のシステム開発では、請負か準委任のどちらかが採用される場合もありますし、要件定義は準委任、開発段階は請負契約と段階ごとに分けて、規定されることもあります。
以上のように、請負契約と準委任契約の違いは、成果物を完成する義務を負うか否かです。
請負契約の場合には、ベンダ側としては納入物を完成させ、バグがない状態で納品する必要があります。納品後にバグが見つかった場合には、ユーザーからバグの修正を要求された場合には、これに対応する義務が生じます。
一方で、SES契約などの「準委任契約」の場合には、ベンダは成果物を完成して納品する義務までは負いません。ベンダ側としては決まられた時間に、きちんとプロとしての仕事をしていれば、責任は負わないことになります。
ここからは事例とともに見ていきたいと思います。
事例として、次のような状況を想定してみます。「当社は、C社に営業管理システムの制作依頼をしていた。システムが完成し、当社に納入されたが、3か月後重大なバグが見つかった。今後、C社に対してどのような手続きを行ったらいいのか?」
請負契約については「納品後にバグが見つかった場合に、ユーザーからバグの修正を要求された場合には、これに対応する義務が生じます」と記載しましたが、これを、現在の民法で「瑕疵担保責任」といいます。
この「瑕疵」という言葉が、今回の民法改正では変更されました。
改正前:「瑕疵」
改正後:「目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」
⇒改正後は「契約不適合」という形になりました。
言葉が変更されましたが、現在の法律と比べて、実際の影響は、あまりありません。
「瑕疵」とは欠陥のことですが、現在の法律でも「瑕疵」があるかを検討する際には、以下のことを考慮してけっていされています。
よって、欠陥がなかった場合でも、買主が通常よりも高性能なシステムを必要としていて、値段も割高で売買契約が締結されたような場合で、実際に運ばれたのが通常のものであった場合には、契約内容に適合しないといえます。
この場合では、現在の法律でも「瑕疵」になりますし、改正民法でも「契約不適合」になります。
改正民法では、契約不適合が認められた場合には、ユーザー側は、代金減額請求をすることができるようになりました。
改正前は修補請求+解除+損害賠償請求のみだったのが、改正民法では、修補請求+解除+損害賠償請求+代金減額請求できるようになったのです。
これにより、システム開発契約で、ベンダが納品した後に、バグが多いなどの「契約不適合」(=瑕疵)があった場合には、ユーザー側は、当該バグの内容・程度に応じて、ベンダに支払う代金の減額を請求できることも盛り込まれました。
商品の欠陥の場合、ベンダ側は、ユーザー側から、代金減額請求をされる可能性があり、義務が加重されます。よって、ユーザー側から、代金減額請求をされたくない場合には、その旨を契約書に記載しておく必要があります。
また、ベンダ側としては、バグがあった場合に、どこまでのことをするのかを契約書に記載しておく必要があります。
ユーザー側としても、システムにバグあった場合には、ベンダ側がどのような対応してくれるのかは重要なはずです。仮に、ベンダーとユーザーとで対応方法の要望が分かれた場合には、ベンダ側の対応方法が優先されます。
つまり、契約書に定めておかないと、ユーザー側が望まない代替策を講じられる可能性もあるのです。
そのため契約書のチェックは、今まで以上に重要になってくるのです。
瑕疵担保責任の追及ですが、これには、期間制限があります。
現在の法律では、システムを納入したときから1年以内ですが、これが、ユーザー側が不具合を知った時から、1年以内になります。
改正前:「引渡された時 or 仕事完成時」から1年以内
改正後:不具合を知ったときから、1年以内
つまり、瑕疵担保責任の追及できる期間が、延長されたのです。これは、ユーザー側に有利な改正といえます。
責任追及される期間が延長されてしまいます。これが嫌であれば、契約書で別途の規定(期間を短くするなど)を置いておく必要があります。
有利な法改正になります。しかし、ベンダ側からの契約書で、変更がされている可能性があります。
きちんと契約書をチェックするなどして、自社が法律よりも不利にならないように、身を守る必要があります。
瑕疵担保責任による責任追及で、修補請求というのがあります。これは、バグがあるので、修理してくれといえる権利です。
改正前:瑕疵が重要な場合には、過分な費用がかかる場合でも、修補請求ができた
改正後:瑕疵が重要であろうとなかろうと、過分な費用がかかる場合には、修補請求ができない
これは、ユーザー側が、ベンダ側に、バグの修理を請求できる場合が限られることを意味しています。ベンダ側に有利な法改正といえるでしょう。
ユーザー側としては、バグの修理ができる場合が制限されてしまうので、これを変更するには、契約書で定める他ありません。
契約書に、どのような場合に、バグを修理したもらいたいのか、記載するようにしましょう。
請負契約では、上記の通り、仕事の完成が義務づけられているため、成果物を納入して初めて報酬が請求できます。
改正前:ベンダ側は、契約通りの成果物を受け取って、初めて報酬がもらえる。
改正後:ベンダ側の途中まで作成した成果物で、ユーザー側に利益が得られた場合には、ユーザー側がプロジェクトが中断した場合でも支払い義務があると明文化
システム開発は、途中でとん挫することは、よくあるケースなので、ベンダ側としては、開発した分を請求できるのは、有利になります。
しかし、このような請求ができるのは、開発途中のものが、「ユーザー側に利益が得られた場合」です。
ユーザー側としては、ベンダ側から請求された場合には、「ユーザー側に利益はない」という反論をすることが考えられます。
