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D2Cビジネスにおける広告表現、法律的リスクとその対処法

「もっと売上を伸ばしたい。でも、広告表現でどこまで踏み込んでいいのか分からない…」
サプリメントや健康食品のD2C(Direct to Consumer)ビジネスを展開する経営者様から、このようなご相談をいただくことが年々増えています。素晴らしい商品を開発し、自社の想いを直接お客様に届けられるD2Cは、非常にやりがいのあるビジネスモデルです。
しかし、その一方で、競争は激化の一途をたどっています。数多の競合の中から自社を選んでもらうため、商品の魅力を最大限に伝えたいと思うのは、経営者として当然の心理でしょう。その結果、つい踏み込んでしまうのが広告表現の「グレーゾーン」です。
「”個人の感想です”と小さく書けば、少し過激な体験談を載せても大丈夫だろう」「この成分の論文データを示せば、効果を謳っても問題ないはずだ」
「競合のあの会社だって、もっとエグい広告をやっているじゃないか」
もし、少しでも心当たりがあるなら、この記事を最後までお読みください。その「大丈夫だろう」という小さな油断が、ある日突然、貴社を窮地に陥れることになりかねません。
消費者庁や都道府県からの突然の指導、売上の根幹を揺るがす課徴金納付命令、SNSでの炎上によるブランドイメージの失墜、そして、最悪の場合は代表者個人の刑事罰…。
こうなる前に、法律面で注意すべき点を解説します。
薬機法
正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と言います。
この法律は様々なことを規定していますが、D2Cビジネスでは、ランディングページや広告表現についての規制になります。
薬機法の規制を一言でいうと、
「医薬品として国に承認されていないもの(=健康食品)が、あたかも医薬品のような効果効能があるかのように広告してはならない」
これに尽きます。違反した場合、**「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれを併科」という刑事罰も科される可能性があり、極めて重い規制です。
では、「医薬品的な効果効能」とは具体的に何を指すのでしょうか。厚生労働省のガイドラインでは、以下の3つのカテゴリーが示されています。
疾病の治療又は予防を目的とする表現
「糖尿病、高血圧、動脈硬化の予防に」
「ガンが治る、ガン細胞の増殖を抑える」
「アトピー性皮膚炎が改善」
このような病気が治る、予防になるという表現は全てNGになります。
身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする表現
「疲労回復」
「強壮」
「免疫力アップ」
「老化防止」
「解毒作用」
このように身体機能の「向上」を謳うと、薬機法違反になります。
特定の部位への効果を示唆する表現
「肌のシミ・シワが消える」
「脳の働きを活性化」
「関節の痛みを和らげる」
「抜け毛を防ぎ、発毛を促進する」
体の特定の部分に言及し、その部位が改善するかのような表現は、薬機法違反となります。
薬機法で注意すべき表現方法
重要なのは、これらの効果を「暗示」したり、「雰囲気」で匂わせたりするだけでもアウトだということです。直接的な言葉を使っていなくても、以下のような表現は違反と判断されるリスクが極めて高いのです。
ビフォー・アフター写真やイラスト
ビフォー・アフター写真は、以前は全く使えないのですが、医薬品等適正広告基準が改正されて使うことができるようになりました。ただし、ビフォー・アフター写真でも以下のような表現はできないとされています。l
・化粧品・薬用化粧品の効能効果を逸脱する表現
・効果発現までの時間を保証する表現
・効果持続時間を保証する表現
・安全性を保証する表現
ビフォー・アフター写真の使用OK例
実際にビフォー・アフター写真を使える例としては、以下の通りです。
・化粧品の染毛料、医薬部外品の染毛剤の広告において、使用前・後の写真を用い、色の対比を行っている場合。
・洗浄料の広告において、肌が汚れた状態の写真と洗浄後の肌の写真などを使用する場合。
・化粧水、クリーム等の広告において、乾燥した角層と、保湿後の角層の図面などを使用する場合。
・シャンプー(化粧品)の広告において、フケがある頭皮写真と、シャンプー使用後の頭皮写真などを使用する場合。
購入者・愛用者の体験談
実際の購入者・愛用者からの体験談については、どこまで掲載してよいのでしょうか?
