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従業員は「会社の情報を秘密保持をする義務」をどこまで負うのか【2022年11月加筆】

IT企業のための法律

従業員が退職後の会社の秘密情報ってどうなるの?

従業員は、労働契約期間中、明示的な特約がない場合でも、契約の存続期間中、契約上の義務として、会社の業務上の秘密を洩らさない義務を負うとされています。

では、労働契約終了後については、明示的な特約がなければ、労働者は、秘密保持義務を負わないのでしょうか。

裁判例では、信義則上、労働契約終了後も秘密を漏洩しない義務を引き続き負っているとしています。

そして、従業員がその義務を破って、競業会社にその営業秘密を開示するのは、損害賠償責任を負うとされています。

退職後の秘密保持契約がある場合には

上記のように、従業員は、明示的な特約がなくても、信義則上、労働契約終了後も秘密を漏洩しない義務を引き続き負っています。

また、明示的な特約がある場合には、当該特約に基づき、労働者は、原則として秘密保持義務を負うことになります。

しかし、明示的な特約がある場合であっても、退職後の秘密保持義務をあまりに広く容認すると、労働者の職業選択の自由や営業の自由を制約することになりますので、公序良俗に反して無効とされる可能性があります。

例えば、従業員は、原告会社に対し「業務上知り得た会社の機密事項、工業所有権、著作権及びノウハウ等の知的所有権は、在職中はもちろん退職後にも他に一切漏らさない」「私は、貴社を退職後も、機密情報を自ら使用せず、他に開示いたしません」と記載された誓約書を差し入れた場合、仕入先の情報などは当該誓約書の秘密保持義務の対象となるのでしょうか?

裁判例では「従業員が退職した後においては、その職業選択の自由が保障されるべきであるから、契約上の秘密保持義務の範囲については、その義務を課すのが合理的であるといえる内容に限定して解釈するのが相当である」としたうえ、秘密保持の対象となる機密事項等についての定義や例示がなく、いかなる情報が秘密保持合意の保護の対象となる機密事項等にあたるのかは不明であること

従業員において仕入先の情報が外部に漏らすことの許されない営業秘密として保護されているということを認識できるような状況に置かれていたとはいえないなどの事情に照らせば「本件仕入先情報が機密事項等に該当するとして、それについての秘密保持義務を負わせることは…不合理であるといわざるを得ない。」と判示して、仕入先の情報などは当該誓約書の秘密保持義務の対象とならないとしています。

また、裁判例では、「労働契約関係にある当事者において、労働契約終了後も一定の範囲で秘密保持義務を負担させる旨の合意は、その秘密の性質・範囲、価値、当事者(労働者)の退職前の地位に照らし、合理性が認められるときは、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である」と述べています。

例えば、誓約書に定める秘密保持義務が有効とされた事案では、以下の事情を総合して「本件誓約書の定める秘密保持義務は、合理性を有するものと認められ、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である」と判示しています。

  1. 秘密保持義務の対象となる原告の重要な機密事項は、「顧客の名簿及び取引内容に関わる事項」や「製品の製造過程、価格等に関わる事項」という例示があり、これに類する程度の重要性を要求しているものと容易に解釈でき、誓約書記載の「秘密」の範囲が無限定であるとはいえない
  2. 当該情報は、原告にとって経営の根幹に関わる重要な情報である
  3. 被告は、当該情報の内容を熟知し、その利用方法・重要性を十分認識している者として、秘密保持を義務づけられてもやむをえない地位にあった

一方で、従業員が退職する際に「私は、退職後も、会社の機密情報を使用しない」と定めた誓約書を提出した場合、誓約書からは仕入先の名称・住所・電話番号が「会社の機密情報」に該当するか否かは不明であり、また当該仕入先情報が営業秘密であると認識しうる状態に置かれていなかったようです。

元従業員が当該仕入情報を「会社の機密情報」に該当すると予測することが難しいため、それについて秘密保持義務を負わせることは不合理であることから秘密保持義務違反を問えないした裁判例もあります。</pと

会社側としては、秘密保持義務の対象をなる情報を限定して、特定することが最低限は必要になります。