前述したように、通常、準委任契約は、時間と人工などで料金が決まっており、成果物ではなく、業務を処理することによって、報酬を得る契約でした。
それが、改正民法では、「成果物を納入」して初めて、報酬が請求できる準委任契約が規定されました。
改正前:仕事の完成が義務ではなく、業務を処理することが義務
改正後:準委任契約でありながら、仕事の完成を目的とすることもできるようになった
ただし、このような成功報酬型の準委任契約であっても、請負契約とは異なり「仕事の完成」が義務付けられるわけではなく、ベンダ側は、プロとして善管注意義務を果たせば債務を履行したことになり、結果として仕事が完成しなかったとしても、債務不履行責任を負うわけではないことに注意が必要です。
成功報酬型の準委任契約であっても、仕事の完成が義務にまではならない点で、請負契約とは違うので、注意が必要です。
ウェブサービスで必須の利用規約についても、改正民法で新しく規定がされました。
現在の民法は、明治時代に作成されたものなので、当然ですが、ウェブサービスというものを想定していません。利用規約についても、現在のところ、法的な規定はなく、事実上運用されている状態でした。
そこで、今回の改正民法で、利用規約についてのルールが規定されました。
改正民法では、「定型約款」という項目を設けて、以下のように定義しました。
- ある特定の者が、不特定多数のものを相手にする取引であって、
- その内容の全部又は一部が画一的であることが、双方にとって合理的なもの(定型取引)
- 定型取引において、契約の内容とすることを目的として一方当事者により準備された条項の総体
この「定型約款」に当たるものといえば、具体的には、以下のようなものです。
ウェブサービスの利用規約も、この「定型約款」になり、改正民法のルールに従うことになりました。
利用規約は、契約書の代わりになると言われ、裁判所の判例でも認められてきましたが、明確な法律はありませんでした。
改正民法では、利用規約などの「定型約款」が、どういった場合に、契約内容となるのかについて、新たなルールが設けられました。
具体的には、以下の①または②のいずれかを満たすような場合です。
- 定型約款を契約の内容をとする旨の合意がなされた場合
- 定型約款を準備したものが、あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示した場合
そうすると、ウェブサービスの利用規約について、契約書と同じ効力を持たせるためには、利用規約の中に、「利用規約に同意した場合には、双方の契約内容となります」という文言を入れておくことが必要になっていくのです。
利用規約は、事業者が一方的に決定するルールです。事業者としては、事業者に有利になるように規定したいですよね。
従来の民法では、利用規約や約款についての規定がなかったので、利用規約の内容について、どこまで、事業者側に有利にしてよいのかが不明確でした。
そこで、改正民法では、利用規約の内容について、以下のような規定を設けました。
相手方の権利を制限し、または義務を加重する条項であって…相手方の利益を一方的に害すると認められる条項については、合意しなかったものとみなす
そして「相手方の利益を一方的に害すると認められる条項」とは、以下のような場合を指します。
例)契約期間中に解約したユーザーは、違約金として1000万円支払うとの条項
例)ウェブサービス提供とは別に、保守管理料が発生し、それには高額の費用がかかる旨の条項
「利用規約」や「約款」などは、事業側が一方的に内容を決められますが、上記のような内容が入っていると、無効になってしまう可能性があるので、注意が必要です。
ウェブサービスを運営していると、サービスの内容が変わります。そのときに利用規約の変更をしたいと考えるかもしれません。
もっとも、利用規約というのは、契約書と同じ効力があります。通常の契約書であれば、契約書の内容を変更する場合には、契約書を巻き直おすことになります。
しかし、ウェブサービス等の利用規約の場合には、対面して変更についての同意を取るのが、現実的ではありません。
現在でも、利用規約の中に「利用規約の変更」という項目を置いて、各事業者が、変更手続きを定めていますが、これに対するルールもありませんでした。
今回の民法改正では「利用規約の変更」の仕方に関する規定が設けられました。
民法改正では、利用変更したい場合には、以下の要件を満たせば、相手方の合意なく、変更することが認められるようになりました。
よって、企業としては、現在の利用規約や約款について「変更することがある旨」の規定があるかをチェックする必要があります。
また、利用規約の内容を変更した場合には、周知の手続きを取る必要がありますので、注意が必要です。
上記の要件のうち「変更内容の相当性」というのがあります。
これは、利用規約を変更するにあたっては、ユーザーが予期しないような大幅な変更してしまうと、その変更が無効になってしまう可能性があるということです。
これから利用規約を作成する際、将来変更する可能性がある場合には、「当社指定の~」、または「別途記載の~」という形で、利用規約には具体的に記載しないなどの方法をとって、後から変更しやすくするといった規定の仕方をするといいでしょう。
グローウィル国際法律事務所はIT企業専門の法律事務所です。
また、代表弁護士の中野秀俊は、東京弁護士会・法曹親和会の改正民法プロジェクトチームのメンバーであり、改正民法についての著書もあり、改正民法のIT企業に対する影響については、熟知しております。
改正民法についてのIT企業の対策については、どこよりも熟知した法律事務所です。
グローウィル国際法律事務所では、民法改正による具体的な企業の法的なアドバイス及びセミナー研修を行っております。
民法改正による企業の影響を知りたい方は、お問い合わせフォームより、ご連絡ください。