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「不正競争防止法の改正」によるAIやIOTビジネスへの影響とは【解説】【2022年9月加筆】

ロボット・AI・ドローンの法律

不正競争防止法の改正

データの利活用に関して、平成30年に不正競争防止法が改正されましたが、その経緯と改正内容はどのようになっているのでしょうか。また、AIやロボットとはどのように関係するのでしょうか。

AI(人工知能)開発で重要な情報が盗まれた!【不正競争防止法】

改正の経緯

IoT・AI等の情報技術の革新が進み、いわゆるビッグデータ等の大量かつ多様なデータの取得、加工および整理等が可能となり、このようなデータがビジネス上の競争力の源泉となっています。

これまでデータの利活用の態様として、個々の事業者が自ら取得したデータを独自に用いることが多くありましたが、複数の企業が連携する形でのデータの利活用が進みつつあります。

例えば、データ分析機関が物流関係業者の施設に設置したセンサーから収集した気象データを分析し、通行可能な道路マップ等の災害対策用の予測情報を作成、共同利用するとともに第三者に販売すること等が検討されてきています。

このような高い付加価値を生み出すもととなるデータに関して、従来は、著作権や営業秘密、データ契約に基づいて保護される可能性がありました。

もっとも創作性を欠くデータは著作権が発生せず、データの不正取得等を行った第三者に対して契約上の効果は及びません。

また、営業秘密として保護されるためには秘密管理性や非公知性が要求されるため、流通や利活用の対象となるデータは通常営業秘密に該当しません。

このように、従来の法制度上、流通や利活用の対象となるデータの保護は不十分で、事業者が競争力の源泉となる重要な資源であるデータを流通させ、利活用するインセンティブが生じにくい状況でした。

そこで、IDやパスワード等の管理を施したうえで事業として特定の者に提供されるデータを、不正に取得、使用等する行為を新たに不正競争行為と位置付ける改正が行われました。

イメージとしては、法律で保護されるデータの範囲が広がったイメージです。

不正競争防止法改正の保護対象となるデータ

法改正では、限定提供データが、新たに保護の対象として規定されました。

どのような場合に限定提供データに該当するかは、不正競争防止小委員会が、取り纏めた中間報告が参考となります。

中間報告においては、ビッグデータを念頭に置き、保護すべきデータとしては、以下を満たす電子データの集合物の全部または一部のデータであると示されています

  • 限定的な外部提供性
  • 技術管理性
  • 有用性

そして、これらは以下の3つに対応すると考えられます。

  1. 業として特定の者に提供する情報
  2. 電磁的方法により相当量蓄積され、および管理されている情報
  3. 技術上または営業上の情報

(1)業として特定の者に提供する情報

反復継続して特定の者に対して提供しているデータまたはかかる提供の意思が認められるデータが該当します。

この要件を充足させるために、IDやパスワードを設ける等してユーザによるデータへのアクセスに認証を要求したり、データの提供に際して第三者への提供を禁止する条項を入れるという契約上の手当てをしたりすることが考えられます。

(2)電磁的方法により相当量蓄積され、および管理されている情報

データを取得しようとする者が、使用・提供を制限する旨の管理意思を明確に認識できる、特定の者に限定して提供するための適切な電磁的アクセス制御手段(ID・パスワード管理、専用回線の使用、データ暗号化、スクランブル化等)により管理されていることをいうと示されています。

例示された適切な電磁的アクセス制御手段を提供データに付することで管理意思が認識可能となるのであり、これらの措置を施すことが重要と思われます。

(3)技術上または営業上の情報

集合することにより商業的価値が認められることをいうと示されています。

ビジネス上用いられるデータの集合物は、概ね技術上または営業上の情報に該当するものと思われます。

具体的にどのようなデータがこれらの要件を満たすかわかりにくい部分があることから、技術的管理等の客体の要件等についてのわかりやすいガイドラインを速やかに策定すべきであると指摘されており、今後限定提供データの該当性に係る考え方や具体例に関するガイドラインの最終版が公表される可能性があることから、その動向に注視が必要です。

AI、IOT、ロボットと「不正競争防止法の改正」の関係

今回の改正により、学習用データセット、学習方法、学習済みパラメータ、学習済みモデル等の価値の高いデータを、守秘義務のない緩やかな規約に基づき共有する場合等にも、当該データについて、不正競争防止法による保護が及ぶようになりました。

このように、厳格な秘密保持契約を締結せずに他者とやりとりされるデータが保護されやすくなり、ロボットが収集・加工したデータや、それをもとにAIが創出したデータ等のAI・ロボットにまつわるデータの利活用を行うことが容易になったといえます。