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AIエージェント導入に伴う法律的リスクと対応策

AIエージェントが注目を集めている
2025年に入り、AIエージェントと呼ばれる自律型AIシステムがビジネスシーンで急速に注目を集めています。人間の指示を待たず環境を認識し、学習や意思決定を行って自律的にタスクを実行できるAIエージェントは、業務効率化や新たな価値創出の手段として注目されています。
しかし、その一方でAIエージェントの導入には日本法上のさまざまなリスクが潜んでいる点にも注意が必要です。AIチャットボットや業務代行AIなどを自社で活用する際に、法令違反や予期せぬ責任追及を招かないよう、事前にリスクを把握し適切な対応策を講じることが重要です。本記事では、AIエージェントを導入・活用する際に知っておくべき主要な法的リスクと、経営者・事業責任者が取るべき対応策について解説します。
AIエージェントとは何か
AIエージェントとは、一般に「特定のタスクを自律的に遂行する人工知能システム」を指します。あらかじめプログラムされたシナリオに留まらず、環境からデータを取り込み、必要に応じて学習・判断しながら人間の代わりに行動できる点が特徴です。
例えば、高度なチャットボットや自動運転システム、業務アシスタントAIなどは広い意味でAIエージェントに含まれます。AIエージェントは人間の「代理」のように振る舞いますが、法的には人間でも法人でもないため、権利義務の主体(法律上の責任主体)にはなりえません。したがって、AIエージェントの行動によって発生した義務や責任は、最終的にはそのAIを利用する企業や提供する事業者に帰属します。この前提を踏まえ、具体的な法的リスクを見ていきましょう。
個人情報保護とプライバシー
個人情報保護法への対応は、AIエージェント導入企業にとって最優先事項の一つです。AIエージェントが顧客や従業員に関する個人データを扱う場合、従来の人間による業務と同様に、以下のようなルールを遵守しなければなりません。
利用目的の特定・通知
取得した個人情報は利用目的をできるだけ明確に定め、あらかじめ本人に通知または公表する必要があります。
目的外利用の禁止
収集時に特定した目的の範囲を超えて、個人情報を無断で利用してはいけません。
安全管理措置
個人データがAIに入力・処理される場合でも、漏えい防止など適切な安全管理措置を講じる義務があります。
特に外部の生成AIサービス(例: クラウドのAI API)を利用する場合、個人データをそのまま入力すると第三者提供に該当する恐れがあります。2023年には個人情報保護委員会から、生成AIに個人情報を入力する際は必要最小限とし、要配慮個人情報は本人の同意なく含めないよう注意喚起も行われました。
つまり、機微な個人情報や識別子をAIに投入する際には、本人の同意や十分な匿名化措置が不可欠です。自社でAIエージェントを導入する場合、以下の対策が求められます。
①従業員が業務でAIツールを使う際のガイドライン策定(機密情報や個人情報を不用意に入力しない等)
②AIが処理するデータを必要最小限とし、可能な限り匿名加工や仮名化を施す。
③AIエージェント提供ベンダーとの契約で、預託する個人データの取り扱いが法令遵守されるよう取り決める。
知的財産権(著作権等)のリスク
AIエージェントの活用では知的財産権に関するリスクも無視できません。まず、AIが生成する文章・画像・プログラムコードなどのアウトプットに、第三者の著作物や知財が含まれる可能性があります。生成AIは大量の既存データを学習していますが、その中には著作権で保護されたコンテンツも含まれます。
AIエージェントが出力した内容が既存の作品と酷似していた場合、意図せず著作権侵害となるリスクがあります。例えば、AIが生成した文章が他社の文章を一部そのまま含んでしまうケースなどが考えられます。 また、AIエージェントに第三者コンテンツを無断で学習させることもリスクです。
日本の著作権法にはデータ解析のための例外規定がありますが、だからといって他社コンテンツを無制限に利用できるわけではありません。他者のデータや画像を許諾なく大量に取り込めば、著作権侵害に該当する可能性が高いでしょう。 対策として、AIエージェントの導入企業は次の点に留意すべきです。
学習データの管理
学習やチューニングに用いるデータは、権利処理されたものや公的に利用可能なものに限定し、社内や提供元の利用許諾範囲を確認する。
アウトプットのチェック
AIが生成したコンテンツを対外提供したり商品化したりする前に、第三者の権利を侵害していないか確認する。必要に応じて類似性チェックツールを使う。
契約での権利保証
AIエージェントをベンダーから導入する際は、ベンダー側が提供するモデルやデータについて第三者権利侵害がないことの保証条項を契約に盛り込む。自社開発の場合も、データ提供者との契約で権利処理や責任分担を明確化する。
