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仮想通貨(暗号資産)による現物出資の方法と注意点【解説】【2020年12月加筆】

仮想通貨・デジタル通貨に関する法律

仮想通貨により出資したいというニーズが高まる

会社設立する際の資本金や株式の対価として、仮想通貨で支払いたいというニーズが増えています。日本でも、仮想通貨で出資して、会社を設立した事例が出ています。

仮想通貨「イーサリアム」の現物出資で会社設立

このような仮想通貨による出資について、法律的な注意点はあるのでしょうか。

現物出資による方法

現物出資では、金銭とは異なり、その価格が、一義的に分からない部分があります。

例えば、財産価格が、過大評価されてしまうと、金銭で出資した人と比べて、不公平になってしまいます。

また、過大に評価された財産が資本となると、株式会社の資本金の額が実体を伴わないものとなってしまい、債権者にも悪影響を及ぼすおそれがあります。

そこで、現物出資の場合は、法律上、株主や債権者等の会社関係者の権利を保護するための規定が定められています。

現物出資の法律上の規定

会社法上、金銭以外の財産を出資する場合、出資者の氏名または名称、財産の名目と価額、割り当てる株式数を定款に記載しなければ現物出資の効力が生じないとされています。

また、原則として、裁判所が選任した検査役の調査を受ける必要があります。

ただし、検査役の調査を受ける場合、多額の費用面でも時間面でもコストがかかるため、以下のような場合には、検査役の検査がいらないされています。

  • 現物出資の対象となる財産の価額が500万円以下
  • 現物出資の対象となる財産が、市場価格のある有価証券で、定款に記載 価額がその市場価格を超えない
  • 定款記載価額が相当であることについて弁護士、税理士等の証明を受けた場合

つまり、現物出資の価額が、500万円以下であればそれだけで検査役が不要ですが、それより高額の出資であれば、検査後の選任を不要とするため、弁護士、税理士等の評価証明が必要となる

仮想通貨の評価証明をどうするか

問題になるのは、仮想通貨の評価証明をどのように行うかです。

評価証明では基本的に、以下のことを証明する必要があります。

  1. 財産が実在することと
  2. 財産の正確な価値

よって、弁護士、税理士等は証明書の形で、以下のことを証明する必要があるのです。

  1. 特定のウォレットに特定量の仮想通貨が存在していること
  2. 当該仮想通貨の日本円建ての時価(特定の日時における、特定の仮想通貨取引所における価値)

仮想通貨の価格が、急騰したらどうなる

仮想通貨は、ボラティリティが大きいので、出資したときの評価額よりも、価格が上がることが考えられます。

仮想通貨で、出資した後に、仮想通貨の価格が高騰した場合には、どうなるのでしょうか。

法律上は、仮想通貨の評価額が高騰しても、当事者に割り当てられた株式数に変化はありません

よって、原則としては、仮想通貨の評価額が、出資後に、高騰しても、株式割合に変化はありません。

しかし、株主間契約などで、「議決権比率は当事者の出資額に応じて決定」等と規定した場合には、仮想通貨での出資者は、日本円換算で事後的に出資額が増加したと主張することができます。

よって、株主間契約を結ぶ際には、仮想通貨の価格が変化した場合には、どうするかということを規定しておいた方がよいです。

仮想通貨の価格が、下落したらどうなる

反対に、仮想通貨の価格が、出資時よりも下落した場合には、どうなるのでしょうか。

法律上、出資財産の価額が不足する場合には、発起人および設立時取締役は連帯して不足額を会社に支払わなければならないとされています。

具体的には「株式会社の設立の時における」価額が定款記載の金額に著しく不足する場合には、発起人が、不足額を新会社に支払う義務を負うのです。

通常の現物出資(不動産など)であれば、定款にその価額を記載した時から株式会社の成立時(設立登記時)までの短期間に価額が変動するおそれは小さく、定款作成時に適切な価額を記載さえすれば問題ないことが多いです。

しかし、仮想通貨は、数日間で価値が大幅に下落する可能性があります。そうなると、「株式会社設立時」に定款記載の仮想通貨評価額に「著しく不足」してしまうことはあり得るにです。

そのため、定款に仮想通貨の時価を記載した後に大幅な価額下落が生じた場合には、都度、定款変更をして価額を最新のものにアップデートしていく必要があります。

いずれにせよ、仮想通貨による現物出資を検討する場合には、定款に記載する額を決定した時から、会社設立の登記がなされるまでの期間を可能な限り短くした会社設立のスケジューリングを行い、価額下落のリスクを回避することが望ましいのです。

また、上記で説明した評価証明を行う弁護士、税理士等の「証明者」は、当該証明をする際に注意を怠らなかったことを証明できない限り、発起人と連帯して、不足額を支払う義務を負うことになります。