今回の国会において、著作権法の一部を改正する法律案(以下、「平成30年改正案」という)が提出され、審議されています。
平成30年改正案は、今国会で成立する予定で、施行は平成31年1月1日を予定しています(教育の情報化に対応した規定に関しては、公布の日から起算して3年を超えない範囲)。
従来は、AI、IOTなどの新しく技術が出てくるなかで、利用者のニーズに、著作権法が対応できていないという問題がありました。
そこで、平成30年改正案は、コンテンツホルダーなどの著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直したものです。
情報関連産業、教育、障害者、美術館等におけるアーカイブの利活用に係る著作物の利用をより円滑に行えるようにすることを目的としています。
著作権法では、著作者にその著作物(小説・写真・音楽・映画・プログラム等)の著作権が帰属するとされています。
そのため、他人の著作物を利用しようとする場合は、著作者(著作権者)の許諾が必要となります。許諾を得ないで利用した場合は、著作権者から、利用行為の差止めや損害賠償請求がなされるおそれがあります。
ただ、著作権法は、著作物の円滑な利用を促進するため、著作権者の許諾を得ない自由な利用を認めています(法30条~50条)。その結果、著作権者の権利が制限されることになるため、その規定は権利制限規定と呼ばれます。
平成30年改正案では、この権利制限規定が見直され、よりコンテンツなどの著作物の自由な利用が可能となりました。
当該条項は、いわゆる「日本版フェアユース」に関する規定で、平成30年改正案の中で最も注目された条項です。
近年、IoT・ビッグデータ・人工知能等の技術を活用し、大量の情報の集積・組合せ・解析によって付加価値を生み出すという技術革新が、盛んに行われるようになっています。その過程では、著作物を含む大量の情報を集積することが必要となります。
しかし、現在の著作権法では、著作権者の許諾なく利用できる範囲を限定的に規定しているため、そこに規定されていない行為に関しては、著作権者の許諾をその都度得る必要があります。
そのため、規定されている行為と類似の行為でも、著作権者の許諾がなければ形式的に違法となるため、著作物の利用の委縮が生じているとの指摘がなされていました。
また、許諾が不要な場合を法律で限定的に規定する方法では、新しい技術における著作物の利用に対応することが困難との指摘もなされていました。
そこで、以上のような問題点を解消し、新しい技術の開発を促進するために、ある程度柔軟性をもった権利制限規定が設けられることになりました。
権利制限規定が以下の三層構造に分類され、整備されることになりました。
第1層:著作物の本来的利用には該当せず、権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型
→著作物を享受(鑑賞等)する目的で利用しない場合(コンピューターの内部処理のみに供されるコピー等・セキュリティ確保のためのソフトウェアの解析調査等)
第2層:著作物の本来的利用には該当せず、権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型
→新たな情報・知見を創出するサービスの提供に付随して、著作物を軽微な形で利用する場合(所在検索サービス・情報解析サービス)
第3層:公益的政策実現のために著作物の利用の促進が期待される行為類型
この第1層に分類される、現行の法30条の4・47条の4・47条の5・47条の8・47条の9が削除され、新30条の4・新47条の4が設けられます。
その結果、以下において権利者の許諾が不要となります。
また、第2層に分類される、現行の法47条の6が削除され、新47条の5が設けられます。
その結果、以下において、著作物の利用の際に権利者の許諾が不要となります。
なお、予見可能性を担保するため、文化庁で法改正後にガイドラインを整備することとしています。
第3層は、平成30年改正では対象となっておらず、従来通りに利用の目的ごとに立法府において制度の検討を行うとされています。
ICTの活用により教育の質の向上を図るため、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、著作権者の許諾なく行えるようになります。
従来は、教育機関での対面授業で使用する資料の複製等は、著作権者の許諾なく無償で可能でした。しかし、上述のようなネットワークを利用した行為等は、著作権者の許諾が必要だったため、教育上必要な利用ができないとの批判がありました。
そこで、平成30年改正は、上述のネットワークを利用した行為等につき、著作権者の許諾を不要としました。ただ、利用は無償ではなく、補償金の支払いが必要となりますが、現時点で、具体的な補償金の額は決まっていません。
現在視覚障害者等が対象となっている規定が見直され、肢体不自由等によって書籍を持てない人のために、録音図書の作成等を、著作権者の許諾なく行えるようになります。
美術館等の展示作品の解説・紹介用資料をデジタル方式で作成し、タブレット端末等で閲覧可能にすること等を許諾なく行えるようになります。
現在は紙媒体への掲載のみ許諾が不要ですが、デジタル媒体への掲載に関しても許諾が不要となります。
平成30年改正によって、大量のデータを解析し、新たな価値創造を生み出すという技術に関する、著作権法上の懸念は解消されることになります。
しかし、条文の文言が不明確であったり、補償金の額が決まっていないなど、詳細な点はまだまだ不明確です。今後のガイドラインや裁判例の蓄積によって明確になっていくものと思われます。