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社員の懲戒処分でトラブルにならないように注意すべき法律のポイント【2024年1月加筆】

労働の法律

問題のある従業員を懲戒処分をするときはルールを守ろう

問題のある社員に対して、企業としては「懲戒処分」という形で、処分を下す場合があります。

企業としても、問題のある社員には、懲戒処分をしないと、社内に示しがつかないことになるので、きちっと対応する必要があります。

しかし、懲戒処分にも、法律上のルールがあります。このルールを守らずに、懲戒処分をしてしまうと、逆に従業員から裁判を起こされる可能性があります。

実際に、懲戒処分をめぐり企業が敗訴した例もあります。

例えば、武富士(降格・減給等)事件(東京地方裁判所平成19年 2月26日判決)では、従業員らに対して行った減給・降格の懲戒処分が無効であると認定され、総額150万円の支払が命じられました。

企業としては、懲戒処分を行った結果、裁判になってしまうというのは、避けたいところです。そこで、今回は、懲戒処分の法律的なルールについて、見ていきましょう。

懲戒処分の種類

そもそも、懲戒処分とは、企業が、問題を起こした従業員に対し、課す制裁です。

懲戒処分については、企業ごとに就業規則で定められていると思いますが、懲戒処分の例としては、以下の6つです。

①戒告・訓戒

これは、いわゆる「指導」にあたるものです。文書に基づくものが多いです。

通常は、懲戒処分の中では、最も軽いものとして定められており、企業によっては、就業規則で、始末書を提出させることを定めている場合もあります。

②減給

こちらは、その名の通り、従業員の給与を減額する懲戒処分です。

減給処分については、1回の減給処分あたり、1日分の給与額の半額が限度額なっていますので、注意しましょう。

また、1回の行動に対する減給処分ができるのは、1回だけです。

③出勤停止

こちらは、従業員に一定期間、出勤をしないように命じるものです。出勤停止している間の給与は、無給です。

法律上、出勤停止の期間の上限はありません。しかし、通常は就業規則で上限が規定されていることが多いです。

また、あまりに長い出勤停止は、裁判で無効になる可能性があります。

④降格

こちらは、現状の従業員の役職を、下位の役職に引き下げるものです。

降格処分の場合には、以後、役職給などがなくなるため、従業員への影響は、大きいものです。よって、裁判でも、問題になるケースが多いです。

⑤諭旨解雇

こちらは、まずは、懲戒解雇に当たるような行為したが、会社の決定によって、諭旨解雇とするもので、一種の温情的な措置です。

懲戒解雇と異なり、諭旨解雇の場合には、退職金が支払われるという会社が多くなっています。

⑥懲戒解雇

こちら、問題行動を起こした従業員について、解雇する懲戒処分です。

この場合には、通常、退職金は支払われず、解雇予告手当も支払われません。

懲戒処分を下す場合に、必要な手続き

以上のように、懲戒処分ですが、実際に下す際には、以下のような手続きが必要になります。

就業規則に規定されていること

大前提として、会社は、就業規則に記載されていなければ、懲戒処分をすることはできません
就業規則に、「懲戒」の項目があるか確認する必要があります。

また、判例では、会社として、どのような行為をすると、懲戒処分に当たるのかを就業規則で明確にしなければいけないとしています。

そのため、会社としては、そもそも懲戒処分の対象であるのかを検討する必要があります。

仮に、世間一般的に、問題行動であると思う行為があったとしても、就業規則にない懲戒処分をしてしまうと、無効と判断されてしまいます。

行為に対して、重すぎる懲戒処分はダメ

懲戒処分の規定があったとしても、問題行動の内容と比較して、懲戒処分が重すぎる場合には、懲戒処分自体が無効になる可能性があります。

日常業務や社員旅行の宴会で、セクハラ行為をしたことを理由として懲戒解雇された原告が、懲戒解雇の無効を主張した事案で、東京地裁は、懲戒解雇は重すぎるとして、懲戒解雇は無効であることを判断しました(東京地方裁判所平成21年4月24日判決)。

企業としては、どのような問題行動があったら、どのような懲戒処分をするかについては、慎重に判断する必要があるのです。

問題行動と懲戒処分の判断ポイント

では、具体的に、どのような問題行動をしたら、どの懲戒処分になるのでしょうか?その判断基準について、みていきます。

戒告・訓戒のケース

戒告・訓戒は、一番軽い処分です。

1日の無断欠勤や、業務上のミスについてはじめて懲戒処分をするケースでは、戒告処分や譴責処分で対応するべきことが多いでしょう。

裁判例でも、戒告・譴責・訓戒の懲戒処分を合法と判断した事例としては以下のケースがあります。

減給のケース

減給の懲戒処分は、すでに戒告・訓戒などの処分をしている場合で、さらに遅刻欠勤、業務上のミスを繰り返している場合です。

初めての問題行動で、減給処分をする場合には、慎重に判断するようにしましょう。

出勤停止のケース

出勤停止は、仕事をする機会を奪い、その間の給料が支払われなくなります。そのため、会社に重大な損害を与えるような行為の場合に、適用するのがよいでしょう。

重大な損害とは、以下のような場合が考えられます。

  • 職場内の暴力行為
  • 職務放棄

降格のケース

降格のケースは、出勤停止よりも、役職手当などが継続的にカットされてしまうので、セクハラ、パワハラなどの重大な違反行為に対して、処分が行われるものです。

また、重大な社内内規ルール違反も、降格を検討するにケースといえます。

内規で定められていた作業手順を守らない、遅刻居眠りもしていた従業員に対して、降格処分を行ったことに対して、降格処分は、合法を裁判例があります。

管理職で、成績が上がらない部下に対して、当該部下の能力を否定する発言をし、退職を強い口調で何回も迫ったパワハラ行為をしたものに、降格処分をしたことを合法と判断した裁判例があります。

また、セクハラ事例では、降格処分を合法とした裁判例が多数あります。

懲戒解雇、諭旨解雇のケース

懲戒解雇は最も重い懲戒処分です。諭旨解雇については懲戒解雇よりも軽い処分ですが、解雇になるのは変わらないので、やはり重い処分といえます。

また、従業員としても、懲戒解雇の場合には、クビになったうえに、退職金が支給されないなど、不利益が大きくなります。そのため、懲戒解雇をする場合には、事前の検討を十分にするようにしましょう。

懲戒処分に該当する場合は、以下のような場合です。

  • 横領行為
  • 長期間の欠勤
  • 強制わいせつに該当するような重大なセクハラ

裁判例では、以下のような場合で、懲戒解雇を合法としています。

  • 領収証の改ざんをして、10万円を不正請求した事案
  • 「病気のため欠勤する」という連絡のみで、その後、1ヶ月半欠勤を続けた事例
  • 男性上司が女性の部下2名に対し、飲食を共にした際に無理やりキスをしたり、深夜自宅付近まで押し掛けて自動車に乗せ車中で手を握る、残業中に胸をわしづかみにするなど事例

懲戒処分は、事前の検討が大事

以上のように、会社としては、どの問題行為に、どの懲戒処分をするかを判断する必要があります

行き過ぎた懲戒処分は、裁判に持ち込まれ、懲戒処分が違法とされてしまう可能性もあります。そうならないように、会社としては、問題行為を把握し、事前に十分に検討するようにしましょう!