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企業が「内定取消し」をするときの法律的な注意点【2023年8月加筆】

労働の法律

内定取り消しって、してもいいの?

採用活動をしているなかで、内定を出してしまったものの、「他にいい人材が現れた」「内定を出してから、印象が変わった」「社内整理をしたら、そもそも新しい人材自体不要となった」などの経験は、少なからずあるのではないでしょうか。

このようなとき、まだ内定の段階だからと言って、安易に内定の取消しを行うと、大きなトラブルとなる可能性があります。

内定取消しについて、法律的に注意すべきことは、どこにあるのでしょうか?

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そもそも内定とは

内定とは「採用することが社内で決まった段階で、雇用契約が締結される前」等といった位置付けで考えている方も多いのではないでしょうか。

しかし、法律上一般的には「始期付解約権留保付雇用契約」として考えられています。

したがって、上記に該当する場合には、内定の段階でも雇用契約が締結されているものと考えるのです。

ただし、通常の雇用契約ではなく、「始期」及び「解約権」が付いたものとなります。「始期」とは、雇入れの日のことを指します。「解約権」とは、正当な事由がある場合には、当該契約を止めることができる権利のことです。この権利が留保されている状態と考えます。

これらの関係性から、内定の取消しは「解雇」と原則同等の扱いが必要とされているのです。

内々定との違いは

では、内定と内々定は何が違うのでしょうか。

その会社での位置付けにもよりますが、一般的には、内定が決まる前の段階で、採用担当者等から「追って正式な内定を通知する」等といった連絡があった場合に、内々定の通知と考えます。

労働契約の「予約」のような位置付けとも言えるかもしれません。

この段階では、雇用契約が締結された状態とまでは言えないという考えが一般的ですが、その内々定が内定と同視できる様な内容の場合には、内定と同様、労働契約が成立したものとされることがあります。

そのため、自社に内々定の規定がある場合には、どちらの意味で取り扱うのかを明確にしておく必要があります。

また、内々定の取消しの場合でも、期待権の侵害にあたるとして会社側に慰謝料の支払いを命じる判決が下されたこともあることから、内々定の取消しも、内定取消しと同様に慎重な判断が必要となります。

内定を取消しが認められる場合

実際に内定を取消し、それが争いとなった場合には、内定を取消す理由が適切かどうか判断されます。内定取消しが正当であると判断される場合には次のようなものがあります。

  1. 卒業予定の学校を卒業できなかった場合
  2. 病気や怪我等により、正常な勤務ができなくなった場合
  3. 経歴等に虚偽があった場合や、犯罪歴が発覚した場合
  4. 内定時には予測しえなかった経営不振等で、既存社員の整理解雇等も発生しているような場合
  5. 内定通知書や誓約書等に記載されている内定取消事由に該当する場合(合理的なものに限る)

ただし、上記のような正当な理由があるとしても、内定者には十分な期間をもって通知・説明をするように配慮する必要があるとされています。

明確な基準はありませんが、解雇と同等扱いとすることから、遅くても30日前までには通知していることが望ましいとされています。

内定者への配慮を欠くような通知の場合、損害賠償の支払いを命じられる可能性もありますので、正当な理由であっても注意が必要です。

会社としての対策

会社として対策できる部分としては、上記⑸の内定通知書等における内定取消事由の内容となります。
内定通知書等の通知をする場合には、その内容をよく検討し、作成しましょう。

テンプレートも多く出回っていますが、会社の実情、業務内容等に合っているのかに注意する必要があります。

取消理由が正当なものとして認められない場合どうなるのか

では、内定取消しの理由が、正当なものとして認められない場合、会社側はどの様な損害を被る可能性があるのでしょうか。

⑴内定取消しの無効による雇入れ

取消の無効を主張され、それが認められた時は、当然従業員として迎え入れることになります。長期的に見ると、コストのかかる結果とも言えます。

⑵損害賠償

「賃金の○ヶ月分」等といった請求をされることが一般的です。100万前後の金額となることも多くあります。

上記でも述べた通り、内々定の取消しの場合でも、損害賠償が認められた事例もあります。

⑶未払い賃金の請求

⑴の雇入れとともに、就労予定日以降について未払い賃金として請求されることもあります。

紛争が長引くほど、当然未払い賃金の額は増えていきますので、不要としていた人材の雇入れの上、未払い賃金の支払いと一番コストのかかる結果かもしれません。

⑷行政による社名公表

新卒採用の場合で、「事業活動縮小を余儀なくされているとは明らかに認められない」など特に問題のある内定取消しと評価された場合には、厚生労働省により社名が公表されることがあります。

まとめ

内定者側からしてみれば、生活や人生がかかっているとも言えるでしょう。そのため、紛争として発展しやすく、長引くことが多くあります。
内定の状態といえども、その扱いには十分に注意しましょう。