データ利用と不正競争防止
AIエージェントによるデータ収集・利用にも法的な注意点があります。自社や第三者の機密情報・ノウハウの扱いについては、不正競争防止法の規制が関係します。
まず、自社の営業秘密(技術情報や顧客リストなど秘密保持措置を講じた非公開情報)をAIエージェントに入力・学習させる場合、その情報の秘密性が失われてしまうリスクがあります。
外部のAIサービスに自社秘密情報を提供すると、その情報がサービス提供者の手に渡り、秘密管理性が否定されて営業秘密としての法的保護を失う可能性があるためです。個人情報と同様に、自社の機密情報を第三者のAIに投入することは慎重に検討すべきでしょう。
契約上も、ベンダー側に守秘義務やデータの二次利用禁止を明記し、自社データが勝手に再学習等に使われないようにする必要があります。 一方、AIエージェントが外部からデータを取得する際には、他社の営業秘密や限定提供データ(アクセス制限付きデータ)を不適切に取得・使用しないことが重要です。
競合他社の非公開データを無断で学習に使用すれば、違法な営業秘密の取得とみなされるでしょう。また、Webサイトを無断でクローリングすることは、利用規約違反や不正競争防止法違反(限定提供データの不正取得)に問われるリスクがあります。 データ利用に関する対策として、以下を徹底します。
データ入手元の確認
AIエージェントに取り込むデータが合法かつ適切に入手されたものか確認する(公開情報、ライセンス許諾済みデータ等を利用)。
利用規約の遵守
他社サービスやウェブからデータを取得する際は、APIポリシーやサイト利用規約を遵守し、自動取得が禁止されている場合は事前に許諾を得る。
機密情報の管理
社内規程で、第三者の機密情報や個人データを許可なくAIに入力しないことを定め、従業員に周知する。このようにデータ利用のルールを守ることで、AIエージェント活用による情報漏洩や不正取得のリスクを抑えられます。
契約上のリスクと責任
AIエージェントの導入に際しては、契約面でのリスク配分を適切に行うことが重要です。AIエージェントそのものは契約主体になり得ないため、ユーザー企業とAIサービス提供者との間の契約(利用規約やサービス契約)がトラブル発生時のルールを定める軸となります。
まず、AIエージェントに不具合や性能不足があった場合の責任追及についてです。ユーザー側はAIサービス利用規約における免責・責任制限条項に注意が必要です。多くの提供者は「現状有姿」での提供や結果に対する免責を規定しており、AIの判断ミスによる損害についての補償は限定されています。可能であればSLA(サービスレベル合意)などで稼働率や品質保証を取り付け、重大な過失時には賠償責任を負う旨を契約に明記することが望ましいでしょう。
提供者側でも、損害賠償額の上限設定や間接損害の免責を定めるなど契約で責任範囲を明確化します。 次に、AIエージェントによる誤作動や無断の取引行為に関するリスクです。AIが自律的に判断して取引を実行できるため、ユーザーの意図しない発注や契約締結が行われてしまう可能性があります。
法律上、AIによる意思表示も原則としてユーザー本人の行為とみなされるため、後から「AIの誤作動だった」と契約無効を主張するのは難しいケースが多いのです。そのため、高額取引や重要な意思決定をAIに完全自動で任せきりにしない仕組みが必要です。例えば高額取引には人間の承認を必須にする、AIの自動実行範囲に制限をかける等の内部統制が有効です。
また、AIエージェントを提供する事業者側でも、ユーザーがAIを用いて行った行為が社会的に問題となった場合(不正取引など)に備え、「当社はユーザーの代理人ではなく、利用はユーザー自身の責任で行う」といった旨を利用規約で明示しておく必要があります。 契約面のリスクを管理するには、誰がどの範囲で責任を負うかを事前に契約で明確化しておくことが基本です。ベンダー選定時には利用規約の内容をよく確認し、必要に応じて交渉・社内での受容可否判断を行いましょう。提供側も同様に、契約条項を工夫しつつユーザーの信頼を損ねない配慮が必要です。
まとめ
AIエージェントはビジネスに革新をもたらす一方で、個人情報保護、知的財産、契約、責任論など様々な法領域にまたがるリスクを伴います。日本法上、AI自体が責任を負うことはなく、最終的に企業がその行為について法的責任を問われます(重大な場合は刑事罰に発展するリスクもあります)。
経営者はこれらのリスクを正しく理解し、契約面の整備や社内ガバナンス体制の構築によって予防策を講じることが重要です。 幸い、多くのリスクは事前の対策によって軽減・管理することができます。法務担当者と技術担当者が協力し、適切なルール作りと運用管理を行えば、AIエージェントの恩恵を享受しつつ法的トラブルを回避できるでしょう。常に最新の法規制情報にアンテナを張りながら、責任あるAI活用を進めていきましょう。