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おつり投資サービスや貯蓄サービスを提供する際の法律【解説】

IT企業のための法律

おつり投資サービスや貯蓄サービスとは

利用者の日々の買い物に関する情報を、リアルタイムで事業者に連携できる仕組みが、スマートフォンをはじめとする情報技術の進展により可能になりました。

貯蓄や投資に関するサービスについても、今までの金融分野における業務のスタイルとは異なる様々なサービスも出現してきています。

Fintech事業者の中ではこのような流れを受け、利用者の買い物に関する情報をもとに、買い物1つ1つのおつりに相当する金額を投資や貯蓄に回すことができるサービスが提供し始めています。

これらのサービスは、投資や貯蓄に関する法制にしっかりと目配りをした枠組みを検討しなければなりません。また、利用者の買い物に関する情報を利用するという観点から、個人情報やデータの伝達に関する新しい法規制にも考慮しなければなりません。

そこで本項目では、おつり投資貯蓄に関するサービスを提供するために知っておかなければならない法令の概要を説明していきます。

おつりサービスを実施するときに必要なライセンス

通常ウェブサイトやアプリを通じて提供される、利用者の日々の買い物の情報をもとに所定のルールに従い、算出されるおつり相当額を投資に回すサービスは、おつり相当額の運用を行うサービスやおつり相当額の特定の有価証券を購入するサービスなどが想定されます。

おつり相当額の投資対象

おつり相当額を全額特定の個別銘柄の株式のみに投資したり、ハイリスク・ハイリターンのデリバティブ商品に投資したりするというようなサービスも理論上は考えられます。

しかし、一般的なおつり投資は、少額を長期間にわたって継続して自動的に投資することで長期的な資産形成を図るというコンセプトなため、リスクの分散がされていない短期間で価格変動が大きく生じる可能性のある特定の個別銘柄の株式への投資や、ハイリスク・八イリターンのデリバティブ商品に投資することはあまり考えられません。

基本的には、リスク要因の異なる国内外の債券・株式・投資信託などの多様な資産クラスに分散して投資することで、リスクコントロールをしながら金融商品への投資を長期間にわたって継続するというサービスが考えられます。

実際に現在国内では、以下のようなサービスが提供されています。

  • おつり相当額で外国の上場指標連動証券や上場投資証券へ投資することを通じて様々な資産クラスに投資する投資信託受益権を購入するサービス
  • 顧客ごとの質問回答などから運用プランを提案し(投資先は海外のETF等)、ロボ・アドバイザーがそのプランに従って自動で運用するサービス

そこで、おつり相当額による投資信託受益権購入サービスと、ロボ・アドバイザーがおつり相当額を運用するサービスについて、それぞれのサービスの提供者が金商法上必要とするライセンスを検討していきます。

(1)投資信託受益権を購入するサービスの場合

購入の対象となる投資信託受益権のおつり相当額分を、当該サービスの提供主体自ら運営するウェブサイトやアプリを通じて、基本的には自動的に購入してもらうことになります。

サービスの提供者はこの場合、投資信託受益権取得の勧誘を行っていることになるため、金商法に従い顧客に投資信託受益権の内容について説明をしなければなりません。

そのため、サービスを提供するアプリやサイト内で、顧客がいつでも投資信託受益権について必要な開示・説明資料(目論見書などを含む)を確認できるようにしておかなければなりません。

おつり投資サービスを行って顧客に投資信託を販売する主体が、場合によって必要なライセンスが異なります。

  1. 自らが投資信託を運用する投資信託委託者である場合
  2. 当該サービスを通じて、第三者が投資信託委託者として運用する投資信託に係る投資信託受益権を販売する場合

1)自らが投資信託を運用する投資信託委託者である場合

この場合、自らが運用する投資信託に係る投資信託受益権の取得の勧誘をすることになるため、いわゆる自己募集行為となり第二種金融商品取引業に該当します。

したがって、第二種金融商品取引業の登録を行わなければなりません。なお、このサービス提供者は投資信託の受益者から拠出を受けた金銭を運用する投資信託委託者であることを想定しているため、当然投資運用業の登録をしていることが前提になっています。

2)当該サービスを通じて、第三者が投資信託委託者として運用する投資信託に係る投資信託受益権を販売する場合

サービスの提供主体は、第1項有価証券である投資信託受益権の募集の取扱いを行うことになるため、第一種金融商品取引業に該当することになります。

また顧客から金銭を受領したり、かかる投資信託受益権の記録のために顧客から振替口座の開設を受けたりする行為は有価証券等管理業務に該当します。したがって、第一種金融商品取引業の登録をしなければなりません。

(2)ロボ・アドバイザーが運用するサービスの場合

ロボ・アドバイザーがおつり相当額を運用するサービスの場合、おつり投資サービスを提供する主体が基本的には運用を行うことが想定されます。

この場合には、投資一任契約に基づく運用行為に該当するサービス金商法上、投資助言に該当するサービス、いずれにも該当しないサービスなど様々な種類がありえます。

ただ、おつり投資サービスの重要点は、原則として自動的に運用に回すという点であるため、投資一任契約に基づく運用に通常は該当すると想定されます。

そして、ロボ・アドバイザーが顧客のおつり投資相当額を運用する行為は、いわゆる投資一任契約に基づいて行う運用であり、これは投資運用業に該当します。

第三者が運用するロボ・アドバイザーを利用する場合

投資信託の場合と同様、サービスの提供主体とは異なる第三者が運用する場合も理論的にはありえます。

その場合、おつり相当額の運用を、第三者が運用するロボ・アドバイザーによってすることになるため、第三者と顧客との間の投資一任契約の締結の代理行為にあたり、これが投資助言・代理業に該当することになります。

ロボ・アドバイザーがおつり相当額を運用するサービスの場合、提携先などの第三者の行為が投資一任契約の締結の媒介に該当すると、投資助言・代理業に該当することになります。

そのため、かかる登録をしていない第三者にサービスの広告をしてもらったり、業務提携で値引き等をしたりする場合には、投資一任契約の媒介行為に該当しないようにする必要があります。

「媒介行為」に当たる行為としては、以下の行為が挙げられています。

  • 商品案内チラシ・パンフレット・契約申込書等の単なる配布・交付
  • 契約申込書およびその添付書類などの受領・回収(記載内容の確認等をする場合を除く)

一方、金融商品説明会などにおける金融商品の仕組み・活用法等についての一般的な説明においては、媒介行為に該当しないとされています。

個人情報のやり取りについて注意すべき事項

おつり投資サービスやおつり貯蓄サービスは提携する事業者間で、金融取引に関する情報や利用者の購買などにおける情報を提供することが取組みの重要な前提となります。

当然このような情報の提供は、利用者の個人情報を含むやり取りとなるため、個人情報保護法に準じた対応をとらなければなりません。

とりわけ、第三者提供の同意においては、金融分野個人情報保護ガイドラインに沿って一定の事項を記載した上で明示的に同意を取得する必要がある事例もあります。

そのため、サービスを検討する際には、どのような場面で第三者提供が生じるかを正確に把握した上で、適切な同意画面などを構築することが重要となります。