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スタートアップにおける投資契約書に規定する株式買取請求権(プット・オプション)とは

IT企業のための法律

 株式買取請求権(プット・オプション)とは

株式買取請求権とは、投資実行後に、投資契約上の義務の重大な違反があり、これを一定期間内に治癒できない場合や、表明保証条項に違反した場合等に、投資家が、その保有する対象会社の株式を対象会社、創業者等又は第三者に売却することを認める権利のことであり、(投資家の)プット・オプションとも呼ばれています。

このプット・オプションは、例えば以下の理由から導入されています。

  1. 株式引受契約に係る表明保証違反や義務違反のサンクションである補償義務は損害立証の困難性の観点から実効性に欠ける場合があり、契約全体の実効性を確保という観点からは合理的な範囲でプット・オプションを規定することにニーズがあると考えられること
  2. 日本では、プット・オプションが既に普及している中で経営株主がそれを頑なに拒絶すると、トリガーとなる義務違反を生じさせるタイプの経営者であることのシグナルになりかねないこと
  3. スタートアップとしても、契約違反があったり、資金調達をするに当たって説明した事実が真実でなく、又は正確ではなかったりしたのであれば(またそれが重大なものなのであれば)、外部投資家の資本を利用する以上は一定の重大なサンクションとしてプット・オプションの行使を甘受すべき場合があると考えられること

この点について、特に創業者個人を株式の買取義務者に加える場合においては、融資においてすら、経営者に対して個人保証を付けることは控えるべきとされている(中小企業庁「経営者保証に関するガイドライン」)にも関わらず、リスクマネーを投入する出資において、創業者個人に保証させる(連帯債務を負わせる)ことには疑問が残ります。

そのため、プット・オプション条項は、公正取引委員会「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」において、以下のような事例が問題事例として挙げられていることも踏まえ、その採否及び採用する場合の内容については、慎重であるべきです。

事例48

事業は順調に進んでおり、事前に出資者と定めた事業計画上の目標も達成していたにもかかわらず、当社の知的財産権を渡すなどの不利益な取引を求められ、それに応じない場合は買取請求権を行使すると示唆された。

事例49

出資者との契約では、定期的な事業報告をできなかった場合等、当社側の小さな規約違反でも買取請求権を行使される条件を付けられた上、出資者が買取請求権の行使時に出資時の何倍もの価格で当社に対して株式の買取を求めることができる条項が一方的に入れられた。当社は反対していたにもかかわらず、交渉がまとまらず長引く中、当社も資金を必要としていたことから、受け入れざるを得なかった。

事例50

出資契約における出資者との交渉の中で、早く契約しなければ出資はしないなどと言われ、契約の締結を非常に急かされる中で、出資契約であるにもかかわらず、出資を受けた数年後に出資額の2倍弱の金額で必ず買い戻さなければならないという条件を出された。当社としても当時は設立から時間がたっておらず、経営が厳しかったこともあり、その条件を受け入れざるを得なかった。

事例51

事業計画の遂行の観点からは全く問題がない範囲で、当社の製品をより低価格で販売できるよう、機材調達の方法を変更したところ、出資者から,買取請求権を行使すると言われた。当社としては、製品の製造には全く問題なく,会社の利益のために変更したものであり、事業計画の重大な変更に当たらず、買取請求権の行使条件を満たしていないと伝えたが、結局、一方的に買取請求権を行使されてしまった。

事例52

出資契約上に創業者への個人保証が強要され、一方的に定められることとなった。この個人保証があったために、家族の理解を得られずに当社を他の創業者と共同で起業することができなかった。創業者個人に対しても責任を求めると、リスクを取って起業しようとする人材は出てこないという状況が永遠に続くのではないか。

事例53

出資契約において、出資者の同意なしに事業を進めた場合は、契約違反として、創業者に対して、一方的に買取請求権を行使できるという契約になっている。当社の資金繰りが厳しくなった時に、会社を清算しようとしたが、出資者から契約違反と言われ、買取請求権を創業者個人に行使すると脅された。結局、創業者個人の生活費を切り崩して、当社の運転資金に回さなければならず、創業者の生活維持にも大きな支障が出た。

また、仮にプット・オプション条項を採用する場合においても、以下の点に留意しつつその内容を設計する必要があります。

プット・オプションの買取義務者に創業者個人を含めるか否か

なお、買取義務者として会社さえ指定しておけば十分かという問題について、自己株式の取得には、分配可能額規制がかかるため、分配可能額のないスタートアップに対しプット・オプションを行使しても、法律上の制約により現実的には買取りを期待することができないケースが出てくるとの指摘があります。

しかし、買取義務者が会社だけではプット・オプション条項が十分に機能しないのとしても、投資はそもそもリスクマネーの供給であり、対価が一切返ってこないことがその性質上可能性として内包されているのであるから、創業者との間の適切なリスク分配という観点からは、そもそもプット・オプション条項は不要ではないかと考えられます。