前提として、購入者・愛用者の体験談がないにも関わらず、事業者が作成するのは、景品表示法で違法です。
では、実際に寄せられた購入者・愛用者からの体験談は無条件に掲載してよいのでしょうか?
「医薬品等適正広告基準」、「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等」では、体験談において、効果効能を示す表現は禁止をされています。なので購入者から寄せられた体験談でも、効果効能を示す表現があればカットする必要があります。
化粧品については、56項目の表現であれば広告に使用することができますが、
化粧品の広告可能な表現項目
体験談の中には、この56項目の表現も入れることができません。
ただし、「使用方法」「使用感」「香りのイメージ」については、体験談を掲載することができます。
購入者からの体験談については、この限りで掲載するようにしましょう!
盛った表現を許さない【景品表示法】
薬機法が「効果効能」を縛る法律なら、景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)は「ウソや大げさな表現(=不当表示)」全般を取り締まる法律です。D2Cビジネスで特に問題となるのは、以下の通りです。
優良誤認表示
商品やサービスの中身(品質、規格、効果など)について、事実と異なる、あるいは事実よりも「著しく優良」であるかのように見せかける表示です。例えば、以下のような表現はNGです。
例:「飲むだけでマイナス10kg!※運動と食事制限を併用した場合」
→小さな注釈を付けても、商品自体の効果であるかのように誤認させればアウトです。
例:「顧客満足度No.1!」
→客観的で公正な調査に基づいた根拠がなければ、優良誤認となります。
例:「業界最大量の〇〇成分を配合!」
→競合製品との比較データなど、裏付ける合理的根拠がなければなりません。
景表法違反が疑われると、消費者庁は事業者に対して、表示の裏付けとなる「合理的根拠」の提出を求めることができます。この根拠を提出できない、あるいは提出しても合理的と認められない場合、違反と認定されます。
有利誤認表示
商品やサービスの取引条件(価格など)について、実際よりも、あるいは他社よりも「著しく有利」であるかのように見せかける表示です。
例:「通常価格10,000円のところ、初回限定980円!」
→「通常価格」で販売した実績がほとんどない場合、二重価格表示として有利誤認にあたる可能性があります。

例:「本日終了!タイムセール」
→実際には毎日同じ価格でセールを行っている場合、消費者の「今買わないと損」という気持ちを不当に煽る有利誤認となります。
景表法に違反した場合、消費者庁から表示の取りやめなどを命じる「措置命令」が出されます。さらに、悪質なケースでは、対象商品の売上額の3%という、極めて高額な「課徴金」の納付が命じられます。数億円規模の課徴金が課された事例も珍しくなく、企業の存続を揺るがしかねない厳しい制裁です。
ステマ規制は、気を付ける
2023年10月1日から、景品表示法においてステルスマーケティング(ステマ)が明確に禁止されました。これは、事業者の広告であるにもかかわらず、それを隠して、あたかも第三者の純粋な感想であるかのように見せかける表示を規制するものです。
「#PR」「#広告」といったハッシュタグを付ければ良い、と安易に考えている方も多いですが、それだけでは不十分な場合があります。重要なのは、「社会通念上、事業者の表示であることが消費者にとって明瞭に分かるかどうか」です。
例えば、
・大量のハッシュタグの中に「#PR」を紛れ込ませる
・投稿の最後に、分かりにくい形で小さく記載する
・「これは個人的に超オススメなんだけど…」といった前置きの後に「#PR」と付ける
これらは、消費者が広告であることを瞬時に認識しづらく、規制の趣旨に反するとして問題視される可能性があります。形式的にタグを付けるだけでなく、誰が見ても広告だと分かる誠実な表示が求められます。
